第9話 秘密兵器

私たちはレオさんから保冷剤の入ったソフトクーラーバッグを渡され売店まで歩いて登った。


一瞬「バイクで1人で行った方が早いな。」と思ったけれど、それも何か違うと思って一緒に歩いた。

中段の売店は閉まっていたので、上段にある売店まで登る事になった。到着した時点で2人とも汗だくだった。

売店の中はクーラーが効いていて快適そのものだった。

 入り口付近はキャンプ用品と共にゆるキャングッズが所狭しと並んでいる。

葵はグッズの量を見て人気の高さに驚いていた。

私たちは人数分のアイスと氷をソフトクーラーに入れ坂を下って行った。



 テントに戻ると、思いのほか本格的な流しそうめんの用意が出来ていた。

長さ2m位の竹を割ったものが2本、三脚の上に固定されていて、キャンプ場の傾斜を利用して水が流れる仕組みになっている。

1番下の大きな桶に水が入っていてポンプで水を循環させているらしい。

ナニコレ、 本格的過ぎない?

レオさんが照れくさそうに言った。

「オヤジがこういうの好きでさ。借りてきた。おにぎりも持ってきたから食べよう!」

この本格的な流しそうめんをキャンプ場でやる人を初めて見たし、私たちはテンションが上がった。

他のキャンパーさん達が物珍しさに話しかけてくれたり、写真を撮ったりと、少し恥ずかしかったけど、美味しく頂いた。

 

昼ごはんを食べ終わった頃には本格的に天気が良くなった。段々と富士山の全貌が見えてくる。

陽が出てくると流石に暑いので、ロロの前室を跳ね上げてそこでみんなでアイスを食べた。

 

レオさんとコーヘイさんが車でちょっと出かけるという事なので私たちは湖畔に椅子を置いて足を水に付けて涼みながら、おしゃべりを楽しんだ。

空を見上げるとトンビとカラスがなんだか喧嘩している。

縄張り争いだろうか?

2人でそれを眺めながら

「暑いねぇ」と二人で呟いた。


30分位経って車が戻ってくると葵が驚いた。

「えー何あれ?」

見てみると車の上にSUPが2枚縛り付けられていた。

SUPとはスタンドアップパドルの事で長いサーフボードの上に立ってパドルを漕いで水上を移動するアクティビティだ。

私の自宅にも空気で膨らませるタイプがある。

海でしかやった事がないので湖でのSUPは初体験だ。

葵もコーヘイさんも未体験らしい。

2人は凄くテンションが上がっている。

レオさんは1回だけ経験があるらしい。

 

じゃーお手本見せてと言われライフジャケットを渡される。

私は水着は持ってきていない。

一応着替えは1式あるし、湖なら波があまりないので、多分大丈夫だろう。

パーカーを脱いで、ライフジャケットを付け、足だけは濡れるのでズボンを膝下まで捲りあげる。

パドルをSUPの上に置く。

SUPを湖に置いてスネの真ん中位まで水の中に入る。

それからリーシュコードを足に繋ぐ。

SUPを沖に滑らせながら乗り込み、膝立ちのままパドルで漕ぎ出す。

10数メートル沖に出た所でSupの上で立ち上がる。

湖面に立った瞬間、ふわりと風が頬を撫でた。

水は驚くほど静かで、パドルを水に入れる音だけが響いている。

 

 陸を見ると葵がスマホをこちらに向けている。写真か動画か分からないけどパドルを持ち上げて大きく振ってみた。

パドルの水が跳ねて、少し濡れたけど気持ちよかった。



 

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