EP.8 強さの証明
アルテミス・クエルの自室のベットで横になっていると警報が鳴り響く。
『ネスト宇宙空域に敵機発見!AD部隊はパイロットスーツに着替え準備してください!』
俺は直ぐに自室でパイロットスーツに着替える。
「従来のと違ってピチッとしてるな……。」
旧型のADに乗ってた時のパイロットスーツは厚かった、それは体温を下げないように工夫された構造だった為であり、旧型は隙間だらけで宇宙戦ではヘルメットに直接酸素ホースを繋げたりと試作段階的であった。
「ヘルメットは相変わらず酸素ホースのコネクターが付いてるのか……ん?」
ヘルメットの中を覗き込むと頭を保護する用のパッドだろうか……にしては何か機能がありそうな……。
『それはニューラル・インターフェイス・システムの効果を上げるための補助的な物です。』
ガイアリンクが反応し俺の疑問に答えてくれた。
「どこから見てるんだ?」
部屋にはカメラが無いはずだなんで俺の行動が筒抜けになってる?
『そんな事より格納庫へ向かってください。』
「ああ、そうだな……」
確かに今は一刻を争う、モタモタはできない。
格納庫へ行くとマヤとアリエスタルが居た。
「遅いっすよ。」
マヤに注意された。
「すまん、着慣れてなくて……。」
「隊長、監視カメラの映像では敵は直ぐにでも居住区内に潜入しアルテミス・クエルの居るネスト1格納庫までやってくるでしょう。」
アリエスタルが状況を話してくれる。
「分かった、二人はAD内で待機。直ぐにでも命令が出るはずだ。」
「「了解!」」
各々が自分の乗るADコクピットに入り待機する。
「いいかエイジ、初号機にはA装備を試してもらう。」
マルコスがコクピットに近づき装備の説明をしてくれる。
「A装備?」
「ああ、宇宙兼用のジェットバックパックに左手には速射砲、右手に貫通砲を装備させた。左腰には供給式帯電大型ナイフに右腕のマウント部分に供給式帯電パイルバンカーをマウントさせておまけに後ろ腰には速射砲を一丁マウントさせてある。」
「重くないか?」
「大丈夫だって、AD.E-1は思いの外力持ちだ。気になるなら外して軽くしたら良い、なんでも政府がデータを欲してるようでさ……狩るだけ狩った方が自分の好きな装備にできると思うぞ?」
「そうか……。」
政府はこの新型のデータを収集し量産させるようだが本当にそれだけだろうか?他の狙いもありそうだが……。
「あと、今回供給式の武器が二つある。てことはバッテリーの切れが速いから気をつけろ。」
マルコスと話が終わり彼は別の作業へ移って行った。
『聞こえるかエイジ君?』
メインブリッジから通信が入る。
「はい聞こえます。」
『私は戦術長のマサトシだ、現在宇宙空域の味方AD部隊は全滅し新型宇宙用のADが常に巡回している。そして君を追い込んだ黒いADが格納入り口をこじ開けている。分かっていると思うが彼らの目的は新型だろう。』
以前バルトン・シミラスが言っていた目的を思い出す。彼らにこの機体が渡ると勝機はない。
『彼らの作戦は恐らく黒いADがアルテミス・クエルの格納庫へ潜入、それに焦った我々が宇宙へ出て宇宙用新型に落とされるシナリオだろうがその手にわざわざ乗りはせん。』
「一応袋のネズミですが……。」
『奴らは最短ルートを目指すだろう。そのためには地上の平地を使いここまでやってくるはずだ、入り組んだ格納庫内は迷路のようになっている。壊して進まん限り時間のかかる事はしないだろう。』
「なるほど俺達は地上へ出て彼らを向かえ撃てば良いと?」
『そういう事になる、アルテミス・クエルはネスト1の外には絶対に出てはならん。艦長のハッキング対策として宇宙用新型はセキュリティーを変えてる可能性がある、同じ手が効かん以上死地に飛び込むような物だ。』
「分かりました。」
『さて、敵AD部隊がネスト1内部へ侵入したようだ。全部で六機……地上の味方ADは数が少ない、このまま全滅させては守れる兵器がなくなる。お前達だけが頼りだ。』
「了解。」
俺達はアルテミス・クエルから出て昇降機に乗り地上へ登って行く。
『こちら二号機、ネットワークは良好。さすがネスト内での戦闘は私達に分がある……。』
ネスト内はネットワークが混線していないため正規である機体……つまり地球政府の機体であればネットワークが使えるため機体を接触して通信を行う必要はない。たまに月政府ADが使えるようにADに内蔵されたガイア・システムをイジってネスト内で使えるようにする輩もいるがみんなそれができる訳ではないし何より皆が使えなければ意味がないため月政府ADは不利な戦局になるはずだ。そんな中でもバルトン・シミラスは単騎でも以上なまでの強さを誇った、孤高の黒騎士とでも言うべきか……。
『逆に言えばネスト3のガイアシステムは月政府が使えるって事だろ?ネストの防衛戦ってなればどちらも有利だろうよ。』
アリエスタルが思い出したように話す。
「そろそろ地上だ……気を引き締めよう。」
地上に出ると奥の方で銃撃戦が始まっていたが黒い機体が一機無双していた。
「俺が前に出る、マヤは近接戦を仕掛けてアリエスタルは狙撃を頼む。」
『『了解!』』
初号機は空中へ飛び二号機は機動性を生かした速さで敵との距離を詰める、アリエスタルの乗る機体は狙撃ポイントを作り狙撃の体制へ移る。
「こっちだ!」
初号機は敵との距離が近くなると発生音声で敵の注意を引く。
月政府ADは初号機を見ると発砲する。
「そう簡単に!」
機体は空中で回避ステップをするが装備が重いし回避した後はGが体にのしかかる。
「がぁ!くそ……」
変な声を出したのと同時に脇腹が痛む、以前の拷問で肋にヒビが入ったのが良くなかった。
『狙撃支援します。』
ガイアシステムが反応し右手の装甲貫通砲が火を吹くと見事に敵ADを撃ち抜いた。
『残り五機……黒いADが接近……』
ガイアシステムが状況を確認する。
「黒いADは後だ!取り巻きを倒す!」
『了解。』
超負荷に耐えながら急降下し敵ADの間を超スピードで縫っていく。
「食らえ!」
四機の取り巻きの背後に抜けバックターンをすると装甲貫通砲で攻撃する。
浮いてるので衝撃が直に伝わる。そのせいか弾は外れ敵の腕に当たる。
『これはダメですね……装備を持ち替えましょう。』
すぐさま右装備を捨て速射砲に持ち変える。
「かなり軽くなったな。」
敵の攻撃が来る前に急上昇し回避する、奴らが初号機に注目してると背後から二号機が襲い掛かる。
「よそ見しないで。」
マヤが呟き敵を二体真っ二つにする。
「さすが対AD用刀……何でこんな斬れるかな……。」
すると二機がマヤに向かって速射砲を乱射するがそれを避け右腕にマウントされた25mm速射砲で牽制する。
「全く……遠距離は使いもんにならないか……。」
マヤが二号機の愚痴を漏らしながら近くの建物へ素早く隠れると、遠くから貫通砲の弾が飛んできてその二機は破壊される。
『こちら三番機、取り巻きの排除に成功。残りは……』
アリエスタルが通信をすると……
「アリエルタル!そこから離れろ!」
『え?』
黒いADが姿をくらましたのだ、ここから俺の近くにはマヤがいる。つまり離れているのは……。
その声も届かずアリエスタルの乗る機体の背後に黒いADが姿を現す。
「甘いな!」
バルトンは容赦無くヒートナタを叩きつけるとアリエスタルの機体が損傷する。
「く……あと少しずれてたら……」
アリエスタルは切られる寸前咄嗟に機体をずらしたため背後のバッテリーを避けられたようだ。
俺は急降下しバルトンの機体に蹴りを入れると後ずさる。
「面白いぞ新型!」
バルトンは右腕のワイヤーアンカーを放ち初号機の足に食い込む。
「しまった!」
そのまま引っ張られるが推進力のある初号機は振り切れそうだった。
「こっちだ黒いの!」
マヤがバルトンに突っ込むと右腕のワイヤーアンカーは諦めて戻しヒートナタで二号機の刀の攻撃を受け止める。
「ほう……剣か……。」
バルトンはマヤに蹴りを入れた後足に装備されたタイヤで地面を滑らせ後退し俺達から距離を置く。
『聞こえるか!三人まとめてかかってくるが良いさ!』
バルトンの機体から嬉しいとでも言わんばかりの声が響く。
「舐めるなよ!」
マヤは思いっきり突っ込むと、バルトンがそれに応じナタを構える。
「突っ込みすぎだ!」
マヤは恐らくバルトンの恐ろしさを知らない、彼は間違いなくエースであり最強格だ。
マヤの斬撃はあっさりといなされてしまう。
「筋は良い……だが……。」
今度はバルトンの攻撃だが、足を二号機の胸の部分に掛けてそのままタイヤを滑らせバク転する。
「なんだその動き?!」
アリエスタルは速射砲を構え準備していたが見た事ない動きに驚いた。
マヤの機体はその反動で後ろに倒れ大きな衝撃がコクピットに響く。
「いだ!」
バルトンは着地するなりすぐに右腕をアリエスタルの方へ向けワイヤーアンカーを射出し速射砲を弾くと接近する。
「危ない!」
俺は両手に持った速射砲でバルトンの機体に当てるとバルトンは地面を滑らせ距離を取ろうとするが、こっちも足を着いてホバー移動のようにバルトンの機体を追従する。
「付いてくるか……良いだろう!」
バルトンは左手にマウントされている恐らく25mmの速射砲を撃って牽制する。
「私に銃を使わせるとは……」
お互い遮蔽物に身を隠しながら撃ち合いをするが先にバルトンの弾が切れる。
俺はそのまま敵の弾切れを確認すると遮蔽物を越え、バルトンと対峙する。
バルトンは両手にナタを装備し俺は速射砲をそのまま浴びせ続ける。
バルトンの機体は速射砲の雨を喰らっては避けて突き進むと装甲がボロボロになっていく。
「ここまで私を追い込ませるか!」
左手のナタを初号機に投げると上手い事かわす、ガイアシステムが操作補助をしてくれたおかげだ。
「そこだ!」
速射砲の弾がどっちも切れるとその場で投げ捨てて左腰の大型ナイフを左手逆手に持ち右のパイルバンカーを準備する。
「くるか!」
両者はお互いの攻撃が当たる位置に来るとエイジは右手パイルバンカーを、バルトンは右手ナタで攻撃しようとするとバルトンはエイジの攻撃を予測し左肩にパイルバンカーをわざと喰らわせた。
「何?!」
エイジは明らかに喰らいに行ったバルトンを驚くがそのまま強力な電気を流し込む。
「ぐわああああああ!!」
バルトンは強力な電気の餌食になり機体中から黒い煙が出るが右手のナタで左肩を切り落とした後、エイジの機体に斬りかかる。
「早い判断!見事だ!」
ナタはエイジのコクピットに突き刺さる直前、横からマヤの機体が出てきて刀でナタが弾かれる。
「はぁ……はぁ……三人まとめてかかって来いって言ったよね?」
「潮時か……。」
遠くから貫通方が飛んでくるとバルトンはそれを避け一気に距離を置く。
すると上空で大きな爆発が起こり大気は外へ漏れていく。
『ネスト上部に破損あり。住民は地下へ避難してください。』
ネスト住民用のアナウンスが流れる。
「なんだ?」
エイジは上を見る。
『た……よ……っきが……』
アリエスタルの通信だろうが上部が破損してるためかその影響が出ている。
空のホログラムが消えて辺りは暗くなり赤いホログラムと警報が鳴り響き不安を煽る。
『白い機体!名をなんと言う?!』
「エイジ・スガワラ……。」
『覚えたぞ……その名。』
すると上空から宇宙用の新型がバルトンの機体に接近する。
「に……逃がさない!」
マヤの機体は宇宙用の新型に飛んで行くがビームマシンガンで牽制されるも圧倒的な機動力で詰めて行く。
「なんだこの機体?!」
コクピットの中でアン・シルバーが二号機の機動性に驚いていた。
『アン!放っておけ!』
『分かってるって!私たちにはまだやる事があるからな!』
宇宙用の新型はバルトンの機体を抱えて信じられない速さで破壊した穴まで飛んで行った。
穴の空いた部分は隔壁が閉まり大気を逃がす事は無くなった。
『だ……だめだ……体が……。』
どうやらマヤの様子が良くない。
「機体は動かせるか?」
『な……なんとか……。』
「アリエスタルも帰還しよう。アルテミス・クエルまでマヤを運ぶぞ。」
『了解。』
ニューラル・インターフェイス・システムのせいか、二号機の進みが遅い。見ていて心配になる程だ。
アルテミス・クエル格納庫にマヤを運び二号機のククピットを開ける、マヤがヘルメットを脱ぐと汗を大いにかいていおり顔も赤く風邪ぽい感じだった。水を渡ししばらくすると落ち着いたが顔は赤いままだった。
コクピットから降ろし近くの椅子に座らせる。
「大丈夫か?」
心配になり様子を伺うが……。
「はい……この機体に乗っていると感情が昂るというか……。」
「感情?」
「先輩はならないんですか?」
「疲労感は覚えるけど感情がどうこうはならないな……。」
「そんな事より私シャワー浴びてきます。汗も酷くて……」
背中のジッパーが開くとプシュっという音と共に彼女の汗の湯気が出る。因みに中は黒のスポーツインナーでありパイロットスーツの中は基本それを着ている。
「おい、ここで脱ぐな。」
「汗臭いですか?」
「分からん、まだ匂ってこない。」
「とりあえずおぶって下さい、足が動かしにくくって……。」
「仕方ない……」
彼女とは学生の時からこんな感じだが、一人の女性として意識した事は一度もない。変に絡んでくるので俺を遊んでる可能性があるし、その時付き合ってた女性も居たので手は出そうとは考えてなかった。
「シャワー室ってどこ?」
「この先です。」
言われるがまま案内された通りに進む。
「この部屋ですね。」
「俺も浴びようかな……」
自分も汗ばんでて気持ち悪い、戦闘後の招集まで時間はあるし浴びて損はないだろう。
中に入ると男女で分かれておりマヤと別れた後中で服を脱ぎ個室のシャワー室へ入る。
「狭いな……」
個室のシャワーは5部屋ある、女子も同じ数なのかな?
「マルコス達整備兵はシャワー浴びないのかな……相当匂ってたが……。」
彼らはずっとアルテミス・クエルの修理に駆り出されている、シャワーなんて浴びる時間はないのだろう……なんか大変だな……。
すると誰か足音が聞こえる、整備兵の誰かかな?
そんな事を考えているとドアが開くがそれは自分が使っている個室だった。
「は?」
訳が分からず後ろを見ると全裸のマヤが居た。
「ダメですよ、一人だからって鍵も閉めないのは……。」
「とりあえず出てってくんない……てかここ男性用の部屋なんだけど……」
こんな事でドキドキしてはられない、ここはクールに決めなければ……。
「なんか分からないんですけど……気分と言いますか……機体に乗ってからムラムラが止まらなくて……」
「だからってこんな狭いとこ入ってくんな!」
マヤはそっと鍵を閉めこちらに近づいてくると色々当たる。
「先輩はあの時本当に彼女が好きだったんですか?」
すると彼女から学生時代の話をされる。
「なんで急に……」
「私だったら理解してあげれたのに……。」
すると彼女に抱きしめられるがかなり強い、特にヒビの入った肋がきつい。
「ちょ、ちょっと……強い……。」
普通だったら喜ぶところだが痛すぎてそれどころじゃない。
「知ってますか……先輩が除籍した途端すぐに新しい人をみつけたんですよ……私……先輩が幸せならそれで良かったんです。でもあの女はいとも簡単に……。」
「スレンには言ってあるよ……もし帰ってこなかったら忘れろって……ただ単にカッコつけただけなんだけど……」
「だとしても私は許せなかった。」
「マヤ……」
「だから、ちょうど性欲を発散させると同時にここで関係を作ればモーマンタイ。」
「んな訳あるか!」
個室でぎゃーぎゃーしてるとまた誰かが入ってくる。
すると鍵の掛かってたドアが解錠され開く。
「「え?」」
そこにはリーが立っていた。
「ここは男性用のシャワー室です、女性を連れ込むとは……何を考えてるのです?」
リーは俺をゴミを見る目で見ていた、逆に襲われてましたなんて言っても信じてもらえるのだろうか?
EP.9へ続く……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます