第07話 宅配 ─5mmの密命便─

 翌日。

 今度は仕掛の仕込みに5人が出掛ける事になった。


「新人に足引っ張られたらプロジェクト自体が頓挫するから、あんた留守番ね」


「戦闘」担当のノヴァが無下に言った。


「一度は彼も見ていたほうが良くない?」


 そう進言した「通信」担当のテスに、


「本番じゃないんだし、修理屋にする仕事なんてないわよ」


 と、きっぱり否定した。


 基本的にフィールドチームの3人が表で動く。バッグサポートチームはその動きが潤滑になるようにサポートするだけなので、用がなければ留守番もやむを得なかった。


「とりあえず、アイテムだけ作っといて」


 そう言って「制御」担当のジャスから、現場で必要なアイテムの手書きリストを手渡された。


「部品の調達はどうなりますか」


 トミーの質問に、「リーダー」のアドが答えた。


「今日、空調ユニットと共に『手渡し』で届くから」


 その言葉にトミーは


(連絡するならそのときか)


 と、内心感じながらも質問を続けた。


「不足分があればその時に言っても良いですか」


 そう言うとジャスが軽く笑った。


「作ってみなきゃ分からないだろう」


 そう言われトミーは黙った。下手に反論して疑られるのは御免だったからだ。様子を見ていた「IT」担当のジークが助け船を出した。


「言えばいいよ。部品が足りなくて、動かない不良品渡されてもたまらないしな」


 するとテスが、


「そのときはガラクタで、またトミーがなおすよ」


 とジークを見て笑った。トミーも薄く笑みを浮かべた。


 なんの問題もないチームだと思っていた。思いたかった。だが、この中にいる「裏切り者」の問題は解決しなければならなかった。


 そう考えると心は重く、思わずため息を漏らした。それを皆は見逃さなかった。


「当日は全員で動く。トミーもそのつもりでいてくれ」


 アドの言葉にトミーは「はい」と短く答えた。


 ◇


 静かなアジトの空間に、微かに電子ノイズが走る。Wi-Fiは封鎖されているが、機器間通信や外部メモリのポートから漏れる「気配」は残っている。


 トミーは使い古されたタブレットに自作のプログラムを走らせた。昨日のデータをSDに移しながら考えていた。


 この部屋に、裏切り者がいる。

 その者が、データを流した。

 ならば──自分が暴くしかない。


 カチリ。

 モニターの端末に、暗号化されたコマンドラインが一行だけ浮かび上がる。


《灰灯ダウンロード1:発信元、アジト内部》


 トミーは息を止めた。

 夕べ、囮のデータに仕込んだ追跡プログラム──通称灰灯がDLされた。誰かが内部データを盗み、それを外部に流した事実が決定的になった。


 ──裏切り者がいる。


 脳裏でその言葉が、静かに形を持ち始める。吐き気がするほど不快な感覚が全身を覆ってきた。


「……マジかよ」


 トミーは全身から力が抜けて行くのを感じた。だが、迷いは命取りになる。


「USBのアクセスログ……それを調べないと……」


 そう考えていたとき、いきなり部屋の呼び出し音が鳴り渡った。


 ◇


 ドキリと身体が硬直するのと同時に、部屋に声が響いた。


「宅配便のお届けです」


 そとの様子を映し出すモニターには宅配業者らしい若い男が立っていた。


 トミーが中からロックを外し、ドアを開けるとその男は、


「こちらが荷物です」


 とトミーに手に持った荷物を差し出した。


「いま確認するから、そこで待っててくれる?」


 トミーがそう伝えると、男は


「はい、わかりました」


 と短く答え、その場にじっと立って待っていた。

 トミーは中身を出し、机に並べたあと、メモを書き始めた。

 やがてそれを封筒に入れて男に渡した。


「これだけ、追加で頼める?」 


 男は黙って受け取ると封筒の中からメモを取り出した。同時に、その中にあったSDにも気がついた。それは先ほどトミーが複製したものだった。


 しかし男は黙ってリストに目を落とした。やがて、


「わかりました。では、ありがとうございました」


 愛想笑いを浮かべ、封筒をかばんに入れると、顔を軽く下げ、去って行った。


 人の良さそうな男に見えた。だがそんな彼でも、何事も動じず対応出来る支局の人間なのだ。


(俺……このまま人間不信になりそう……)


 そう思うとまた落ち込んでしまうトミーだった。



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