第三京浜編・6・Satisfaction
バトルは、最終局面へと入る。ゴールは、戸塚IC。
羅刹輪は、戸塚ICへと向かう最後の直線で、自身の持つ全ての怨念を込めた、最後の加速を仕掛けてきた。その姿は、まるで魂を燃やし尽くす炎のようだった。
陽介は、羅刹輪が放つ精神干渉に耐えながら、RX-3のアクセルをさらに踏み込む。20Bロータリーは、まるで最後の力を振り絞るかのように、甲高いスクリームを響かせながら、回転数を上げていく。
羅刹輪の幻影が陽介の視界を覆う。「破滅」と「栄光」が混じり合った、「彼」の理想が押し寄せる。
「俺は、お前と同じにはならない!」
陽介は叫んだ。彼は、強さを求めるが、それは死へ向かう強さではない。生きるための、そして護るための強さだ。羅刹輪の速度をRX-3が凌駕する。
RX-3はETCのバーをへしおりつつ、戸塚インターの料金所を通過した。
羅刹輪は、最後の咆哮を上げた。それは、敗北の叫びでありながら、どこか「目的を達成した」ような、不思議な安堵の響きを含んでいた。あいつの怨念は、彼がその身をもって果たせなかった「純粋な速さでの勝負」に、ついに敗れたのだ。その瞬間、羅刹輪の霊体は光の粒子となって拡散し、夜空へと昇っていった。それは、最高速に囚われた魂が、ようやく安寧を得た瞬間だった。
陽介は、停車したRX-3のステアリングを握りしめたまま、大きく息を吐いた。彼の全身は汗でびっしょり濡れている。
朽木が陽介の肩を叩く。
「ふむ……見事な走りだった、陽介。あの男も、ようやく安らかに眠れるだろう」
朽木は、疲労の色を浮かべながらも、満足げに微笑んだ。夜織がバイクを停め、静かに二人の勝利を見守っていた。
「スピードに酔いしれる気持ちも、わかるきがしんすね」
後日、小机城址公園の巨木には、以前よりもさらに精巧で美しいレースで編まれたような夜織の「巣」が再建されていた。朽木は、車椅子に座りながら、その光景を静かに見上げている。
「……不思議なものだな」
彼は呟いた。半妖である夜織が、人間と共に戦い、そして自然の中で生きる姿。それは、彼がこれまで見てきた妖怪の常識とはかけ離れたものだった。
黒い、しかし清楚な印象のワンピースを纏った夜織が、巨木から降りてくる。朽木の隣にくると、静かに言った。
「ありがとう、朽木さん。ぬしさんのおかげで、またゆっくりくつろげるようになりんした。」
朽木は、夜織の言葉に、かすかに微笑んだ。今回の戦いで、彼の中に新たな絆が芽生えたことを感じていた。
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