第30話 イーストの日々

「『ブレイズセイバー』、『陣風八切じんぷうやつぎり』!!」


「甘ぇ!」


俺達は今、森の中で試合を行っていた。


俺を鍛え上げると言った剣王………ゼルディアスは、今まで行ってきたのが全て独学であるため、稽古を付けた経験が無い。


故に、必然的に、彼との修行は全て打ち合い稽古となるのだ。


俺が風の如く流れるように放った八連撃は、ゼルディアスの一太刀によって容易く防がれる。だが、それはもう織り込み済み。


「『大太刀返おおたちがえし』!」


「ッ!やるじゃねぇか!」


複数の技を崩す強い一撃は、それだけ隙ができやすいという意味でもある。俺はゼルディアスの放った一撃の勢いを利用し、そのまま一回転しながら彼にカウンターを放った。


その一撃で、地面にはクレーターが出来上がる。


「だが!」


当たり前だが、多少技術が上がって、彼の剣と打ち合えるようになったところで、彼の鋼鉄が如き体に傷をつけることなんて出来ない。故に、戦いは俺の一方的な敗北で終わる……


とは、限らないんだぜ?


「__『炎刀』」


瞬間、木剣が熱く燃える一振りの刀と化し、ゼルディアスの体表に………ピシッと、一条の傷を付けた。


「おまっ!?」


「『穿爪牙突ゥゥゥゥ』!!」


驚愕でできた一瞬の隙を見逃さず、俺はゼルディアスに向かって一撃を叩き込み………しかし、その途中で下から上へ放たれたゼルディアスの一振りにより、俺の木剣はかちあげられた。


疲れ切った俺は、そのまま大の字になって地面に倒れ込む。


「ハハハ!おいおいゼルディアス!?遂にお前に傷を付けちまったぞ!?これでも成長してるんだよ俺はよぉ!!」


「分かってるよ。ってか、成長スピードバグりすぎだろ。言っとくが、俺がお前ぐらいの時なんてお前の十分の一にも満たねーからな?」


「ハイハイ、お世辞は良いって」


「この鈍感が……!」


まだ訓練を始めて一週間ほどしか経っていないが、早くも俺はあの時自分が出して見せた全力に近しい実力を発揮できるようになっていた。


「どうせあの時の全力に近しい実力を、とか思ってるんだろ?言っておくが、お前あの時よりも遥かに強いからな?俺に手傷負わせてるんだからな?お前、その内勇者よりも遥かに強い存在になっちまうぞ?魔力量も、なんでか知らないが上がり続けてるんだろ?」


「まっさか~。俺がどれだけ強くなっても、アークに敵うわけないだろ?流石にそこまで驕ってないよ」


「はぁ………俺はお前の将来が不安になってきたぜ……。ま、そんなお前だからこそ面白いんだけどよ」


どうやら、ゼルディアスは俺の実力が勇者に迫ると考えているらしい。確かに、魔王を複数体討伐して見せたゼルディアスに手傷を負わせられるなら、十分強いと言えるのかもしれないが………。


「でも、ゼルディアスは無傷で魔王を倒したわけじゃないだろ?」


「そりゃあな。魔王は全員固有能力を持っててよ……今話題になってる第五?第十?の魔王も、なんか厄介な能力持ってるんだろ?それと一緒さ」


「なら、それを倒せる勇者の力はそれ以上ってことだろ?なら、かすり傷負わせるぐらいの俺じゃあ勇者には敵わないんじゃないのか?」


「あのなー、俺の強さだって常に向上し続けるわけだし、勇者が魔王に勝てるとも限らないんだぞ?少なくとも、今のお前ならギリギリ相打ちぐらいには持っていけるんじゃないか?勇者」


「そんなこと出来るとは思えないし出来てもしないよ」


「へいへい」


少し休憩してから、また剣を打ち合う。ゼルディアスから盗んだ技を次々と繰り出し、体の動かし方、足捌きなどを常に修正していく。


「やっぱ、勇者なんかよりもよっぽど脅威だぞ、お前」


「どう、も___!」


最後にもう一度だけかすり傷を与えて、その日の特訓は終了となった。



「よぉーし!!もっともっとぉ酒ぇ持ってこいぃ!!」


「おい、流石に飲みすぎだろ……金持ってんのか?」


「おれぇを誰だとおもっへるんだぁ!?剣王様だぞぉ!?金ぐれぇ山ほど持ってるっつーの!」


「はいはい、なら俺は先に宿屋に帰ってるよ」


とある酒場にて、俺はゼルディアスと一緒に食事を楽しんでいた。…………が、どうやらゼルディアスは大の酒好きだったらしい。酒癖の悪さに辟易した俺は、酒場を出て宿屋への帰路に就く。どうせ、ああなったら飲み潰れて帰ってくるのは次の日だしな。


辺りはもう真っ暗闇で、よいこはねんねの時間である。………正直、ここら辺は余り治安が良くないから、長いはしたくないんだが………。


「おい!テメェ何処見てほっつき歩いてんだ!ああん!?喧嘩売ってんのかゴラァ!」


(ほらやっぱり)


面倒には巻き込まれまいと思っていたのに、そんな矢先から近くで喧嘩騒ぎである。目を向けてみれば、小さな女の子がガタイがでかくて人相の悪い、いかにもんなチンピラに絡まれていた。


でも、少し妙だな。この時間に女の子が一人で出歩くとか、あんまり考えられないんだが………。


物語の英雄だったらここで真っ先に助けに入るのだろうが、心の汚れた俺は一度疑ってしまうのである。なんとも悲しきかな。


「ご、ごめんなさ……!」


「うっせぇ!ちょっとこっち来い!」


そう言って、大男は少女を路地裏へ連れて行こうと……っておいおいおい!こんな公衆の面前で誘拐!?流石に頭悪くね!?


俺は気配を消しながら、少女と大男の後を付けていく。周りの気配を探ってみれば、路地裏の奥の方で待機している奴らが二人……これは、間違いないな。


この世界、なんと奴隷制度が存在する。………が、それが存在するのは他国の筈だし、誘拐は勿論犯罪だ。とは言え、魔法の存在するファンタジー世界でもあるため、命を代償とした儀式魔法や禁術なんて代物も存在する。奴隷への風当たりが強いこの国で誘拐騒ぎを起こすのは危険性が高いし、これは後者かな。


「よし、さっさと詰めやがれ!」


「おっけー」「わかった」


少女が袋に詰め込まれそうになったのを発見して、俺は勢いよく飛び出した。大丈夫、今回は完全に黒だ。


「せいっ!」


「うぎゃ!?」「あが!?」


こういう時、得物が木剣だと殺す必要が無くてやりやすいな。


「お、お前!一体何処から出てきた!?クソ、気配察知の魔道具を使ってたのに……!」


「そうなのか?故障してたんじゃね?」


「そんなわけあるかぁ!」


大振りに殴りかかってきた大男の拳を避け、そのまま腹にドゴンとぶち込む。この程度の雑魚じゃ、全ての攻撃が止まって見えるぜ。ゼルディアスに鍛えてもらった甲斐があったな。


「ぴぎゃ!?」


面白い声を出しながら吹っ飛んだ大男は、軽くあしらわれたことに激昂し、更に拳を繰りだそうとする。が、余りの腹の痛みに立ち上がることすらできないようだ。根性ねぇな。


「ま、待て!俺が誰だか知ってんのか?俺はなぁ、あの恐ろしきルルド盗賊団の___」


「知らん」


最後に一発脳天に叩き込み、大男を気絶させた。


「さて、大丈夫かい、お嬢さん?」


「は、はい!ありがとうございます……!」


俺は少女の手を引いて立ち上がらせ、ロープでぐるぐる巻きにした三人を担いで家まで連れて行った。


手を振る少女に手を振り返しつつ、この世界で言うところの警察署……詰所に三人を手渡しに行った。

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