【番外】現実世界で
E001/01/とあるプレイヤーAの独り言
某日。
それは、数多くいるRTOプレイヤーを大いに歓喜させた。
RTOは確かに大人気なオンラインゲームである。
しかしながら、メインストーリーの更新は年単位でなかった事もあり、既存プレイヤーからは「もうメインストーリーは更新されないだろう」という諦めもあった。
そのような風潮があるなかでのメインストーリーの更新は、初期から遊んでいるベテランプレイヤー程「待ってました!」とSNS上でもその歓喜をこれでもかと主張していく。
「ほんとにもう来ないんじゃないかと……」
喜びのあまり、SNS上だけでは飽き足らず、現実世界でもそのような呟きをこのプレイヤー――仮にAとしておく――は漏らしてしまう。
だが、それほどAにとってはRTOメインストーリーの更新は喜ばしい事だったのだ。
その喜びの中、AはRTOの公式サイトに公開されているメインストーリーについての情報を見始める。
更新される、というのはあくまでもこれから更新をするぞ、という発表であり、まだ更新されている訳ではない。
つまりはまだ更新されていない以上、少しでもその新たなメインストーリーについての情報を早く知りたい、という好奇心に負けていると言い換えてもいいだろう。
同じような事を考えているプレイヤーが多いのか、アクセス数が集中して公式サイトのページ遷移に時間がかかる。
意図的なものでないにせよ、Aからすれば焦らされている感覚すらもあった。
もどかしい思いをしながらも、暫しの間の後に新たなメインストーリーについての情報が記されているページが表示され、Aはそのページを食い入るように見る。
「……舞台は中央大陸かぁ……」
中央大陸。
RTOの世界――正確にはそのマップ上だが――においてはその名の通り中央に位置する大陸。
現実世界で例えるならばユーラシア大陸。
特にその西方にあるヨーロッパのあたりであるとプレイヤーからは認識されている。
作中では古くから大小様々な国々が戦争をしたり貿易をしたり、色々な形で互いに互いの方法で接している事もあって、大小様々な国々の集まりにも関わらず、一つの大きな国のように統一感のある街並みが特徴的と言えよう。
また、形は何であれ国同士の交流が盛んであった事から技術の進歩も早く、作中世界では最も技術的に進んでいて、現代的な街並みに比較的近いというのも特徴だった。
しかしながら、現代的な街並みのすぐ傍に神秘的な森林が隣接していたり、と少々ちぐはぐな感じが幻想的で良い、というのがプレイヤーからの評価であった。
自身に近い現代的な日常のすぐ傍に、非現実的なものがある――そのような構図に胸を躍らせないプレイヤーは少なかった。
勿論、ヨーロッパが舞台というだけあって、所によっては西洋的なお城や砦、といった古めかしい建物も健在である為、様々な需要にリーチしているのがこの中央大陸と言って良いだろう。
とにかく、玉石混合で様々な地域のある中央大陸だが、ここがメインストーリーの舞台となるのはこれが初めて、という訳ではない。
メインストーリーの序盤は各プレイヤーキャラクターの出身地が舞台となるように設定されており、作中マップの東方にある東雲皇国や川華帝国出身のキャラとして最初に設定している場合、暫くの間、メインストーリーは東方で進行していく事となる。
同様に中央大陸出身のキャラでゲームを始めた場合には、中央大陸を中心にメインストーリーが展開していく。
プレイヤーキャラの出身地によって変化するメインストーリー、しかもそれぞれが確りとしたボリュームで用意されているのだから、自身のキャラクターの設定に凝るようなプレイヤーからはこのあたりの仕様は大絶賛されていた。
そういった事情もあって、中央大陸は幾度かメインストーリーの舞台となっている。
Aとしては中央大陸以外のメインストーリーをもう少しやりたいという気持ちがあった為、反応としてはやや鈍いものとなっていた。
「お、犬人と恒人の二人組の新キャラ……結構いいキャラデザしてんねえ」
舞台については不満を僅かに漏らしたAだったが、新たに登場するキャラクターのデザインを見て口元に笑みを浮かべる。
「……ん? 犬人の方はどことなく東雲皇国っぽい感じがしないか……?」
そんな中で、Aは新キャラクター二人組の内、犬人の方へと意識を向ける。
「名前も“マコト”……日本っぽいし、RTO的には東雲皇国確定だろこれ……なんで中央大陸に……?」
艶やかな黒い髪に、それに劣らぬ黒みがかった濃茶褐色の瞳。
背は一五○センチ半ばとやや小柄。
年齢は一〇代半ばの少女。
容姿もどことなく日本の美少女、という雰囲気。
その為、名前と合わせてRTOの作中設定からすれば、東雲皇国を舞台にしたメインストーリーで登場するキャラクターと言われた方がしっくりくるだろう。
その事にAは首を捻りながらも、もう片方のキャラクターへと目線を映す。
「お、こっちはいかにも中央大陸っぽい感じだな。名前は……へぇ、リリウム・オブライネン……え、オブライネン?」
金髪碧眼、細身の美少女の近くには“リリウム・オブライネン”と名前が記されている。
オブライネン。
その名前にAは覚えがある。
RTOというゲームにおいて、アイテムは非常に重要だ。
おおまかにアイテムは敵を討伐した際に入手できる通称ドロップアイテムと、ゲーム内ショップの店売りアイテムの二種類に区別できる。
そして、ゲーム内ショップの幾つかが“オブライネン商会”である事をAは覚えていた。
ゲーム性としても、各商会によってアイテムの価格が微妙に異なる事もあり、『X(アイテム)はM(商会)の方が安いがY(アイテム)はN(商会)で買った方が安い』等と現実世界に近しい感覚をプレイヤーに体験させていた。
果たしてそのゲーム性がゲームとしての面白さに繋がっているかは兎も角、現実味、リアリティを担保する要素の一部ではある為、所謂考察勢あたりからは一定以上の評価を得ている部分ではある。
わざわざゲーム内で実装されている商会と同じ家名のキャラクターを出すのだから、無関係という事はないだろうとAは考える。
「家名のないマコトと、家名のあるリリウムをわざわざ二人組にする意味はなんだ……?」
あれやこれやと考えを巡らせながらAは現在掲載されている二人組の説明の方にも目をやる。
「ふぅん、二人とも冒険者なのね……。最近、NPCの冒険者キャラクター増えて来たなあ」
ぽつり、とAはそう零す。
稼働初期のRTOにおいて、冒険者はイコールでプレイヤーの事を指す言葉であった。
その頃を知っているAからすると、NPCの冒険者キャラクターというのには少々の引っ掛かりを覚える部分ではあった。
勿論、メインストーリーを動かす中で、一般的な職業――ファンタジーな世界観のゲーム故に、一般的と言っても騎士やら兵士といった現実的には一般的でないものも含まれるが――のキャラクターよりも冒険者の方が自由に動かせるという点はあるだろう。
とはいえ、AはかつてのRTO運営は冒険者と書いてプレイヤーと読ませるような運営だっただけに、その方針転換は一体どういう事なのだろうか、とも思っていた。
「ま、面白そうだしいっか」
しかし、Aからすればゲームなんてものは楽しめてこそである。
モヤモヤする事はあれど、結局の所楽しめたのなら文句はないのだ。
メインストーリー更新の告知ページに掲載されているスナップショットを見たAは、新たに実装されるメインストーリーもきっと楽しいに違いない、とあたりをつけた。
「更新日は……あと一週間かぁ……長いなあ……」
- - - - -
作者より。
本当にこれで[Chapter001]は完結となります。
前回の更新分でも言っていた通り、次回の更新日である金曜日は一度お休みして、来週から[Chapter002]をスタートさせたいと思っております。
[Chapter002]での二人の成長と活躍を楽しみにして頂けたらと幸いです。
今後ともどうか宜しくお願い致します。
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