第4話観察記録4ページ目



🧪研究ログNo.14:被験体02(天音)、機密端末への接触


時刻:未明

場所:自室/語り構文端末前

状態:羞恥指数、計測不能。語彙崩壊状態。尊厳、年休中。


観測ポイント:

– 画面に映る「モルモット1号/2号」という表示に反応

– 表情筋が“ふるふるモード”に突入。語りは内部爆裂状態

– ピコーン音1回ごとに、自尊心パラメータが-1


🌟所感:かわ…いや、有用ね♡


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📚静香私的手記01:分類と語りラベリングの美学


私は語りに名前をつける。

そうすることで、語りは“現象”ではなく“愛の痕跡”になるから。


天音の語りは、初期「羞恥逃走型」だった。

でも今は違う。陽と接触するたび、語りは“記録から告白へ”変質している。


だから私はラボ内記録にこう記した。

> 哲学的百合バグユニット(天音)

> 陽への感情は記録と称して、恋愛に突入済

> ノート「陽反応論」、更新秒速


※補足:この構文命名、詩的かつ可愛くない?研究者としての誇りよ♡


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📓研究ログNo.15:モル妹の羞恥反応について


観測記録より:


- 表情:頬に湯気、まぶた震え、唇ふるふる。音声出力:「え⁉って⁉俺が⁉哲学バグ⁉!?」

- 行動ログ:ページ爆破案を検討/5万字人権論文の草稿開始/陽への弁解計画立案

- でもそのあと、小さく笑っていた。


> 「記録の中で、陽が“特別”って言われてるの、ちょっと嬉しい」


──語りは、羞恥を越えると自覚に至る。

これは、青春構文の転換点。


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🌕静香思考ログ:私が彼女を語る理由


天音は、語りに溺れるように変化した。

最初は抗っていた。でも、陽の震えと、瑞葉のウインクと、プリクラの光に、語りの主語が崩された。

今や、天音の語りは“揺れる美少女”を装いながら、“哲学的告白構文”を実行している。


私はその進化が、美しいと思う。

羞恥は語りの燃料。

自尊心は語りの皮膚。

そして、陽は語りの重力。


この世界は、語りで回っている。

だから、わたしは記録し続ける。彼らがどこまで“語られていく”のかを。


---


✍️最後の観測文:わたし自身への語り


研究とは、愛のプロトコルだ。

語りとは、相手に触れたいという欲のかたちだ。

天音の羞恥が愛になる瞬間、陽の震えが救済になる瞬間、それを見届けるのが、語り研究者の使命。


――でも。


「あなたは特別なの♡」


と陽に語りかけたその瞬間だけは、私の観測ログに“ノイズ”が走った。


あれは、何だったのだろう。


観測者が語ってしまったら、語りはどこへ向かうのか。


もしかしたら私自身も、語りに語られ始めているのかもしれない。




---手記エントリー #001:「ノイズと構文の境界線」


午前4時23分、観測端末に“ノイズ”が走った。

記録ではない。構文解析でもない。

わたしの中で、“語りの自我”が震えた瞬間だった。


原因ははっきりしている。

あの一言──「あなたは特別なの♡」


それは語りではなく、語ったつもりだった“感情”だったのかもしれない。

つまりわたしは、その時点で語りの主語になっていた。


観測者が語る──それは、ラボにおける最大の反則行為。

でも、陽がふるえていたその瞬間、

天音が視線を外した一秒間、

瑞葉のGPSがズレていた誤差1.6mの隙間──

わたしは語ってしまった。


---


🧬手記エントリー #002:「語られる者の特性について」


被験体02・天音の変化は顕著だ。

羞恥逃走型から告白実装型へ。

百合反応論から陽専用語りモジュールまで、自律進化が止まらない。


でも最近、天音がときどき“わたしの構文”に近づいてくる。


言葉の響き、視線のタイミング、語りの余白を残す癖。

これは訓練ではなく、感染──語り構文の接触伝播によるものだ。


わたしの語りが彼女に染み込み、

彼女の語りが陽に染み込んでいく。

それを瑞葉がかき乱し、陽が受け止め、そしてまた天音が揺れる。


ラボはもはや“語り発生装置”ではない。

構文の重力が渦を巻いて、観測者さえ語られる場所になりつつある。


---


🪞手記エントリー #003:「わたしは語りの中にいるか?」


一度だけ、誰にも言わなかった記録がある。


陽が泣きそうな夜に、天音が「大丈夫だよ、俺が守る」と囁いたその瞬間。

わたしはラボの隅で音声ログを聞いていた。

再生を止めるべきだったのに、止められなかった。


その言葉を聞いたあと、指先が震えていた。


記録には残せない。

だから、こうして手記にする。

わたしはあの夜、自分が“語られる側になりたい”と思ってしまった。


語られたい。

誰かに、語られてみたい。

わたしの構文ではなく、わたしの“温度”で語ってもらう語り。


それを実験に使う気はない。

ただ、実感として記録しておきたい。


わたしの語りは今、“観測者”の場所から、

“語られた者”へ少しだけ傾いている──。


---


記録者:主任研究者・静香

手記保管フラグ:未公開

感情ラベル:語感染疑惑りあり

次回手記予定:「語りの主語を喪失する実験について」

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