第26話 俺、頑張ったよな
変な感覚だ。
目の前のモンスターが今にも消えそうで、どんどん時間がなくなると感じてる。
なのに、もう何時間も援軍を待ち続けているような、時が動いていない様な感覚もある。
完全に矛盾する気持ちが、頭に中と胸の辺りでグルグル回っており、今にも吐きそうだ。
ワァァァッて叫んでここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
俺は英雄じゃ無いし、英雄に憧れたのだって何十年も昔の話だ。
黒鬼さんと白梅さんの顔が浮かぶ。
黒鬼さんは助けに来るって言っていた。
なんの取り柄もない、学生の頃諦めて前に進まなかった俺が、ここで逃げたらもう戻ってこれない。
根拠はないが自分の事だから、確信してる。
「ふぐぅ」
情けないが涙が出て来た。
緊張と恐怖でいい歳したオッサンが泣いている。
人に見せられる姿じゃない。
〈大井さん! 頑張りました! もういいです! 逃げて下さい!〉
「は、氾濫って、上の層に上がれば上がるほど、周囲のモンスター巻き込んで鎮圧難しくなるんでしょ!」
ここは五三十層、しかも出てくるモンスターは七百層以降のも出て来てる。
俺がここで逃げたら、ダンジョンからコイツらが溢れ出す。
氾濫被害はその周辺に何年も人が住めなくなる甚大災害だ。
「も、もう少し頑張ってみます……」
その時、ゲートから絶望が現れた。
明らかに今までと違う風格。
姿を現した瞬間色めき立つゴブリン達。
「あ、あ、あ……」
声が出ない。
〈大井さん! 逃げて! レッドキャップエンペラーよ! 逃げて! 貴方じゃ太刀打ち出来ない!〉
俺はヒーローじゃない。
ヒーローじゃないんだ!
憧れたのなんて昔だ。
高校で心が折れた時から、ただのしょぼくれたオッサンになるまで、ヒーローになんかなりたいと思った事なんか無い!
「ア、アヤさん……タイムボカンシリーズって知ってますか? ウルトラマンは? 仮面ライダーやナントカ戦隊ってのもいっぱいあったなぁ……」
〈どうしたんですか? 今はそんな事より逃げて下さい!〉
「知ってますか? アトムって地球のために太陽に突っ込むんですよ」
〈何を言ってるんですか?〉
「俺はね、俺は……ヒーローになりたかった! なりたかったんです!」
〈貴方はヒーローじゃ無いです! いいから逃げて下さい!〉
「俺のステータスって見せましたっけ?」
〈いえ、見てないです〉
「未覚醒のスキル一個あったんです……それがこのタイミングで覚醒しました」
〈そんな事いいから早く逃げて〉
「これがダメだったら逃げます! 最後にこれを試させて下さい! スキル『ガシャ髑髏』お前たち!俺の所に来い!」
デッドコピーで増えたアンデッド達が俺の周りに集まり始める。
それが徐々に巨大なスケルトンの形になっていく。
肋骨の中に心臓の様なものが出来、俺はその中へと押し込まれる。
感覚が一つとなり、俺の主観ではガシャ髑髏の目が俺の目となり、腕が俺の腕となる。
こんな事なら、格闘技のスキルくらい持っておくべきだった。
「ウォォォォォォン」
なんだろうな、気分は逃げちゃダメだって連呼するアニメの主人公みたいだよ!
途中にいるゴブリンは無視してエンペラーに殴りかかる。
「ゴガァァ!」
一吼えすると、俺の拳を手のひらで受け止めた。
だが、こっちはアンデッドだ!
普通の戦闘をする必要はない。
自ら捕まった方の腕を手首から折り、上手いこと尖った手首でエンペラーの喉元を突き刺す。
しかし、こんな戦闘なんかした事ないせいで首元に刺さったものの、まだ浅い。
仕方がない。
再度肘から折り、その刺さった腕を左手で思い切り叩きつける。
倒した!
エンペラーがゆっくりと倒れた時、その後ろのゲートからもう一体のエンペラーが出てくるのが見えた。
『エンペラーって一体しか居ないもんじゃ無いのかよ!』
声にならない声で思わずツッコンじまったよ。
だがまだゲートから出て来てない!
「ウォォォォォォン」
左手を手刀の様にし、エンペラーの目に向かって一突き……。
……
……
……
時間切れだった。
デッドコピーで増やした分がサラサラと崩れていく。
そして、通常に数ではガシャ髑髏を維持できず、俺は心臓の様な部分から弾き出された。
終わった。
黒鬼さんが来るにはまだ時間が足りない。
もの凄くゆっくりとゲートからレッドキャップエンペラーが出てくる。
いや、ゆっくりと感じただけなんだろうな。
そして、奴の持ってるバカでかい王笏が俺の顔面へと振り下ろされた。
俺、最後に頑張ったよな。
そう思えるだけ……まぁ、悪くない人生だったよ。
……
……
……
「……」
「何してるの? 早く起きなさい!」
「あれ? 白梅さん? と誰?」
「ウチの蓮華と桔梗よ」
「あ、初めまして」
「いいから早く退けて! エンペラーを殺せないじゃ無い!」
「はい! すいません! あの? でもどうしてこんなに早く来れたんですか?」
「白梅のねぇさん、貴方がモンスターハウスに入るって言った辺りから、もうこっちに向かってたのよ」
「前回、危ない目に合わせたってめっちゃ凹んでたかららね、手助けするつもりだったみたい」
「二人とも、さっさと掃討しなさい!」
「「はーい」」
助かったぁ。
やっぱりオッサンじゃぁ、締まらないな。
「貴方!」
「はい!」
「立派にヒーローしてたわよ」
はは、心読まれたかな?
【後書き】
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