スキル『粗製濫造』持ちのオッサン、齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【おっさんデビューシリーズ第二弾】
山親爺大将
第1話 スキル確定検査
この世界ではダンジョンが当たり前になった。
日本も普通にダンジョンがあり、全ての人間がパーソナルスキルと呼ばれる特殊な技能を持つ事が出来た。
高校生二年生になる時に、最初に行われるのがパーソナルスキル確定検査だ。
生まれた月による格差を無くすため、確実に全員がスキルを獲得している二年の始業式後に行われる。
俺にとって運命の分かれ道だ。
スキル認定後、希望者は申請すれば誰でも『学生探索者』になれるのだが、事実上この時のスキルでほぼ決定してしまう。
戦闘系スキルか一部の特殊スキルじゃないとダンジョンに行っても活躍できないからだ。
「次! 大井くん」
「はい」
体育館に集められ、バーコードリーダーみたいな機械から出る光を手のひらに照射される。
原理は不明だけど、たったコレだけでスキルが分かるらしい。
「はい、向こうで結果の用紙受け取って」
この機械で分かった事はパソコンに入力され、プリントアウトされて渡される。
その用紙に書かれているスキル名は4文字あった。
やった! 奇跡だ! 勝ち組だ!
スキルは文字数が多いほど効果が強く、レア度も高い。
だいたい、一文字が五割、二文字が四割、三文字が残りの一割程度、その端数のわずか数%しか四文字以上にならない。
鍛錬して文字数が多いスキルに成長させることもできるが、最初から多い方がもちろん有利だ。
ー スキル確定報告書 ー
パーソナルスキル 『
効果 その一 クリエイト系のスキル使用時の消費MPが九十%軽減される。
その二 自身がクリエイトした物の所持制限が十倍になる。
その三 クリエイトされたもののスペックが九十%低下する。
一行目を読んだ瞬間、俺は息を呑んだ。
これは超当たりだ。
二行目を読み、思わず拳を握る。
勝ち組だ! 勝ち組確定だ!
三行目で目の前が真っ暗になった。
……え!?
スペック九十%低下……てことは性能が十%しか発揮出来ない。
ツ・カ・イ・モ・ノ・ニ・ナ・ラ・ナ・イ。
十分の一でも十回当てれば良いじゃないかと思うかもしれないがそうはいかない。
世の中のは防御力という概念はある。
攻撃が二十として、防御が一だったする。
通るダメージは十九だ。
コレが攻撃が二なら、通るダメージは一。
十回攻撃したところで、十にしかならない。
防御力が二だったらもう終わり。
0はどんなに積み重ねても0にしかならない。
詰んだ……。
「なんだ大井! ゴミスキルじゃねぇか!」
スクールカースト上位の男子にそう揶揄われた時に俺のダンジョンデビューの夢は崩れた。
ポッキリと心が折れてしまったんだ。
……
……
……
あれから三十四年。
俺はうだつの上がらない窓際社員として、ボーナスもまともに出ない三流企業の底辺社員になっていた。
今でも夢に見る。
そこでは自分は一端の探索者としてダンジョンで誰かに指示を出していた。
だいたいがいざ戦闘ってところで目が覚める。
未練がましいと思いつつも、ついつい『探索者論』やら『探索者で成功する十の秘訣』なんていう動画を見てしまう。
もしかしたら、このスキルでも、なんとかなるんじゃ無いだろうか?
そう思い、スキルの効果を再確認して諦める。
会社で嫌なことがある度にそんな事を繰り返していた。
結局何もせずに時間だけが過ぎていった。
そんないつもと変わらないだずだったある日、ボロいアパートに戻ると郵便受けに派手な色使いのハガキが入っていた。
「パチンコ屋の宣伝か?」
思わず独り言を言いながら、ハガキを手に取る。
『探索者デビューキャンペーン!』
ダンジョンの管理団体の探索者協会、通称『ギルド』からのデビューのお誘いのハガキだった。
あー、そういえば数年前に『第二次ダンジョンクリエイト現象』とかで急激にダンジョンが増えて、今探索者が足りないんだっけ。
俺も、もう人生の折り返し地点は過ぎた。
もし探索者をやるとしたら、体力的にギリギリだと思う。
今諦めて、十年後やっぱりやりたいと思っても、出来ないで諦める未来しか想像出来ない。
『やるなら今しかねぇ! やるなら今しかねぇ!』
昔聞いた歌の歌詞が頭の中でリフレインする。
「まだ、間に合う時間か……」
俺は最寄りダンジョンの『札幌市清田区第四ダンジョン』に向かうことにした。
ー 札幌市清田区第四ダンジョン ー
うわぁ、めちゃくちゃ山奥だな……。
清田区は(良く言えば)自然豊かな地区だが、ここは豊かどころか、自然しか無いな。
キャンプ場とかも通り過ぎて途中に滝とかあったし。
そんな場所に少し拓けた場所にプレハブの小屋がポツンと建っていた。
「あのう……探索者になりたいんですが……」
「カァァァ〜……カァァァ〜」
小屋に入ると、そこには大きな口を開けて寝ている女の子がいた。
赤に近い茶色のポニーテールで、全体的にちょっと丸みを帯びた印象を与える女の子で昔見たアニメのアクビをすると瓶から出てくる女の子を彷彿させる子だった。
「すいませーん!」
「ひゃ、ひゃい!」
「探索者になりたいんですけど」
「え! あ、マジすか! うわぁぁ!」
女の子がドシーンという音を立ててイスから転げ落ちてる。
寝ぼけながら慌てて立とうとするから……
「大丈夫ですか?」
「うみゅ〜大丈夫です〜」
「それで、探索者になりたいんですが」
「あ! はいはいはい! ありがとうございます! 助かりますー」
「あの、俺……私みたいな年齢でもなって大丈夫でしょうか?」
「それはもう、ダンジョンの中ではステータスとスキルが大事ですから! 年齢とか周りの目を気にしなければ大丈夫ですよ!」
「あ、やっぱり、奇異な目で見られます?」
「ウチに限って言えば不人気ダンジョンで誰も来ないから問題ないですよ! いっそ専属契約しましょ! そうしましょ」
「専属契約?」
「基本的にこのダンジョンのみで活動する契約ですね! あ! と言っても簡単な申請で他のダンジョンにも入れますから心配ないですよ!」
「それって、何かメリットあるんですか?」
「私がめっちゃサポートします!」
「色々相談にのってくれるんですか?」
「はい! それどころか初日は一緒にダンジョン潜ってチュートリアル的なサポートもしますよ」
「それはありがたいな、それでお願いします」
ダンジョンに関しては素人過ぎて不安だったから、本気でありがたい。
「おお! ありがとうございます! 早速スキル見せてもらって良いですか?」
そう言って彼女は昔体験した、あのバーコードリーダーみたいので俺を検査しだした。
「……どうですか?」
「おお! 凄いじゃないですか! 四文字スキルじゃないですか!」
「ええ……でも、デメリットがひど過ぎて……」
「むむむ、確かにデメリットが厳しいですが……うーむ、ひらめいた!」
「何か良い案ありました?」
「はい! 任せてください! プロですから! 良いジョブの組み合わせ思いつきました!えーっと、コレとコレとコレ! 申請出したので明日からダンジョン潜れますよ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「はい、ジョブの代金は全部で八百万円ですね」
「…………え?」
「え!?」
「探索者になるのにそんなにお金かかるんですか?」
「あなたにピッタリのジョブ用意しましたから」
「あの、そんなにかかるって知らなくて……お金持ってないんですが……」
「あ、大丈夫ですよ」
「え!?」
「ダンジョンで獲得した成果物の一割を手数料でいただくのですが、それを二割にして差額を返済にあてていただいて、実質代金を払わずに探索者になれます!」
「そんな事出来るんですか!」
「はい、これも専属契約された方の特典です!」
借金でダンジョンに縛られた借金奴隷という言葉が頭に浮かんだが、意識的スルーした。
「じゃあ、明日会社に辞表出して、有給消化使って明後日から毎週末来るようにします」
「はい、了解しました! よろしくお願いします!」
「ああ! そうだ! ジョブが何か聞いてなかった! 俺にピッタリなジョブってなんだったですか?」
「ネクロマンサーです!」
「……へ?」
「ネクロマンサーです!」
一抹の不安が俺を襲ったが、大丈夫!
これだけ明るく優しい女の子がわざわざ選んでくれたんだ。
問題あるわけないじゃないか。
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