世界最強だった私、今回のダンジョンは“転生型”、与えられた役は——最弱でした。
みーあんどゆー
第1話
この世界に初めて“ダンジョン”が出現して、もう10年が経つ。
みんな、ダンジョンと共に暮らすことに、だんだん抵抗がなくなってきた。
人間は、ダンジョンを攻略することで、なんとか生きている。
攻略に成功すれば報酬がもらえる仕組みで、その報酬で欲しいものを買ったり、食べたり。まあ、いろいろ。
それが、この世界の経済ルールなんだけど。
もちろん、ダンジョンにはレベルがある。
難しくなるほど敵も強くなって、死ぬ可能性も高くなる。
それでも、報酬が高いからって無茶して挑んで――死んだ、ってニュースが最近はやたら多い。
レベルも低いのに、なんで報酬目当てでレベル999のドアを開けちゃうのか、ほんと意味わかんない。
まあ、国家もそれに対策して、「ドアをノックする前に予約が必要」って法律を作ったけど。
……まあ、それは置いといて。
問題は、“今回のダンジョン”だ。
いや、もう大変なことになってる。
私は、世界最強のS級攻略者という肩書きを持つ、朝霧 澪(あさぎり みお)。
……って言っても、「最強ですけど?」って感じじゃない。
基本、私はいつも仲間に振り回されてる側だし。
でも、ダンジョンの攻略数は国内トップクラス。
戦闘指揮も、作戦構築も、分析も、一応全部できる。
まあ、コツコツやってきただけなんだけどね。
自分から“最強”とか言うタイプじゃないけど――まあ、言われることは多い。たぶん、実力はあるほう。
そんな私は、いつも、幼なじみの二人と一緒にダンジョンに挑んでいる。
二人とも、私と同じくらいの実力を持っていて、本当に頼れる仲間たちだ。
まず一人目。
幼なじみ歴17年。
見た目は爽やか系好青年。……に見えて、性格はすっごく雑。
伊吹 晴翔(いぶき はると)。
SNSでは「イケメン!」とか騒がれてるけど、実際に一緒に過ごしたら、たぶんみんな幻滅すると思う。
いや、絶対する。
主な武器は大剣。職業は“バサクラ”(バサーカークラス)。
計画とか戦略とかは基本どうでもよくて、「敵っぽいな〜」って思ったら、とりあえず斬る。
一緒に育って、特訓もずっと一緒だったから、晴翔の行動パターンはだいたいわかる。
だから、毎回なだめるのは私の役目。
……でも、強いのは本当。
晴翔が中二で、まだレベル500だったころ。
そのとき、レベル1000の敵を倒して、伝説になった。
本人のセリフは「なんかいけそうな気がしたし?」だった。
うん、バサカってそういう生き物。
二人目。
幼なじみってほどじゃないけど、中学からの親友。
日向 葉月(ひなた はづき)。
ただの天然。
喋るのは遅いし、言ってることもぜんっぜんわからないし、そもそも脳ってあるのかなって思うレベル。
前も敵に向かって、「この子、おばあちゃんが昔作ってくれたスープみたい〜〜」とか言い出して。
どこが?どこのどこを見ればそうなるの??
主に補助。武器は――ドローン。
ん?って思ったでしょう?
そう、ドローン。
葉月はドローンを使って戦闘する。
ふわふわ浮いてるし、正直ちゃんと操作してるのかどうか、見てるこっちが不安になるレベルなんだけど、
でもそのドローンが、敵の位置を把握して、私と晴翔を守って、弱点までピンポイントで教えてくれる。
葉月は、戦闘時だけ私たちの何倍も冷静で、誰よりも頼もしい。
私たちが戦ってる間も「がんばれ〜〜」とか言ってるけど、まあ、それは置いといて。
でも、指示がすべて的確。
私たちの動きも、敵の動きも、ぜんぶ理解してる。
そして、私はこの二人に振り回されながら頑張ってきた、苦労人というわけです。
今日、世界で初めてレベル10000のダンジョンが出現した。
……まあまあどころじゃない重問題。
そのせいで、今、世界中が大騒ぎ。
で、なぜか私たち三人が、その代表として攻略に行くことになった。
死ぬのが怖くないのかって?
もちろん、怖いよ。
でも、死なないように気をつけるし、それよりも私は――みんなを助けたい、それだけだから。
それに、もし本当に死にそうになった場合、援助をするっていう保険制度もあるしね。
力になるかはわからないけど。
それで、私たち三人はダンジョンに入ってきたわけなんですけど。
私は前にあるパネルを見る。
(たぶんそれぞれ、他人からは見えない仕様らしい)
『ようこそ、転生型ダンジョンへ。』
……転生?
要は、中に入った瞬間、“別の役”を与えられてその役で生きる形式のダンジョンってことらしい。
よく意味がわからないのは、私だけ?
「転生型って……俺、初めて聞いたぞ」
「転生って、死んで生き返るやつでしょ〜? わたしたち、死んじゃうのかなあ〜」
「死んだら、俺らできること何もねえけど」
後ろで晴翔と葉月が、いつも通りの温度感で討論してる。
あんたら、もっと焦って。
そんな中、私のパネルに新しい文字が浮かんだ。
『あなたの武器は没収されます。』
「……え? 武器が没収? ……って、どういうこと?」
その瞬間、背中にかけていた弓がふっと消えた。
これで、どう戦えっていうの?
「俺、まだ素手で戦う練習してねえんだけど。負けても俺に文句言うなよ」
「いや、素手で戦えるわけないでしょ。」
――が終わる前に、私たちは変な感覚に包まれた。
「え、えええ? なにこれ……?」
どういう状況かまとめようとしたけど、頭がぐるぐるして、それどころじゃない。
身体が浮いているような、でも地面に吸い込まれてるような――とにかく、気持ち悪い。
なんとか声を出してみる。
「……晴翔、葉月。大丈……夫?」
声が、届かない。聞こえない。
どこか遠くの方で、晴翔の叫び声が聞こえる気もするが、よくわからない。
なにこれ、やばいって。
どうすればいいのかもわからないまま、意識が――すうっと、暗くなる。
眠気が、容赦なく襲ってきた。
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