【結婚式当日 鳳院シズル視点】

 扉の向こうから、柔らかな音楽が流れていました。

 今日という日のために選んだ旋律――ユウさんと一緒に、何度も試聴して決めた曲ですわ。


 控室の鏡の前、白いドレスを纏ったユウさんが立っています。

 けれど、その表情は緊張と戸惑いが入り混じっていて。


「……似合ってるかな」

「ええ、とびきり」


 そう答えながら、わたくしは彼女の手を握りました。


「わたくしの誇りですわ、ユウさん」


 扉が開く。


 参列者の視線が一斉に注がれました。

 でも、ユウさんは一歩も引かず、わたくしの隣を歩いてくれる。


 それだけで胸が満ちていくのを感じました。

 祭壇の前で、司祭が誓いの言葉を告げます。


「汝、鳳院静流は――」

「はい、誓いますわ」


 答えながら、ユウさんの瞳だけを見つめる。

 次は、彼女の番。


「汝、天城悠は――」


 一瞬、彼女の声が震えました。

 けれどすぐに、まっすぐな笑顔に変わる。


「はい……誓います」


 拍手と祝福のざわめきが広がる中、わたくしはそっとユウさんの頬を包みました。

 触れた瞬間、彼女の瞳が潤む。


「……泣くのはまだ早いですわ。これから何十年も、ご一緒するのですから」

「……うん」


 誓いのキス。

 唇が触れた瞬間、会場が一層の拍手に包まれました。

 音も光も温かさも――全部が、わたくしたちの未来を祝福してくれているようでした。


 指先に触れる結婚指輪の冷たさが、少しずつ体温で温まっていく。

 それは、これからの日々も同じ。

 わたくしたちは互いの温もりで、どんな季節も越えていけるのですわ。


「……これからも、よろしくお願いします、シズル」

「ええ。わたくしだけのユウさん」


 その言葉と笑顔を胸に刻み、わたくし達は新しい人生へと歩き出しました。

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