EP.17 手の内を明かさない。
4月21日……昨日は襲われていた少年を助けたら、バルトン・シミラスに遭遇した。偶然を装い地下にあるバーへ誘い込まれたがあれは敵の拠点そのものだった、そこで分かったのは彼の騎士道精神の魂ぐらいだ、奇襲する日は今日の20時……明確な時間を伝えてまで俺と戦いたいとは……彼らの目的は一体……。
ハンソンドロイド社兵舎のブリーフィング室にてノア艦長と話をしていた。
「奇襲日が今日となれば急いで準備を進めなくてはなりませんね。」
「はい、内通者の可能性を考えて他のメンバーに伝えてはいませんが、ここまでハッキリしてしまえば話しても良いのでは?」
「いいえ、これも敵の策である可能性があります。」
「策?」
「本当に20時に来ると思いますか?」
「あの男が嘘をつくとは思えませんが。」
「あなたのガイア・リンクの記録を見ました。バルトンが奇襲日時を明確にした際、キッカーは激しく動揺した。内部で不安が生じるのは間違いないでしょう。」
「確かに……バルトンが良くても周りが納得いかないか……。」
「彼らの目的は定かじゃありませんが必ず一計を仕掛けます。あえてあの約束事は私達を混乱させる材料なのかも。」
「そしたら俺達は彼らの手のひらで踊らされてる事になりますね。」
「ええ、なのでAD配備は16時頃に行います。彼らの目的は新型である事に間違いない以上、二日前に話た通りの作戦を行います。隊員には訓練とだけ伝えておいてください。」
「はっ。」
一通り話した後部屋を出る、昨日会ったバルトンを思い出すが彼の悲しい表情を忘れない。
あの時彼から手を差し伸ばされたが堂々とその手を握った、人の温もりなどない冷たい感触を忘れられない。
「……。」
『どうしましたか?』
「いや、なんでもないよ。」
そんな会話をしてガイア・リンクにメッセージを送るブリーフィングで話た通り例の内容だ。
ただ一つ問題がある俺はマヤとアリエスタルの連絡先しか知らない、もう一人現在ハンソンドロイドに雇われているリンダというパイロットの連絡先が分からない。
「艦長に聞いとけば良かったな……。」
『なら私が探しましょうか?』
「出来るのか?」
『ハッキングという手段ですが。』
「薄々分かってたけどやめてくれ。」
考えながら廊下を歩いていると奥から声が聞こえてくる。
「冗談じゃない、そんな新米ばかりいる部隊に私が入れるか!それに、隊長が私より年下なのが気に入らねぇ。」
「ですから、事前に話は通してるでしょう?あなたの配属は上からの命令です。前もって契約もしてるのですから……。」
リー副艦長の声ともう一人女性の声が聞こえる、揉めてるのだろうか?
そっと顔を出すと見慣れない長身の女が一人いた。
「これは、エイジ軍曹。こちらアルテミス・クエルAD部隊に配属されます『リンダ・クールー』です。」
「ああ?ナンダァ……このガキ?」
「ええ……。」
初対面にも関わらずこの態度だ、ガラが悪すぎる。
「リンダさん、こちらが隊長のエイジさんです。ADで出撃の際はこの方の指揮下に入ります。」
「そんなん分かってんだよ。こんなぽっと出の木端に何が出来んだ?」
「あなたは少々みくびりすぎている。過去の戦闘記録を見ても彼の能力はそこそこ高いでしょう?」
「ハン……そんなデータなんの役にもたたねぇ。マグレあたりなだけだ。」
正直そこは否定できない、ニューラル・インターフェイス・システムを介してもローラが照準誤差を修正してくれたり勝手に武器を使って応戦してくれたりと勝手に動いてくれている。乗った機体がたまたま特別だという事実に変わりはない。
「あの……急で申し訳ないのですが訓練日時が決まりまして……」
例の話を持ち込む、聞き入れてくれるだろうか。
16時にはADを配備する訳だが殆どの隊員は訓練だと知らされている、真の作戦は上層しか知らない。
「分かったよ、命令だからな。言われた通りに動くぜ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「ちょうど、新型のテストにはもってこいの相手だ。お前の強さが分かると同時に肩慣らしも出来るからな……」
「ん……?」
テスト……?
「武器はそうだな……『模擬用帯電大型ナイフ』と『AD用訓練銃』で行こうぜ。」
「……今日はやめておきましょう、リンダさんには敵わなそうだし……。」
なんてことだ……今ここで承諾してしまえば敵の襲撃に遅れをとる可能性がある。いや、むしろこっちの方が自然だろうか……どちらにせよ急すぎるので良い判断が出来ずらい。
「ほう……負け越しとは頂けないねぇ……ただ私は第三世代ADになる『AD.E-MP』のテストがしたいんだ。マスプロになった機体……これからAD-3は大きく衰退する。勝っても負けても必要なテストだと思うがね。」
「なるほど、訓練予定の日時もちょうど全体通信が入りました。エイジさん、丁度良いのでは?」
リー副艦長はガイアリンクで情報を見ながら同意を求めてくる。
演習自体は16時から……とっとと済ませて例の作戦に移るのが最善か……。
そのままずるずるとリンダの提案を受けてしまった、次から次へと予定が決まっていく。
「はぁ……」
リンダと話を終えると休憩室で缶コーヒーを買いため息をつく。
「これが……思い通りにいかないってやつか……。」
『ですが、これはチャンスでもあります。』
「そうかい?」
『敵が内部に潜んでいるのであればこの訓練に乗じて動きを見せるでしょう。』
「だけどどうやって見つけるんだ?」
『あえてAD.E-1を囮にしてはいかがでしょう?敵の狙いは新型……番号付きにしか的を絞ってません。狙うなら初号機と二号機そして今回囮に使う予定の五号機です。』
「まぁ、俺以外動かせないAD.E-1なら安全か。AD.E-5は強奪された瞬間新型同士で争うがどちらかが勝つ可能性が高いな……」
ここはあえてAD.E-1には乗らずAD.E-MPに乗ってみるか、フェアな戦いを理由にリンダと戦えば彼女は満足するだろうし敵のスパイも分かるかもしれない。早速このことを艦長へメールを打った。
——場面は移り変わりハンソン・ドロイド社敷地内にある軍病棟でニール・カーが数日振りに目を覚ました、彼はベッドに横たわり点滴を打たれながら安静にしていた。
「ここは……」
何も覚えていない、政府の連中に『何かされて』から記憶がない。親父は無事なのか養父ではあるが何かと良くしてくれた、彼へ会いに行かなくては……。
起き上がると左腕に違和感を覚える、点滴……少しだが記憶がほつほつと出てくる薬漬けにされたのが原因か……だめだ……喉の痒いとこまで来てるのに……。何か大事な……。
その時扉が開く、看護婦か?若い……。
「だ、大丈夫ですか?」
見るなりパタパタと近づいてくる、胸には地球政府軍のエンブレム……捕まったという事か……だが、なぜ捕まった……騎士落ちのオレが……手術失敗で雑用係のはずだった、前線に出てどうこうする事はない。
「安静にしてて下さい。」
体を触れられる、ベッドに寝かせ付けようと言うのか……。
「ここは何処だ?お前は一体……。」
急な出来事について行けず基本的な質問をする。
「ここは地球にあるハンソン・ドロイドの軍病棟です。私はアルテミス・クエルのナース、シア・アグラーです。」
アルテミス・クエル……なんだ……頭が痛い……。
「ああああああああああ!!」
なんだ死ぬのか……おれは騎士じゃない。頭にチップなんざ埋め込まれてる訳ないんだ!
ベッドサイドモニタの心拍数が急激に上がる、血圧も上がると警告音がなる。
シアは急いで呼び出しボタンを押すと同時に鎮静剤を使う。
「やめろおおおおおおおお!!俺の記憶を飛ばすつもりか?!」
思い出したぞ、走馬灯でも見てるのか、何かされた後連続で薬を流し込まれたそこから記憶がないいいいい!
やばい……意識が……。
ニール・カーは再び眠りにつく、監視カメラの映像を政府は見逃さなかった。
——それと同時にハンソン・ドロイド社敷地内にある整備兵用の兵舎では……。
時刻は15時と訓練時間まで差し迫っていた。
「……はい……ええ、ハンソン・ドロイドはこれからADを配備するようです。全体通信では訓練と話してますが虫が良すぎませんか?」
『ああ、俺たちを警戒している。隊長は別行動を取るようだ、責任は持つとのこと。』
「では時間は……前倒しになると?……了解です。五号機が格納された倉庫の場所を送ります。」
『助かる。』
「同志である以上協力は惜しみません。追加ですがその倉庫にもう一機情報が開示されてない機体が搬入されました。」
『五号機じゃないのか?』
「分かりません。注意して下さい。」
『私にかかれば造作もない、他に情報はあるか?この通信は安全だ、記録こそ残るが一兵士と思われてるお前だ、プライベートぐらい守られるさ。』
「では、もう一つ。『アタリ』の存在ですが、恐らく初号機かと。」
『もう分かったのか?』
「はい、整備した時アルテミス・クエルの若い男の整備兵から聞きました。どうやら他のガイア・システムと違い独立してるとの事。なので勝手にプログラムを組まれたりしたおかげで今はエイジ・スガワラというパイロットしか操縦できないようです。」
『……分かった、念の為計画目標である五号機は一応調べる。できれば二号機も調べたいが話を聞く限り初号機の可能性が高いな……隊長が勝てば頭部だけ引っこ抜いて強奪できるが……今は信じる他ない。』
「では、戦果を期待しています。」
通信を切るとまた別の通信が入る。
『おーい、ミランダちゃーん!もう、そろそろ訓練時間だぜ!外で待ってるから一緒に行こう!』
「ええ、すぐ行くから待っててねマルコス。」
EP.18へ続く……。
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