今宵は悪夢をみる

作者不肖

序章

偽物は、本物の夢を見るのだろうか?



 その日はやけに静かで、気味の悪い夜だったことを覚えている。


ふくろうの鳴き声も、虫の鳴き声も、全てが静けさの中に飲み込まれてしまったかのような闇の中で、掠れた声が響き渡る。


 ____「"にいちゃん"」


 呼んでいる…呼んでいる…私に向かって、助けを求める声が。


 _「"にいちゃんなら、分かってくれる…よね!そうだよね……?"」


 _「"にいちゃん!!"」


 こちらに手を伸ばし訴える声が、荒々しく響いた。


 _「っあ...あがぁ…あぁあぅあぅあっあっあっうっ____」



 官能的にも聞こえる喘ぎ声に似た音を漏らし、交互に動かす刃物の素早い動きと共に擦り切れていく。脂と血で汚れていく刃に、肉と骨が、剃り落とされる時まで、惨たらしい音は続いた。



 

   聞こえるか?この声が。感じるか?この感触が。伝わるか?この痛みが。



 誰も動けなかった。直立で立たされたまま、吐くことも、座り込むことも、逃げることも出来ないまま、床で動かなくなった体を眺めていることを強制された。


 染められた赤みのある茶髪の後ろ姿が立ち上がった。手には、人の首を斬るのに十分なのこぎりと、それによって得られた戦利品モノ


 静かになった室内には、我々の呼吸音だけが聞こえた。


 指のいくつかを使ってのこぎりを持ったまま、近くにあった机の上を、その方は指差す。

 視線を動かして、その指の先に目を向ける。


 机に乗っていたのは、男女数名、小学生程に見える子供の首。


 薄暗い部屋でもはっきりと分かった。その表情は、苦痛と言うわけでも憤怒しているわけでもない。

 ただ虚ろで半開きの口、頬には涙の痕跡、目は見開いているものもあれば、半目のものもあり、どれもこちらを見つめていた。


 恐らくは、泣き叫べもしないうちに手際よくやられたのだろう。顔の下、首の傷口の荒さを見れば誰でも分かる。どうやって、この子達が殺されたのかぐらいは。


   ______『ヨミ


 あいつの首を削ぎ落とした人物の声がする方向に、視線を戻す。

 その方の赤い瞳を持つ顔が、こちらを振り向いていた。


 『目を逸らすな。心して刻めよ。この赤い血が、まだ乾かぬうちに』



 

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