残響 -Zankyou-

Yaki Monja

残響 -Zankyou-

誰が袖に咲く花。ただそこに藍を落としたような夜だった。

 街は炎に包まれ、銀朱の月が赤く滲む。

 レンは瓦礫の上に立ち、右手の刃を握りしめた。刃には藍の光が脈打つ。それは「残響の灯」──この街に命を与え続けた唯一の希望。しかし昨夜、それを奪い去ったのは、かつての仲間だったカイだった。


 「選ばれなければ、選べばいい。」

 それがレンの信条だ。だが今、選んだはずの道が揺らいでいる。


 耳をつんざく爆音。瓦礫を踏みしめ、影がこちらへ歩いてくる。カイだ。

 白い外套に血のような深紅の帯を巻き、その背後には炎の獣が揺らめいている。

 「やっと来たか、レン。まだそんな灯りに縋るつもりか?」

 「縋るんじゃない。あたしが灯すんだよ、何度でも。」


 藍の刃が唸りを上げた瞬間、獣が吠えた。炎の衝撃波が地面を裂き、レンの体を弾き飛ばす。背中を強打し、肺の空気が抜けた。だが、立ち上がる。


 躓くごとに強くなった──それが自分だ。


 「なら、証明してみせろ!」

 カイの両腕が燃え上がり、無数の火矢となって降り注ぐ。

 レンは風を切って駆け抜ける。藍の軌跡が夜に線を描き、火矢を切り裂く。


 ──だが、追いつかない。

 このままでは、また「選ばれないまま」終わる。


 心臓が焼け付く。

 光も痛みも怒りも、全部抱きしめて、レンは吠えた。


 「選ばれなければ──選べばいいッ!!」


 藍の刃が砕け散り、代わりに藍の炎が彼女の全身を包む。

 それは、燃える花のようだった。

 カイの瞳が見開かれる。「……それが、お前の“残響”か」


 「声よ、轟け!」

 レンは地を蹴り、夜のその向こうへと跳ぶ。

 藍と紅が激突し、世界が白く弾けた。


 爆風の中、レンの声だけが響く。

 「どんなに暗い感情も、どんなに長い葛藤も──歌と散れ、残響ッ!」


 藍の衝撃波が炎の獣を引き裂き、カイの深紅の帯をも焼き尽くした。


 静寂が戻る。

 夜空には、銀朱の月と、かすかな藍の光が浮かんでいた。

 カイは膝をつき、笑った。「……選んだな、お前は。」

 レンは息を切らしながら頷く。「当たり前だろ。逃げ出すためにここまで来たんじゃない。」


 「これからどうする?」

 レンは藍の刃を再び握り直した。

 「夜を数えて、朝を描く。鮮やかな音を鳴らすために。」

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