第2話 流れ人

まだ頭が痛いような感覚に襲われながらその場を見渡すと、どの方角を見ても天井が宇宙だった。呼吸は出来るし、周囲には沢山の人がいる。頭の中に入った知識から、ここが北帝国と呼ばれる国の中でも一番大きな交易惑星のインペスターⅡのすぐ傍にある宇宙ステーションみたいな巨大建造物だと分かった。


……うん、予想通りファンタジー世界じゃなかった。いやファンタジー世界だここ!?質問でわかっていたことではあるんだけど魔法が世間一般に存在してるようだし、宇宙空間の航行技術にはだいぶファンタジー要素が入ってる。とりあえず、クラスの多くが転移したであろうA地点とはかなり距離がありそうだ。具体的には星系を3つぐらい挟んだ向こう側。


一応、ランダム転移を選択した人には一番近くに集団転移をしたポイントについて教えられるようで、つまりはA地点が一番近い集団転移先と。これでも宇宙規模で見ると近場なのかな。


……やけに見られてるな。いやまあ自分の来ている服が浮いているのは自覚しているけど修学旅行中だったしそこまで変な恰好ではない。ああ、行きたかったな北海道。


「君、流れ人かい?」

「え?ぇ、いや?うん?ながれびと……?」

「流れ人だね。

さっきこの近辺一帯に緊急連絡が入ったんだよ。流れ人を保護するようにって。

とりあえずこっちについてきて」


しばらくどう動くか迷っていたら警察みたいな服を着たおっさんに腕を掴まれ連行される。そう言えば十数年単位で集団転移が起こっていたっぽいから、転移者に対するマニュアルみたいなものでも出来ているのだろうか。日本語が通じている違和感を感じつつも、連行されながらスマホを開くと【この通信機器は脆弱過ぎて使えません】とスマホの画面に表示される。せっかく異世界にスマホを持ち込めたのに古すぎて使えないらしい。これもう個人情報とか全部抜かれてそう。


腕を掴まれて連行された先は机と椅子しかない白い部屋。いやもう完全に扱いが犯罪者じゃん。そして目の前に座る男性はステータスをオープンしろという。……質問を通して事前連絡があったからすんなり対応出来たけど、宇宙進出後も、ファンタジー世界はステータスの概念があるのかと改めて実感した。


【ステータス】

名前:橋下はしした 和博かずひろ

種族:人間

レベル:1

スキル:『乗り物へのダメージ25%』


言われるがままに「ステータスオープン」と言うと簡素なステータスが表示されるけど、同時にUIみたいなものも開く。UIの設定の中にはステータスの表示を簡易、詳細で選択できるな。今は簡易なものになっているのか。


詳細なステータスにしましょうかと尋ねるとそのままで良いと言われ、しばらく向こうが端末を操作し続けるとこちらのステータス画面が変わった。


【ステータス】

名前:橋下 和博

種族:人間

所属:北帝国

階級:自由民

レベル:1

スキル:『乗り物へのダメージ25%』


どうやら所属と階級を登録してくれたらしい。何でそっちの端末で操作したら自分のステータス画面が切り替わるんだよと思ったけど、そもそもこのステータス画面がどこから来たのかという話になるので後で詳しく調べておこう。


また、ステータスの外のUI部分には所持金も表示されており101万円の文字が見える。……初期資金は100万円かな。それなりに大金だし数か月生きられるという言葉に間違いはなさそうなんだけど何で単位が円なの。


所有物の一覧の中には初期装備として『シンプル宇宙船A型』という名前の宇宙船があった。中には3日分の水と食糧、あとは居住スペースの中に机と椅子だけおいてあるらしい。至れり尽くせりではあるんだけど、このことを説明してからスキルや才能を与えろよと言いたい人がA地点には滅茶苦茶居そう。


……ステータスという謎システムもある以上、ステータスに書いてある『乗り物へのダメージ25%』というスキルは使えるだろう。神様の説明の中では一度指定したら指定解除するまでパッシブスキルみたいな物言いだったからたぶん相当強いスキルではあると思う。個人の戦闘力だと恐らく剣聖とかとった奴に軽く負けるだろうけどそもそもこんな世界で個の戦闘が起きるのか怪しい。レベルアップ作業の時とかに使えるのかな。


さらにしばらく目の前のおっさんが手続きしているのを眺めていると、唐突に「よしもう出て良いぞ。流れ人の宇宙船も登録しておいた。最初は冒険者ギルドへでも行くんだな」と告げられ、部屋から追い出された。扱いが雑である。たぶん国民登録だの船の登録だのを進めてくれていたんだろうけど、もう少し説明が欲しかった。


それにしても、冒険者ギルドか。宇宙進出時代になってもその形式が残っているのは不自然、かな?いやまあ総合派遣会社と考えれば納得出来るシステムだし現代水準の日本でもその手の企業はあるんだけど国営で存在しているとか中抜き額が凄いことになってそう。


頭の中に入ったこの世界の一般常識を再確認。自分達はこの世界では流れ人と呼ばれる存在で、数年に一度から数十年に一度大量に別世界からやってくる存在だ。この世界の住人的に、流れ人は基本的には害がないから友好的に接していれば益を落としてくれる存在という認識。たまに凄い活躍をして、国の将軍になったり建国した人まで過去を遡れば存在するようだけど、そのような存在は稀と。


……神様、これ何か起きそうな度に人員送ってません?あと異界からモンスターがやってくるって、それを対処させたいならどんな存在なのか教えてから送り込んでくれないかな。大きい以外教えてくれなかったんだけど。この世界観で大きいってことは、太陽なんかよりもよほど大きそうなんだけど。

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