第2話「初めてのファミレス」
【前回までのあらすじ】
期末テスト最終日の朝、桐人は血脈の継承者としての変化を実感しながらも日常生活を送っていた。しかし、吸血鬼に操られた絢音は一週間も姿を見せず、不穏な空気が漂い始める。テスト終了後、桐人はユリとさくらをランチに誘う約束をしていた。
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テストが終わってすぐ、俺はスマホで「精進料理」と検索していた。
すると「ヴィーガンメニュー」というものを見つけた。
ファミレスでも頼める所があるようだ。
「よし、ここにしよう」
俺は二人に声をかけ、駅前のファミレスへと向かった。
歩きながら、さくらが控えめに言う。
「桐人、本当にごちそうになっていいんですか?」
「当然だろ。約束したんだから」
「でも、私の食事制限のせいで、お店選びも大変だったでしょう?」
さくらの遠慮がちな様子に、胸が痛んだ。
「そんなこと気にすんな。それより、ファミレス行ったことあるか?」
「いえ、実は……」
店内に入ると、さくらがきょろきょろと辺りを見回している。
「ファミレスとはこうなっているんですね」
「やだ、さくら、ファミレスに来た事ないの?」
ユリが驚いたように聞く。
「はい、初めてです。私は肉や魚が食べられないので、外食はほとんどしたことがないんです」
さくらが少し恥ずかしそうに答えた。
その表情に、今まで知らなかった一面を見た気がした。
「実は、小学校の頃から友達との外食は避けていました」
さくらが打ち明ける。
「みんなが美味しそうに焼肉やハンバーガーを食べているのを見るのが、少し辛くて」
「さくら……」
ユリも複雑な表情を浮かべる。
「だから、今日は本当に嬉しいんです。こうして一緒に食事ができて」
さくらの笑顔が、少し寂しげに見えた。
* * *
「いらっしゃいませ〜!三名様ですね」
窓際の席に案内されると、さくらは興味深そうにドリンクバーを眺めた。
「あれは何ですか?」
「ドリンクバーだよ。一回頼めば好きなだけ飲み物が飲めるんだ」
「まあ、そんな便利なものが」
さくらの反応が新鮮で、ユリも楽しそうに説明を加える。
「さくら、普段はどこで食事してるの?」
「基本的には家です。道場の厨房で、専門の料理人さんが作ってくれます」
「専門の料理人!?」
ユリが目を丸くする。
「はい。代々大宮家に仕えている方で、精進料理の達人なんです」
(さすが由緒ある道場の跡取り娘だな)
でも、それは同時に、さくらが普通の高校生活から切り離されていることも意味していた。
「私から説明しますね。正確には私はヴィーガンではありません」
さくらが丁寧に説明を始める。
「ヴィーガンは動物性由来のものは一切食べないし、毛皮や革製品も使わないという信条の人たちです」
「私の食事はあえて分類すれば、乳菜食主義と言われています」
「乳菜食主義?」
「はい。野菜と乳製品は食べられるんです」
「ただ、私の場合は肉や魚、卵にアレルギーがあるから食べられないだけなんですけど」
俺は心の中で苦笑する。
本当は、血脈の継承者の代償を抑えるためだということを、俺は知っている。
でも、ユリの前では言えない。
メニューを開くと、俺は早速ヴィーガンメニューのページを探した。
「ここだ。さくら、このページなら全部食べられるはずだ」
「本当にたくさんありますね……」
さくらは目を輝かせながらメニューを見ている。
「どれにしようかな……全部美味しそうで迷います」
「ゆっくり選べよ。急ぐ必要はない」
「私はこのヴィーガンパスタセットにします」
「じゃあ、あたしは普通にハンバーグセット」
「俺はステーキセットで」
注文を終えると、ユリがドリンクバーに行こうと立ち上がった。
「さくら、一緒に行こう。使い方教えてあげる」
「はい、お願いします」
* * *
料理が運ばれてくると、さくらは少し緊張した面持ちでフォークを手に取った。
「いただきます」
三人で手を合わせる。
さくらが一口食べると、その表情がぱっと明るくなった。
「美味しいです!野菜だけでこんなに美味しい料理ができるんですね」
「だろ?最近のヴィーガン料理は進化してるんだぜ」
俺が得意げに言うと、ユリが茶化す。
「へー、桐人がそんなこと知ってるなんて意外」
「俺だって色々成長してるんだよ」
和やかな雰囲気の中、さくらが嬉しそうに食事を続ける姿を見て、俺は誘って良かったと心から思った。
「こんなに楽しい食事は久しぶりです」
さくらがふと呟く。
「お爺様との食事も楽しいですが、同年代の友達とこうして食べるのは特別ですね」
(友達、か)
さくらにとって、俺たちはどんな存在なんだろう。
「桐人、ユリ、ありがとうございます。初めてのファミレス、忘れられない思い出になりました」
さくらの純粋な笑顔に、俺もユリも自然と笑みがこぼれた
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