第18話 クソ依頼→クソ依頼主

「あの、トーマスさん。流石に道程が長すぎないですか?」


下水道へと潜ってから数時間、俺達は既に千を越えるネズミを殺していた。正直、こんな凶暴な奴らが四桁も存在していたら俺はこんな街に住もうとは思えない。というか、普通に街滅びてるだろ。なんでこの数で誰も気にしてないんだよ。


「そうですねぇ。冒険者ギルドの知り合いに『とびっきり人気が無くて手間がかかる下水道の依頼ってあります?』と聞いた結果ここへ来たので、もう二、三日かかるのでは_____」


「もう二、三日!?ていうか前半の話今聞いたぞおい!?」


思わずため口になってしまいながらトーマスさんに詰め寄ると、トーマスさんは「ああいえいえ、別に『どうせ力を貸してもらうなら飛び切りのを達成してもらって体よく名声を広めようだなんてあだだだだだ!?』」腕を極めてやった。


「はぁ、そんなに時間が掛かるなら最初に行ってくださいよ、ホントに。こんなゆっくり進んでたんじゃ全く終わらないじゃないですか………」


「いえ、カイ様のスピードで既に常人離れ……」


「ん?何か言いました?」


「いえいえなんとも」


お得意の満面の笑みを浮かべて微笑んできたトーマスさんに苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、俺は特大のタメ息を吐いた。


どうやら、俺の初仕事はまだまだ終わらないらしい。



更に過ぎること数時間。恐らくはもう夕方だろう。更にペースアップしてネズミを狩り続けていた俺は、ふと一つの疑問に差し当たった。


(あれ、トーマスさん全然息切れしてなくないか……?)


汗の一つもかいていないトーマスさんの姿は、少し違和感を感じさせる。彼には戦闘能力はないと思っていたが、実際はある程度強さを持っているのだろうか?


よくよく考えてみれば、最初の一緒についていく発言も、自分の身体能力に自信があるからこそ出た発言だったのかもしれない。


(はぁ、これ以上の面倒は嫌なんだけどな………)


何か重大な計画やら陰謀やらに巻き込まれているのではないか。次第に、そんな気分になってきた。


そうして、一体何匹のネズミを倒したころだったか。


「おお!カイ様、ここがどうやらこの下水道の最深部のようですぞ!」


「やっとか…………………」


大きく深呼吸をして、淀んだ空気に顔をしかめながら背伸びをする。うん、最悪の気分だ。


辿り着いた場所は、今まで歩いてきた道と違って少し大きな広間になっているところだった。そして中を除いた瞬間、俺の中の『気持ち悪さパラメーター』がボルテージマックスになる。


「おいおいおい、トーマスさん、あれを討伐しろって話じゃないですよね……?」


「勿論、そういう話で御座います」


「うそぉん…………」


視線の先、そこには夥しい量のネズミが蠢いていた。気付いた瞬間にさっと身を隠せたからどうにかなったものの、一瞬でも姿を見られていたら碌に心の準備も整えられないまま戦闘する羽目になっていた。


「カイ様、実は今回の依頼、下水道の掃除などという依頼ではないのですよ」


「…………………うん、まあ、そんなことだろうとは察しがついてましたよ」


「おっと!?失礼しました、全く何も気づいていない世間知らずド田舎天然ボーイだとばかり思っておりましたところで………」


「……………(イライライラッ」


「さて、今回の本当の依頼をお教えいたしましょう。勿論、『ただ協力してもらっただけ』なんてケチなことは申しません。今回の依頼を達成したら金貨3枚をお支払いいたしましょう。加えて、旅の必需品も融通いたします」


「…………それはまたどうもありがたいお話ですね」


「そう邪見にしないでいただきたい!今回の目当てはね、今は見えないですがあのネズミの群れの奥に潜んでいる親玉……大鼠の母ラットマムと呼ばれている個体を討伐することです。手段は問いません、ここの施設を多少破壊しても私がどうにかいたしましょう」


「それはまた太っ腹で」


「いえいえ、依頼主としてそれぐらいは当然……と言いたいところですが、今回ばかりは私も腹を括っておりましてね。一言ですましますと、のですよ」


「ッ!!」


いきなりスケールのデカい話に移り変わって、俺の緊張感は一気に高まった。


「あれは、『死灰』の置き土産のようなもの………かの魔王の幹部がとある村を襲撃する際、道中の市町村にばら撒いていった絶望の一つ。そう、その幹部とは………!






________貴方が倒した人物ですよ、カイ・ノーマン」


「なっ!?」


突然自身が成し遂げた行為について言い当てられ、俺は明らかに動揺した。



動揺、してしまった。



「なるほど、ただの鎌かけだったのですが、やはり貴方でしたか………いえね?来た方向が件の村の方向で、不可思議な技を使って、卓越した戦闘力を持つと言えば………流石に誰でも答えに至るでしょう」


「…………それで、何が言いたい?ここでそのことを俺に伝えた意味は?」


。今貴方に言えるのはここまでです。続きは………王都へ向かっていけば自ずと知ることにいなるでしょう」


そこまでの話を俺に伝え終えた瞬間、トーマスさんはいきなり「では!必要な手続きは大体済ませておくので、魔物討伐頼みましたぞ!」と叫んでそのまま通路を走り去ってしまった。


しかも、ネズミの方へ石を投げ、あからさまに俺の位置を敵に伝えて。


「「「「「「ヂュヂュヂュヂュ!!!!!」」」」」」」


「クソ!やるしかないか………!」


俺は木剣に炎の刀身を纏わせ、ネズミの大群目掛けて斬撃を打ち放った………。

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