第19話 side02 断頭人
「どうしてあいつのそばで守ってやれない!」
「今は、その問答が必要かい?」
僕は怪人と一緒に悲鳴のほうへと向かっていた。
明らかに今の悲鳴は、紀里谷花音のもので間違いない。しかし、僕があの場を離れた時には、誰の気配もなかった。
どうやって僕の索敵をかいくぐった?
「今はそんなことはいいか……」
「え、なんだって?」
「君には関係ない。というより、君はその格好で出るのはやめたまえ。彼女が怖がってしまうだろう?」
「今の俺は顔を明かせない。なんせ、死体のままの顔だからな」
「その設定、まだ生きているのかい?誰も信じていないよ、それ」
「黙れ、お前がなんと言おうと関係ない」
今の会話で確信ができた。奴は神代という男ではない。まあ、誰がなっているのかという疑問はあれど、今は後回しだ。
どうにか分かれた場所へとたどり着いたのだが、そこに見える光景はというと―――
「やめて!離してっ!」
そこにはすでに体を担ぎ上げられて、どこかに持ち去られようとしている紀里谷花音がいた。
しかも、相手はリアクトと呼ばれる怪人態になっていた。
「そいつを離せええええ!」
サイコキネシスのリアクト―――仮にサイコリアクトとでも呼ぼうか。奴は、特に何も考えずに攻撃を仕掛ける。
怒りに任せたその攻撃は、奴を飛び上がらせ、綺麗な跳び蹴りを放たせた。
しかし、その攻撃は空を切った。
「リアクトは何かしらの能力を持っている。君のサイコキネシスのようにね」
「うるさい!黙ってろ!」
「ふむ……レベル4に入ったか。君は変身を解きたまえ。それ以上は精神状態にも負担を与える。もう、君の体にも顕著な変化が出ているんじゃないのかい?」
そう指摘してみるが、サイコリアクトは止まらない。次々と現れる敵怪人の虚像に翻弄されていた。
ふむ……仕方がないな。冷静さを欠いている彼の代わりに敵の能力を探ろう。
少なくとも、虚像を生み出す能力に間違いはないはず。副産物である可能性もなくはないが、リアクトになるような精神状態でまともな戦術建てができるとは思えない。
よってそれそのものが能力の本質と考えて問題ないはず。
虚像……分身……ダミー―――確かに該当する能力にダミーが存在する。だが、ダミーの能力は実体が存在するはず。敵のかく乱においては、今の状況とはさほど変わらないが、少し状況がおかしい。
いや、ある。ミラーリングだ。
「僕は今から敵の実体を出す。君をそれを叩きたまえ」
「なに言ってるんだ!」
「僕が合図を出した後に現れる敵が本物なんだ。やってくれるかい?君は徹頭徹尾において、自身の復讐と紀里谷花音を守ることにかけているように見えるんだが?」
「……ちっ、わかった。早くしろよ」
僕はサイコリアクトの言葉を聞いてから制服の内ポケットに手を入れた。ここからは、状況から敵の位置を炙り出す。
ミラーリングの能力は大まかに光の反射によって生み出された虚像を見せる能力。つまり、光を遮る道筋はあり得ない。そうなると、今まで出現した10数回の位置から、どこからも直線距離をつなげる場所。かつ、光が侵入する場所。
街灯―――と、言いたいところだが、カーブミラーの下だ。
まあ、最後は勘と言ったところかな。根拠はない。ただ、僕がそう感じたそれだけのことだ。
虚像には紀里谷花音を抱える姿が見えた。なら、頭部を狙うのはナンセンスだろう。それに、とどめはサイコリアクトが刺す。なら、僕が確殺を狙う必要はどこにもない。
したがって僕が狙うのは脚部だ。
僕は狙いを定めると、内ポケットにしまっていた手を出した。その手には、リボルバーが握られている。そして、迷いなくトリガーを引く。
すると、なにもなかった空間に弾丸が衝突し、火花を散らせる。
「やはり通常兵器では傷にすらならないか」
「……お前、そんなものをどこから!?」
「そんなことを気にしている暇があるのかい?今の僕の射撃で敵の位置は割れたはずだが?」
「ちっ、覚えとけよ!」
僕の言葉についにリアクトが僕の視界の陰から出現する。
すでに理性を失っている彼は僕に姿が見られることなど気にも入っていないだろう。表したその姿は、真っ白な虎だった。正確には、人型のシルエットではあるのだが、まあいつかの本で読んだ獣人という言い方が正しいのだろうか?
彼は能力を使わずに着弾した位置にとびかかる。
すると、姿を見せなかったミラーリアクト(仮称)が見えるようになり、紀里谷花音を投げだした。
飛んできた彼女の姿を見て、僕は冷静に抱き留めた。
僕の中に納まった彼女は、目を閉じて意識がなかったものの、呼吸は確認でき、気絶しているだけというのはわかった。
「このっ!―――もうういいよな!?」
「ああ、好きにしたまえ。僕はもう、そいつに興味はない」
「ガアアアアア!」
サイコリアクトが雄たけびを上げた瞬間、彼自身の腕が振り抜かれる。
彼の手は相手の頸動脈をとらえて、えぐった。止めどのない血しぶきが飛び、彼が返り血で真っ赤になってしまうが、それで終わらない。
彼は肩に足をかけて、相手に乗っかったまま胸倉と顎先をつかんで、思いっきり引きはがそうと動く。
そんなことをしてしまえば、起こる結果は一つ。
頸動脈がえぐられていたということもあり、無残にも頭部が引きちぎられてしまった。
声を出す暇もなかったのだろう。
相手は断末魔も上げることなく静かに倒れた。
「はぁ……はぁ……」
「思いのほかえげつないやり方だったね。復讐という感情のせいかい?」
「お前は本当に余計な発言が多いな。そもそも、聞きたいことが多すぎる……」
「おっと、君と会話する理由はない。君が理性を失っているうちは」
僕はそれ以上話すつもりはない、と告げて紀里谷花音を抱えたまま死体のもとに近づいた。
そこで異変に気付いた。
「異様に血色が悪いな?死後間際とは思えないレベルだ」
「殺したんだから当たり前だろ?」
「違う。これは目算だが、死後数週間は経っている―――だが、先ほど流血はしていた。死後硬直はない?なんだこれは……」
「どういう意味だよ」
「結果から言うに、君は死体と戦っていたんだよ。となれば、先ほどのリアクトが断末魔を発しなかった理由もわかる」
その言葉に、サイコリアクトは、ふと自身がもぎ取った頭部を見る。
「これは、前田……!?」
「誰だい?」
「こいつは、花音をいじめた奴で―――あいつを追い詰めたうちの一人で……
俺が数週間前に殺したはずの男だ」
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