幕間 4
幕間 4
深夜、『夢魔』は廃屋で待ち構えていた。呼び出したふたりはまもなくやってくるだろう。来ざるを得ないネタを使ったのだから。
ふたりは同時にやってきた。若い男と女。『夢魔』は標的の名前すら知らない。指令の通りにやるだけだ。
向こうからは『夢魔』の姿は見えない。巧妙に隠れているからだ。
ふたりは立ち止まり、なにやら話し合っていたが、別行動はしない。ずっといっしょのままだ。
『夢魔』は焦らず待った。ひとりずつ片付けた方が確実だ。
やがて男の方が動いた。おそらく周囲を確認しに行ったのだろう。
『夢魔』はひっそりと女の背後に近づくと、棍棒でこめかみを殴った。
女は「ぎゃっ」と叫び声を上げたきり、声を発しなかった。
糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちると、そのまま動かなくなる。
まだ死んではいない。気を失っただけだ。
男が帰ってくることを見越し、『夢魔』は女を物陰に隠した。
しばらくして、戻ってきた男はとうぜん女を捜した。いないことで確実に警戒心を増したことだろう。
不意を突くことは、もう難しい。
『夢魔』は用意したナイフを抜くと、男が近づくのを静かに待つ。
男は歩きながらたえず周囲を見回している。
すぐ側までやってきて、『夢魔』の反対側に注意を向けた瞬間、『夢魔』は躍りかかった。
残念ながら、そのまま背後から男の急所にナイフを突き立てることはできなかった。反射的に男が振り返ったからだ。
男に腕を捕まれる。不覚だった。
『夢魔』は腕を振り回し、なんとか男の手を外そうとするが、男も必死だ。
もみ合いになりながら、くるくるとまわり、位置を変える。まるでダンスを踊っているように。
一瞬の隙を突き、『夢魔』は男に体当たりをかませる。男に手が、『夢魔』の腕から離れる。
ここぞとばかりに、『夢魔』は男の胸にナイフを突き立てた。
男は訳のわからないうめき声を上げると、二三歩後退し、放置された噴水のあとに倒れ込んだ。そこに溜まった濁った水に、血の赤が広がっていく。
『夢魔』は、ほうと一息ついたが、まだ仕事は終わりではない。
男の方はそのまま放置し、物陰に隠した女を引きずり出すと、噴水の側にある木の下まで運んだ。
用意した長いロープを女の首に掛けると、もう一方の先端をつかみ、木に登る。
やや太めの枝にロープをまわし、先端を握りしめ、飛び降りた。
『夢魔』の体重がロープにかかり、横たわっていた女の体が飛び起きた。感触からいって、今首の骨が折れただろう。
摩擦で『夢魔』の自由落下は止まったが、幹に足を掛け、そのまま女を引きずり上げる。必然的に『夢魔』は下に降りていった。
地面まで降りると、『夢魔』はつかんでいたロープを木の幹に縛り付け、固定する。
女の首つり死体のできあがりだ。
死体は振り子のように、ぶーらぶらと揺れた。
それを見て、『夢魔』は笑った。
これで指令通りだ。
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