第11話 ライク ア シューティングスター

いよいよ始まる決勝戦。ニューオーダーの決勝と全く同じ対戦カード、それも両チームのエース同士の一騎討ちともなれば、観客の期待もひとしおだ。会場の熱気は最高潮に達し、司会の口上も普段より長く、その高揚感を煽っていた。


リリアは、その司会の長い口上の間に、ナツメに通信を送った。


「今回は手加減なんてさせないからね、ナツメ」


リリアの声には、確かな挑戦の響きが込められていた。ナツメは、とぼけたように返した。


「手加減?なんのことやら」


「あの決勝の最後の一合。レールガンじゃなくて胴体を狙って相討ちにも持ちこめたのに、僕に勝負を譲ったでしょ」


リリアの言葉に、ナツメは薄く笑った。


「実戦であればそうしたというまでのこと。君がイフリートを下げたようにね」


ナツメの主張としては、実戦において、道連れにするよりも、少ない被害で最大の脅威であるレールガンを無効化させることこそ有効な手段であるということだろう。確かに実際の戦場で主武装が破壊されれば、リリアと言えどそれ以上の戦果は望むべくもなかった。クルセイダーも、帰艦後ジェットのパーツを交換するだけですぐに戦線に復帰できるはずだ。コンペティションのルールと、戦場での立ち回りには、どうしても乖離が生じる。リリアはナツメの言葉に納得し、開始の合図を待った。


カウントダウンがゼロになった瞬間、ナツメのクルセイダーは噴射炎を上げ、最短距離でリリアのハイドラに迫った。対するリリアは、垂直上昇しながらハイドラのメイン武装であるレールガンを構える。


トップクラスの装甲を誇るクルセイダーを、レールガンの一撃で葬ることは不可能だ。それでも体勢は崩れるだろうし、そう何発も受けられるものではない。問題なのは、一般的な機体が相手であれば余波でダメージを受けるところを、おそらくクルセイダー相手だと余波が掠めた程度では、小動してくれるかどうかが関の山という点だ。連射が効かない以上、外した後はしばらくナツメのターンになる。絶対に当てられるタイミングまで引き金を引けないこの状況は、まさにチキンレースのようだった。



会場の限界高度が迫る前に勝負を決めなければならない。リリアは、次のマニューバのイメージを心で描きながらレールガンを放つ。そして、その弾道の軌跡を辿るように、自身のハイドラを鮮やかに翻した。


ナツメは当然のようにレールガンを回避したが、さすがに今避けた軌道に飛び込んでくる機体に反応することは難しかった。リリアはすれ違いざまに短機関銃の弾を放ち、クルセイダーの装甲に光が散る。影響としては、わずかにエネルギーを削られただけではあるが、今の一合はリリアに軍配が上がる形となった。




その瞬間、アストラル側の観戦席から、アンの弾むような声が響いた。


「よっしゃー!リリアさん、いい感じっス!」


アンは飛び跳ねるように喜びを露わにするが、隣のキャシーは浮かない表情のままだった。彼女の冷静な分析眼は、この一合の後に何が起こるかを既に予測しているかのようだった。




一方、エクリプス側のエリアでは、エリが心配そうにモニターを見つめていた。


「ナツメさん……!」


シェリーは、そんなエリの横で腕を組み、静かに状況を分析する。


「心配ないさ、エリ。レールガンを避けた時点で、ナツメが優勢になったと言っていい。勝負はここからだ」




そこからも、ナツメが追い、リリアが逃げる構図が続いた。リリアがレールガンを構えようとすると、ナツメはアサルトライフルで牽制し、先ほどと同じようにはいかない。リリアは再び、読み合いに持ち込もうとする。



リリアは垂直に高度を落とし、地面すれすれを滑空する。ナツメは勢いを殺さず、一瞬で先回りして着地した。クルセイダーの脚部が地面に着くと、地響きが鳴り、砂埃が舞い上がった。リリアはすんでのところで衝突を回避するが、ナツメは寸分の狂いもなく、その回避先に回り込む。



まるで猛獣が獲物に食らいつくように、リリアに迫るナツメ。人間が一人入れるかどうかというわずかな隙間を維持したまま、二機のドレスが凄まじい速度で飛び続ける。


ナツメの手刀が、リリアのハイドラを襲う。リリアはあえて左腕でその攻撃を受け、吹き飛ばされながらもレールガンを放った。ナツメはそれを鮮やかに躱してリリアに追撃を試みる。


ナツメに追いつかれる寸前、リリアは宙返りをしてレールガンをナツメに向けようとしたが、ナツメは驚異的な加速でリリアの宙返りにぴったりと着いてきて、その背後を取った。


「うそでしょ……」


リリアのその言葉が響いたのを最後に、背後からクルセイダーの強烈なサマーソルトキックを受け、ハイドラに撃墜判定が下された。


圧巻の決着に、会場からは割れんばかりの歓声が巻き起こる。




エリは感極まった表情で、シェリーと顔を見合わせた。


「ナツメさん……!」


「ああ、勝ったぞ」


二人は勝利の喜びを分かち合うように、強く頷き合った。




この日、ナツメ・コードウェルは、「シューティングスター」のタイトルを獲得した。

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