私のスマホがちょっとおかしい

paparatchi

第1話 大魔王シリウス

「そろそろ決着をつけるぞ! 大魔王シリウス!」


 勇者、アレクサンダーは剣を構えた。


小癪こしゃくな! そんな剣一本で何ができる!」


「いくぞ! 大魔王! ファイヤーソード!」


「そんな技で我輩に勝てると思ったか! 身の程を知れ勇者とやら! サンダーボルト!!」


 炎をまとった勇者の剣は、魔王の胸を突き刺した。


 身を焼かれると同時に、魔王は自らの力を剣に吸い取られていく感覚を覚えた。


「まさか、それは! 聖剣・ヴァレンタイン!!」


 それはまさしく、魔王を倒すために作られた、世界にただ一振りしかないと言う伝説の聖剣ヴァレンタイン。


 勇者はこの戦いを見越して、天空のダンジョンでそれを手に入れていたのだ。


「ぐわああああ!!」


 炎が全身を覆い尽くす。


(馬鹿な・・・たった一撃で我輩がたおされるなど!)


「くそおおおおお!」


 全身を焼かれていく魔王。

 彼はそこで意識を失った。


 ◆


 目を開けているか、閉じているのかもわからないほどの、暗い闇の中で、魔王は目覚めた。


(むむ? ここはどこだ? 我輩は確かに聖剣に貫かれて死んだはず)


 しかし、あの世にしては何と殺風景な場所だろう。


 ひたすらに静まり返った漆黒。

 そこは、見渡す限り闇の世界だった。


 ピピピピピピピピピピ!


 突如、その闇の世界に、爆音が鳴り響いた。


 何事だ、と思う間も無く、魔王の眼前に橙色の「停止」と書かれたボタンが現れる。


(ええい! 舐めているのか! これも勇者の技なのか! 小賢しい!)


 魔王は「停止」ボタンを、思い切り殴りつけた。


 すると、音は止み、また静寂が辺りを包んだ。


 そのまま、待てども暮らせども、状況が変わることはなかった。


(仕方がない。こうも何もすることがなければ眠るしかないな)


 魔王は、闇の中でごろりと横になった。

 そのまま眠りに落ちるまで、さして時間はかからなかった。


 だって真っ暗なんだもの。


 ◆


「うわぁ、サイアク・・・」


 私は目を覚ました瞬間、部屋の時計を見て愕然としていた。


 時刻はすでに午前十時。


 昨日、七時にアラームの設定をしたはずだったが、まだ新しいスマホの使い方に慣れていないのかも知れない。


 ボサボサの頭をかきながら、私はスマホに手を伸ばした。


 スリープを指で解除させようとするが、なかなかホーム画面が開かない。


(おかしいな。故障かなぁ)


 不良品を掴まされたのだろうか。昨日買ったばかりで、充電は足りているはずなのに、黒い画面から一向に動かない。


「ヒャハハハはは」


 画面をいじり回していると、突然、スマホのスピーカーから笑い声のような音がした。


(まさか・・・ウイルス?)


 嫌な予感がしたので、ホーム画面に戻そうとさらに画面をいじくり回す。


「や、やめてぇ・・・くすぐった・・・おい。やめんか! 小娘!」


「うわぁ!」


 ホーム画面に戻るのかと思いきや、大声がしたので咄嗟に携帯から手を離した。


 携帯がベッドの上にぽとりと落ちる。


 画面が明るくなったので、ホームに戻ったのかと思ったが、画面に写っていたのは、ツノと髭を生やした紫色の肌のむさ苦しい悪魔の姿。


 一週間前に倒したゲームのラスボスのグラフィックだった。


 アプリが終了できていなかったのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。


「おいこら! 小娘! 聞こえてるのか! 我輩を散々くすぐりおって!」


「えーっと、ちょっと待って? 私の声が聞こえるの?」


「当たり前だ! 耳はある! 貴様、さっきはよくも・・・」


 耳っつーか、マイクだろ。多分。


「ごめん、ちょっと状況飲み込めてない。とりあえず、ホーム画面開いてもらえない? 急いでるんだけど!」


「むぅ・・・貴様、我輩をなんだと思っておる」


「私のスマホ」


「我が名は、泣く子も黙る大魔王シリウス様だ! お前みたいな小娘の命令を、なぜ大魔王たる我輩が、聞かなきゃならんのだ!」


 精一杯の勢いで、私のスマホは凄んでみせた。

 しかし、小さな画面の中でどんなに怒鳴られたところで、イマイチ迫力がない。


「もう、どうでもいいから、ホーム画面開いてよ! ガッコーに遅れるって電話しなきゃいけないの!」


「ふん! そんなもの知ったことか! 悔しかったら、力ずくてなんとかしてみるんだな。ハハハハハ!」


「あぁそう」


 こちょこちょこちょ・・・

 私は画面をくすぐる。


「ぎゃーっはっはっは、ちょっと、お願いだから、やめてぇえぇ・・・」


「あれー? 私のスマホ壊れちゃったのかなー? 早くホーム画面に切り替わってくれないかなー?」


 どうやら、耐えきれなかったらしい。


 大魔王シリウス、もとい私の携帯は渋々、ホーム画面に切り替わった。


 ◆


「ほう、異世界転生。そんなものが世の中には存在するのか。ともすれば、我輩は、この世界に『転生』したのではなかろうか。しかしこのネットというものは便利だなぁ」


 人が動画を見ていたのに、勝手に求繰ぐぐりだす私のスマホ。

 どうやら、私の預かり知らぬところで、こいつはインターネットというものを見つけて楽しんでいたらしい。


 電車の中でイヤホンをしていても、こいつの声しか聞こえてこないの、ちょっとイラっとする。


「私からすれば、単にあんたがゲームから飛び出したようにしか見えないんだけど」


 どうでもいいけど勝手にスマホ操作して求繰るのやめてほしい。

 てゆーか、電池がなくなるからそろそろやめれ。


「ほうほう。転生しても、元の姿のままとは限らんのか・・・転生したらスラ・・」


「怒られんぞ」


 私は魔王シリウスの言葉を遮って、画面を動画に戻す。


「我輩が調べ物をしていたというのに! 貴様・・・」


 やかましい。電源落とすぞ。

 転生するなら、何も私のスマホに転生しなくても良かったのに。


「もう、貴様とか小娘とかやめてもらえる? 私には、安藤林檎あんどうりんごって名前があるの。せめてリンって呼んで」


 私はそう、スマホに言い返す。

 イヤホンしてるから、魔王の声は周りには聞こえない。

 ハタから見たら、ちょっと痛い子か、マナー違反にしか見えんぞこれ。


「お前は、リンという名だったのか。それにしても、この電車というのは、どこに向かっているのだ?」


「あー、学校。行きたくないけどね」


 そう。もう、本当に学校には行きたくなかった。

 まぁ、今から行っても午前の授業は受けれなそうだけど。


 私はショート動画をスワイプする。


「おい、リン」


 少し、強い口調で、は私の名を呼んだ。


「ん?」


「ご年配の方には席を譲れ。どうにもこの老婆、足腰が悪そうだぞ」


 私が携帯から目を離すと、目の前には杖をついたおばあさんが、立っていた。

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