番外編③:異世界通販カタログ創刊号

「もっと多くの人に、星詠商会の素晴らしい商品を知ってもらう方法はないでしょうか?」

 会議中、マルクが真剣な顔で提案した。フィルメアでは有名になったが、遠方の街や村には、まだ俺たちの商品が行き届いていない。

 その時、俺の頭に浮かんだのは、ポストに投函される分厚い「通販カタログ」だった。

「……カタログだ。商品の写真と説明を載せた本を作って、それを各地に配布するんだ。それを見れば、誰でも欲しい商品を注文できるようにする」

「本、ですか? しかし、絵を描くのも、書き写すのも大変な手間とコストが……」

「いや、そこは俺の故郷の技術、『印刷』を使う」

 俺は、日本の印刷会社に協力を依頼。エレナが描いた商品の精密なイラストと、俺が書いたキャッチーな説明文をデータ化し、フルカラーの通販カタログを数万部単位で印刷した。

 完成した『星詠商会 便利グッズカタログ 創刊号』は、異世界の人々にとって衝撃的なものだった。

 まるで本物のような商品の絵(写真)、分かりやすい説明、そして統一された価格。人々は、ページをめくるたびに「こんな便利なものが!」「これも欲しい!」と夢中になった。

 特に話題になったのが、創刊号の特別付録だ。

【魔力発光ペン】

 エレナが開発した、インクに微量の輝石の粉を混ぜたボールペンで、書いた文字が暗闇でぼんやりと光るというもの。

 この付録が、とんでもない事態を引き起こした。

「付録のペンが欲しいから、カタログをもう一冊くれ!」

「このペンで書くと、なんだか特別な感じがする!」

 付録目当てでカタログを求める人が殺到し、用意した数万部はあっという間になくなってしまった。

 さらに、カタログに同封した注文用紙には、この魔力発光ペンで書かれた注文が殺到。あまりの人気に、注文用紙が足りなくなり、さらにはカタログを印刷するための「紙」と「インク」までもが異世界中で不足するという、前代未聞の大事件に発展した。

「ユウト! 紙の増産が追いつきません!」

「会頭! インクの材料になる魔物のスミが、市場から消えました!」

 事務所で悲鳴を上げるエレナとマルクを前に、俺は頭を抱えた。

「……付録の力、恐るべし……」

 現代日本のマーケティング手法は、異世界では効果が絶大すぎるのかもしれない。俺は、次号の付録選びは慎重に行おうと、固く心に誓ったのだった。

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