死体の山で目覚めたモブ兵士、死者の力を奪い最強へ

スケ丸

第一章

第1話 死体の山で、俺だけが目を開けた

気がつくと、全身が異様に重かった。

まぶたを開けようとしたが、何かが乗っている。息苦しい。体がまったく動かない。

(なんだこれ……? どこだ……?)


鼻の奥に、鉄と腐敗の混ざったような強烈な臭いが入り込んできた。

ようやく薄目を開けた俺の視界に飛び込んできたのは——


「……う、うわッ!?」


……人の顔だった。

いや、正確には、人の“死んだ顔”だ。

青白く膨れ上がり、口から泡のような血を垂らした男の死体が、俺の腹の上に重なっている。


(ちょ、ちょっと待て! なんだこれ!?)


慌てて起き上がろうとして——気づいた。

周囲を見渡すと、俺の周りは見渡す限り“死体”だった。

それもただの死体じゃない。鎧をまとった兵士、冒険者風の女、見るも無残な斬られ方をした子供の死体すらある。

まるで……ここは、「死体置き場」だ。


(俺、死んでないよな……?)


首を動かす。腕が動く。心臓も動いてる。つまり、生きてる。


「生きてる……のか……」


自分の声に驚いた。

口から出たのは、間違いなく“知らない声”だった。若くもなく、老いてもなく。感情の抜けた乾いた声。


自分の手を見る。血まみれの手。右手の薬指が第一関節から折れていて、骨が覗いている。


(うわっ……これ、俺の手?)


血にまみれた粗末な革の鎧。

腹に傷がある。浅いが、切られている。

足元には剣。いや、刃こぼれした、ほとんど“鉄の棒”みたいなクズ武器だ。

そして腕にぶら下がった、名札のような布きれに文字が書かれていた。


【第三小隊・雑兵 ネフ=アシュトン】


(ネフ……アシュトン? 誰だそれ)


考えるまでもない。

これは、“俺の名前”ではない。

俺は確か……現代日本で生きていた。ただのサラリーマンだったはずだ。


駅のホームで何かが光って——

そのあと何も思い出せない。


(もしかして……これ、転生ってやつか?)


よくある異世界転生モノ? なろう系?

いやいや、だとしたらもっとこう……お姫様に介抱されるとか、王様に歓迎されるとか、もっと“まともなスタート”があるだろ。

なんでよりによって、“死体の山の中”なんだよ!


「……うぐっ……!」


頭が割れそうに痛む。

脳の奥が焼けるような衝撃と共に、知らない記憶が流れ込んでくる。

それは——この体の元の持ち主、「ネフ=アシュトン」の記憶。


貧民街で育ち、徴兵され、盾にもなれないほど虚弱で、まともに剣も振れない。

敵の前に出る前に“味方の誤射”で倒れた、どうしようもないモブ中のモブ。


(……終わってるじゃん、この人生)


だが、死んでない。

そして——俺の“中身”は、すでに別の存在になっている。

この世界の理屈がどうなっているかは分からない。けれど、“生き残っている”ということが、今の俺にとって唯一の救いだ。


ふと、耳を澄ますと、遠くから足音が聞こえた。


(やばい、誰か来る……!)


慌てて死体のフリをする。

再び、目を閉じて、口から微かに血を流すように唇を噛んだ。

何者かが、こちらに近づいてくる。


「……ああ、まだ片付いてなかったか」

「もう面倒くさいな。全部燃やすか?」


二人組の男の声。兵士か、処理班か。


(燃やす!? 待て、マジでやばい!)


「こいつら全部、疫病の原因になるんだよな。上からは“処理”って言われてる」

「マジかよ。せっかく休憩かと思ったのに……」

「燃やすぞー! 火薬持ってこい!」


(ちょ、おいおいおい! 燃やされるって! 生きてんのに!)


死んだふりをやめて逃げようかと身を起こしかけた瞬間、

「ちょっと待て。こいつ……かすかに、息してないか?」


……ばれた。


「うえっ!? マジかよ、生きてんのか!?」

「てめぇ、生きてるのか!? 返事しろ!」

「お、おう……たぶん、生きてる……」


ごまかしようがない。

俺は震えながら、ぼろぼろの体で立ち上がった。兵士たちは困惑していた。


「どうする? 一応連れてくか?」

「いや、でももう部隊は壊滅だろ? あいつ、置いといたほうが楽だぞ」

「……まぁ、一応、連れてくだけ連れてくか。報告した方が金になりそうだし」


そんな軽いノリで、俺は死体の山から引きずり出された。

そして分かったのだ。

——この世界は、戦争真っ只中だということ。

——そして俺は、戦う力も魔法も持たない、最底辺の“雑兵”だということ。


(それでも、生き残ってやる……!)


この絶望の淵で、誰にも見向きもされないモブ兵士として死んでいくはずだった俺が——

だが今、ここから這い上がる道を探し始めた。

誰にも期待されず、名前すら知られない存在でも、

いつか必ず、誰よりも強く、そして尊敬される“存在”になるために。

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