第31話 洋館での発見
今回の遠征撮影でまさかひいお祖母ちゃんの知り合いに出会うとは思わなかった。
僕はいつか李木蘭という女優のことをきちんと調べて、一つの作品にしようと心に誓った。
それは僕と美琴のルーツに関わる話だ。
それにエンタメとしてもきっと面白いものになるだろう。
それには戦前のひいお祖母ちゃんのことを詳しく調べないといけない。
僕のライフワークが一つ決まったと思う。
理央が借りた洋館は南京街からタクシーで三十分ほどの距離のところにあった。
いわゆる異人館が立ち並ぶエリアの端にある。
観光客なんかには解放されていなくて、個人の所有物であった。所有者は理央の叔父さんであるということであった。
タクシーを降りて見るその洋館は大正時代を思いおこさせるおもむきがあった。どこかノスタルジーをかきたてる雰囲気がある。
「わあ、素敵」
美琴がその洋館を見て、シンプルな感想をのべる。
僕も同じ感想であった。
これはいい写真が撮れそうだ。
それにしてもこんなに広くて、おもむきのある洋館を個人で所有する理央の叔父さんとは何者だろうか。
「理央の叔父さんって何者なの?」
僕は興味がでたので訊いてみた。
「うーん、なんか何してるかよくわからないのよね」
理央はうーんとうなりながらそう言った。
あんまり深くつっこんではいけない空気が親族の中ではあるようだ。
「もしかして反……」
僕がそう言いかけたのを理央は途中で止めた。
「それは絶対ない。子供の時きいたら正義の味方だっていってたから」
理央の目は真剣なものであった。
その目は嘘をついていないと思わせる迫力であった。
まあこの話題はここまでにしよう。
深堀しても仕方がないし、時間の無駄だ。
僕たちはこの洋館で美琴をモデルにアサシンバニーガールの撮影をしなければいけないのだ。
理央が預かった鍵で洋館の鉄扉をあける。
こじんまりとした庭であったが、よく掃除されていて清潔感が漂っている。
敷地内なのでここで撮影するのもいいだろう。
洋館の中はシンプルなつくりであったが、レトロな雰囲気で背景としてはこれ以上のものはないと思わせた。
理央と美琴は着替えのため、奥の小部屋に消えた。
「お兄ちゃんも一緒にきてもいいよ」
小悪魔めいた笑みで美琴はそう言った。
理央の手前、僕はそれをことわった。
なんだか僕のまわりの女性はリテラシーがバグっているのが多いな。
僕が南京街で撮った画像をチェックしていたら、バニーガールに着替えた美琴が出てきた。
メイクがアサシン特有のきつい目つきになっている。クールビューティーといった雰囲気がある。
肩紐のないバニー姿で足は網タイツを履いている。溢れんばかりの胸元はとてもセクシーだ。
アサシンバニーガールの最大の特徴である尻尾代わりのXМD40がつけられている。
「ほら見てお兄ちゃん」
美琴はぷりんとしたヒップを僕に向ける。
理央にしても美琴にしてもこの衣装を着るとなぜかヒップを見せたくなるようだ。
僕はさっそく美琴のアサシンバニーガールの写真を撮る。
我が妹ながらセクシーこの上ない。
「美琴ちゃん、バニーも可愛いわね」
理央も美琴のテンションをあげる。
美琴は褒められると乗り気になるようで次々とセクシーなポーズをとっていく。
それに理央は乗せ上手だ。盛り上げ役としても理央は大したものだ。
僕たちは洋館のあちこちでアサシンバニーガールを撮影した。
さしずめ設定はとある洋館に潜入した暗殺者といったところか。
特に僕が良いと思った美琴のポーズは前かがみになって上目遣いでこちらを見るものだった。
深い胸の谷間が目を引く。
今回の衣装は前に理央に借りたものではなく、新しく購入したものだという。
理央のバニー衣装では胸元が苦しいと美琴は言っていた。そのことは理央の前では言わないようにときつく注意しておいた。
前のものと違い美琴のスタイルに合っていて、動きやすそうだ。
「新しく買ったこのバニースーツ胸が出る心配がなくていいわ」
ウインクしながら立つ美琴はそう言った。
「そ、そうなの。良かっわね」
頰をひくひくとひきつりながら理央は言った。
止めても自然と言ってしまうのが美琴であった。それに悪気がないのがわかっているだけにたちがわ悪い。
外に出て、庭でも撮影を行った。
夕日をバックにする美琴は幻想的であった。
ロム写真集の表紙はこれにしようと思う。
正義のためとはいえ、殺人を犯すことにためらう星野碧の憂いのようなものが見えた。
美琴はアサシンバニーガールを一つ上の段階にステップアップさせたような気がする。
再び洋館の中に戻り、僕たちは撮影を続ける。
もうかなりの枚数を撮ったと思う。
撮れ高はばっちりだ。
明日からは二千枚近い画像の編集作業が待っている。この日撮った画像から百枚ほど選ばないといけない。どれもこれも素敵な写真なので取捨選択に時間がかかりそうだ。それに書き下ろしのイラストも仕上げないといけないのでやることが盛り沢山だ。
僕たちは休憩のために大きなソファーがおかれた部屋に入る。どうやら応接間のようだ。
僕と理央はソファーに座り休憩する。
美琴はバニー姿のまま部屋の中を見て回る。
美琴はクローゼットから白い羽織をみつけた。
顔には何処で見つけたのか、狐のお面をつけている。
「お兄ちゃんこれ見てよ」
白い羽織に腕を通して、美琴はくるくると回る。
「うふふっ美琴ちゃん玉藻の前みたいね」
理央は怒ることもなく美琴の様子を微笑んで見ている。
どうやら洋館の中の物も自由に使って良いということだ。
僕はそんな美琴を見て、想像する。
陰陽師の兄と狐の妖魔となった妹の物語をだ。
理央の時ほどではないが、天啓のようなものが降りてきた。
この脳内物質が溢れる感覚は何物よりも気持ちいい。
「なあ理央、ここに袴もあるかな」
僕は立ち上がる。
「うん、あったと思うけど」
「アサシンバニーガールは十分撮った。美琴、羽織袴で狐面をつけてきてくれないか」
僕が言うと理央と美琴はわかったわと答える。
程なくして羽織袴姿の美琴が戻ってきた。
頭には狐面をつけている。
「美琴、喜んでくれ。おまえのオリジナルキャラクターができたよ。名付けて九尾の
僕が言うと美琴は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
僕の三人目のキャラクターである狐の妖女九尾の
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