ふつうのお話集
すずかわ素爪
おさまるところ
シャー芯が折れていく。ぽきぽきという軽妙な音を立てて、マークシートを下手に汚していく。「悪い例」みたいに。どうして?と思っている間に、試験が終了して、無常にマークシートが回収されていく。起きて、夢だったことに気づいた。
「そんなことがあったんだよね」
「気にしすぎだよ、冴子の成績ならどこでも受かるって」
喫茶店で勉強会(という名の雑談会)をしながら、恵美の話を聞き流す。むしろ、恵美の成績でどこの大学に行くというのだろうか。という突っ込みは、この時期にはハードすぎるからしなかった。
「だいたい、考え過ぎなんだよ。冴子は。この先どうなるかなんて、考えてもわかったことじゃないでしょ」
「まあ、それはそうだけど」
「なら、勉強あるのみってわけ。このフラペチーノ、美味しっ」
解けていない問題よりも自動的に溶けるフラペチーノが気になるらしかった恵美が、喉を鳴らして適当に書き込んだ数式は確実に間違っているが、それを指摘し合うような関係ではないので、黙っていることにした。
「てか、共テ明日ってマジか」
「マジだって。金ロー見たりするなよ」
「さすがにない、TikTok止まり」
「そっちもやめときなよ」
そんな話をしていたら、「お客様、そろそろ席のお時間が」と声がかかった。首都圏の喫茶店は時間制があるのがいけない。私は恵美と別れて、コンビニに寄った。使い慣れた2Bの芯でなく、HBの芯に切り替えるために。
翌日、翌々日ともにHBの芯は折れることもなく、綺麗にマーク用紙に回答を書き込んでいって、自己採点も満足いく出来だ。「これならセンター利用でだいたいの大学は余裕ですね」と、教員も自分の実績が上がるんじゃないかとウキウキしていた。
数週後、合格発表。合格の文字列が並んでいた。当然だと思った。恵美からLINEが来ている。同じ大学に合格した話だった。「おめでと」とだけ返して、飛び起きた。
やっぱ、2Bにしとこ。収まるところに、収まるために。
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