第2話 必殺!サンダーボルト!

「ねぇ、シリウスって呼びにくいから、シリでいい?」


 電車から降りて、改札を抜け、走って、学校に向かう。

 その道中、私は、自称『大魔王』にそう言った。


「好きにしろ。どうせ拒否権はないのだろう?」


 正解。こちょこちょの刑が待ってます。


「ねぇ、シリ、今何時?」


「十二時四十五分だ。なんでそんなことを聞く?」


 校門までは、走って十分。

 このペースなら、ギリギリで、午後の授業に滑り込める。

 中学時代に陸上できたえ上げた俊足しゅんそく、なめんじゃねえ。


 十分後、全速力で校門を駆け抜け、私は教室に落ち着いた。


 キーンコーンカーンコーン。

 本鈴が鳴る。


 ギリギリセーフだ。どうにか首はつながった。


「なんであいついんの?」


「ちょっとまじ、ウケんだけど」


 ひそひそ声が聞こえてくる。


 まぁ、いいや。

 お陰様でスマホは新調できた。

 何事もプラスに考えよう。


「あーい、それじゃー始めんぞー」


 気怠い声が教室に響く。

 ジャージを着た数学教師が、出席簿で顔を仰ぎながら教室の中に入ってきた。


 ◆


(死ねよ)


(ブス)


(よくこれたな)


(マジウケる)


(スマホないからわかんねーんじゃね?)


(うざ)


(まじで死んだらいいのに)


 しばらく静かになったので眠ろうとしていた大魔王シリウスは、メッセージアプリに体を揺さぶられたので目を覚ました。


 複数の送り主から送られてきたメッセージ。


 これはリンに対するものだろうか?


 画面に連なる罵詈雑言ばりぞうごんを見ながら、首をかしげる。


 自分が見る限り、リンは寧ろ人間の間では美人と判断される方だと思われるが、送り主達の目からは違って見えるらしい。


 いや、ここは異世界だ。

 自分がいた世界のしゅうの判断を持ち込んではいけないのかもしれない。


(もしかしたら、この世界の美人は、我輩の価値判断からしたら、とんでもない不細工なのかもしれん)


 魔王はそう考えて、眠りにつこうとした。


(汗かいてるよあいつ)


(きつ)


(笑える)


(きも)


(もーまじできめぇ)


(視界はいんな)


(しね)


(空気汚れる)


(息すんな)


「やかましいわ! 寝れんだろうがあああああ!」


 眠ろうとしていた魔王スマホを延々と揺さぶるメッセージに、いい加減に魔王シリウスの堪忍袋の緒が切れた。


 ◆

 

 私の方から、男の大声がしたので、クラス全員の目が不思議そうな顔をしてこっちを見ている。


 恥ずかしい。そんなにこっちをにらまないでほしい。


「あ、アラームが・・・」


「あ、アラームか・・・変わったアラームだな・・安藤・・・」


 先生は、チョークを持ったまま、ぽかんとした様子でそう言った。


 クラスは爆笑の渦に包まれる。


「うちの高校は携帯は欧恵オーケーだけど・・・マナーモードにはしような」


 先生は、後ろ頭をかきながら、そう私に注意した。

 顔から火が吹き出そうだ。

 覚えてろ、シリの奴。あとでこしょばし倒してやる。


 私はスカートのポケットの上から、スマホにグーパンをかまし、マナーモードのスイッチを入れた。


 ◆


「やっべ、最新モデルじゃーん、流石にお嬢様は違うなー。壊れてもすぐ新しいの買ってもらえるんだもんね」


「見せて。あー、やば。芽衣子、これ先月出たばっかのやつじゃん」


 休み時間の女子トイレ。

 私を取り囲んでいた複数の女子は、私から取り上げたスマホを見て、せせら笑った。


 リーダー格のボブカットの女子は、伊知いじ芽衣子めいこ

 バレーボール部のエースで、私よりも遥かに背が高い。


 俯いた顔があげられない。


 返せ!と叫んでやりたい。


「ずる休みもできて、新しいスマホも買えて、感謝してほしいくらいだわ」


 ハハハハハと、女子トイレに笑い声がこだまする。


 これだから嫌だったんだ。学校にくるの。


 三日前の話だ。あの時も、私は今みたいに彼女たちに囲まれて、その時にスマホを壊された。


 窓から投げ捨てられたのだ。


 お陰で写真とかは全部パァ。

 お気に入りの音楽や、海外出張の多い両親と写った写真も入っていたのに。


「何か言いたそうね」


 言いたいことがあるのは当たり前だ。

 でも、それを言ってしまうと、彼女たちの行動はどんどんエスカレートしてしまう。


 黙っているしかないのが、情けなかった。


 我慢するしかないのだ。


 卒業まで、あと二年半。

 それはまるで、監獄に入れられた囚人のような気分だった。


「言いたいことがあったら言っていいよ? 何? え? また新しいスマホが欲しいの?」


 芽衣子はケタケタと笑う。


 背筋が凍った。


「待って!」


 私は、スマホを取り戻そうと、芽衣子の手に渡っていたスマホに手を伸ばす。

 しかし、私は後ろから体を抑えられる。


 身動きが取れない。


 芽衣子は高々と私のスマホを掲げる。


「しょうがないなぁ。また投げ飛ばしてほしいのかー。わかったわかった」


「やめて!」


 泣きそうだ。


 またスマホを壊されてしまったら、たまらない。

 今度こそ大事に使おうと思ってたのに!


 芽衣子が窓の先に投げようと、スマホを振りかぶったその時だった。


「サンダーボルトぉお!」


 突然のシリウスの声とともに、芽衣子はスマホを落とした。


「いっっ!」


 あまりに激痛だったのか、芽衣子は手を抑えた。


「芽衣子、どうしたの?」


「大丈夫?」


 取り巻きが、芽衣子を庇おうと集まる。


「わかんない・・・何これ、漏電? いった・・・、ちょ、マジいてぇ」


「ちょっと、保健室いこ」


「ふん! 漏電するスマホなんて、あんたには御誂おあつらえ向きかもね! せいぜい気をつけて使いなさい!」


 去り際に捨て台詞を吐く芽衣子。

 そうして、私を取り巻いていた女子たちは、保健室へと去って行った。


「ふん」


 誰もいなくなった女子トイレで、シリウスが鼻を鳴らす。


「身の程を知らぬ娘どもが。この我輩を投げ飛ばそうとするからそうなるのだ!」


 何だろう、なんか、こいつ、抱きしめてやりてぇ。

 スマホだから無理だけど。


 ◆


「ねぇ、シリ」


 帰り道の電車の中で、安藤林檎リンはシリウスに声をかけた。


「む?」


「今日は、その・・・ありがとう」


「馬鹿者、我輩は大魔王だ! 人間に感謝されるいわれなどない!」


(なるほど、サンダーボルトの呪文はこの世界でも使えるのか・・・ともすればこの娘に使うこともできるのか?)


 魔王は、魔力を体に込める。


 しかし、画面に、”バッテリー残量が低下しています”とダイアログが流れた。


「あ、電池やばそう。ごめんシリ。電源切るね」


(ち、違う、そうじゃない! 今切るんじゃない!)


 ぶつりと、大魔王シリウスは、意識を失う。


 それは、異世界の大魔王、シリウスが、現世にJKのスマホとして転生してしまった話。


 彼らの冒険(?)は、今、幕を開けることとなった。

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