2 人生大逆転、その第一歩


『食べる』という行為が、俺のレベルアップに直結する――。


 この【暴食の覇者ベルゼール】というスキルは、俺にとってまさに福音だった。


 破滅エンドが確定している最悪の運命も、この力さえあれば覆せるかもしれない。


 何よりも、食べれば食べるだけ自分の能力が上がっていく――その実感が嬉しかった。


 ちなみに、先ほど食事を終えたけど、あれはどうやら朝食だったらしい。


 そう、あの凄まじい量は『ガロン・アルガローダ』にとってはごく普通の朝食だったのだ。


 まったく、前世の俺もデブだったし、平均よりはかなり食うほうだったけど、ガロンはレベルが違う。


 恐ろしいほどの上級デブだ。




 時間になり、俺は馬車に乗って登校した。


 物語のメイン舞台であり、メインタイトルにもなっているメルトノール魔法学園――。


 ここは貴族の子女が魔法を学ぶための場所だ。


 たまに特待生として平民も混じっているけど、生徒の大部分は貴族だった。


 もちろん、前世がサラリーマンの俺に魔法のことなどさっぱり分からない。


 けれど、不思議なことに、授業で専門的な単語が出てくると、その意味や概念が自然と頭に浮かんできた。


 どうやら、元のガロンが持っていた知識を引き継いでいるらしい。


 これは本当に助かる。


 ただ、その知識をもってしても、授業についていくのは大変だった。


 ゲーム本編でもガロンは劣等生だったからな。


 俺は授業内容を半分くらい理解するのが精一杯だった。


 ――そうして午前の授業をなんとか乗り切り、待ちに待った昼休みがやってきた。


 ぐううううっ。


 腹の虫が盛大な音を立てる。


 朝にあれだけ食べたというのに、もう空腹でたまらない。


「よし、学食に行くぞ!」




 学食の食事はバイキング形式になっていて、ずらりと並んだ料理はどれもこれも美味そうだ。


 俺は大きな皿を手に取り、片っ端から料理を盛り付けていく。


 各種の揚げ物、ローストチキン、ビーフシチュー、山盛りのパスタ、色とりどりのサラダ――。


「さすがは貴族の学園。どれもこれも美味そうだ」


 皿を満杯にしたところで、俺はホクホク顔で席に着いた。

 と、


「えっ、うそ……あれ全部食べるの……?」

「すごい量……ちょっと、近寄らないでおきましょう」


 近くにいた女子生徒たちが、俺を見て離れていく。


 ……たぶん俺の食事量にドン引きしたんだろう。


 デブはつらいぜ。


 ま、それはそれとして腹が減ったので、この山盛りのメニューを食うことにしよう。


「いただきまーす!」


 まずチキンにかぶりついた。


 口の中にジューシーな肉汁が広がっていく――美味い!


 さらに揚げ物を、パスタを、サラダを――次々に口に運んでいく。


 どれもこれも絶品だ。


 学食だと侮っていたけど、はっきり言って高級レストラン並みの味じゃないか、これ!


 あれだけ大量にあった料理を、俺は気が付けば完食していた。


 ぴろり~ん!


 脳内に例の効果音が響く。




『スキル【暴食の覇者ベルゼール】が発動しました』

『学食の特製ローストチキンを食したことで、筋力値が0.01上昇します』

『秘伝のビーフシチューを食したことで、魔力値が0.01上昇します』

『絶品の揚げ物を――』

(以下略)




 よし、またちょっとステータスアップしたぞ。


 地道に、地道に……だよな。


 と自分に言い聞かせた、そのときだった。


「おい見ろよ、豚伯爵のお出ましだぜ。あんなのが同じ貴族だと思うと虫唾が走るな」

「ははは、今日も盛大に餌の時間か? お前のその体重で、椅子が壊れるんじゃないのか?」

「まったく醜い豚が、俺たち人間様と同じ食堂に来るんじゃない。目障りだ」


 聞こえよがしに浴びせられる嘲笑と罵声。


 さすがにカチンと来て、俺は声のした方をにらみつける。


 そこにはニヤついた男子生徒たちが立っていた。


 数は全部で五人。


「なんだよ、その目は?」

「俺たちに何か文句でもあるってのか、ああ?」


 彼らがやって来て、俺のテーブルを取り囲む。


 ――やれやれ、貴族というよりただのチンピラだな。


 俺は内心で呆れ返った。


 しかし、状況としては最悪だ。


 五対一か……。


 ガロンは悪役といっても、戦闘能力はごく低かったはずだ。


 ケンカになれば勝ち目はないだろう。


 けど、ここで引き下がるわけにはいかない。


 俺はニヤリと笑って彼らに告げた。


「悪いが、食事が終わるまで待っていてくれないか」

「はあ? こんな状況でまだ食うのかよ」

「信じられねえ。本当にこいつは豚なんだな」

「まあ、いいだろう。食い終わったら、その豚みたいな顔をボコボコにしてやるからな」


 彼らは俺を馬鹿にしきった様子で言い放った。


 ――よし、これでさらなるステータスアップができるぞ。


 俺はふたたび皿に山盛りの料理をよそい、食べ始めた。


 ぴろりーん! ぴろりーん!


 脳内で鳴り響くステータスアップ音。


 最後のスープを飲み干し、俺はゆっくりと立ち上がった。


「ごちそうさま。さて、と……」


 チンピラ貴族たちに向き直り、不敵な笑みを浮かべる俺。


「俺に食う時間を与えたことが、お前たちの敗因だ」


 さあ、お待ちかねの断罪タイムだ。


「どれくらい強くなっているのか、イマイチ実感が湧かなかったからな……ちょうどいい。お前らで試させてもらうとしよう」






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