第14話 side01 忘れられない人
新しい服に着替えてからは、帰宅するだけと、特に何もすることはなかった。
しかし、会長はそれで気が済まなかった。
確かに彼女は俺に食事を無理矢理食べさせたうえで吐かせ、お詫びというのも今日の分をというものらしいから彼女的には不本意なものだろう。
それでも俺は礼などいらないから放っておいてほしいのだが。
かかわるのは最悪いいとしても、ここまで世話を焼かれるいわれはないはずだ。
そう思っていると、俺の考えとは逆の考えを会長が展開してくる。
「考えたのだが―――私たちの生徒会に入らないか?」
「……なんでまた?」
「私はお前の人となりがなんとなくわかった気がする。少なくとも、お前はなんの理由もなしに喧嘩を売る相手じゃないということは、な」
「それが本当だとして、なんで生徒会に?」
彼女の考えに違うと、ただ面倒でことなかれ主義なために基本的にかかわろうとしないだけ。俺が手を出すときは、必ず喧嘩を売られたときだけだ。そういう意味ではあってると言えるのだろうか?
「お前を守るための措置として考えたのだが、どうだろうか?」
「守る……まさか、俺が輩に絡まれるのが憐れだと?」
「違う。ただ、零陵にはそういう事とは無縁な生活を送れるようになってほしい。ほかのどうしようもない人間たちと違って、喧嘩とは無縁の場所といれば普通に生きていいけるはずだ」
「普通ねえ……」
そういうのにあこがれないわけではないが、それ以前の問題がある。それまでは、普通で生きることなど不可能だし、会長もそれを受け入れられるとは思えない。
「無論、生徒会に入るのであれば仕事は任されるだろうが、問題ないだろう?」
「いや、まず入るつもりなんてない」
「ど、どうして!?お前だって、輩には辟易していたんじゃないのか?」
「面倒だし、疲れるのは確か。でも、他人を巻き込んでそれを解決しようとは思わない。それに、その問題を片付けないのはちょっと目的があるからだ」
「目的?」
「言ったろ、巻き込む気はない」
そう言ってその場を去ろうとする。
今日の詫びというものはすでに破綻している。服飾系は感謝しているが、それ以外は俺の気分を害するようなものだった。
まあ自分が感情をむき出しにする必要まではないが、メンツという言葉を使うのなら、彼女はそれが丸つぶれという状況だろう。なんせ、生徒会長という立場であるのだから。
「ああ、あんまり気にされるとこっちも面倒だから先に言っておく。服のことは感謝してる。うまいものを一緒に食べたいと思う感情もあるのは知っている。だからその善意を悪だとは思っていない。ただ、俺に必要なかっただけ。相手が悪かっただけだ」
「零陵……」
「あと、一つだけ」
「なんだ?生徒会に入るつもりになったか?」
「そんなじゃない。ただ、人は人のままでなくてはならない」
「どういう意味だ?」
「それだけ―――言いたいことは言った。じゃあ、今日はまあ暇つぶしにはなった」
そう言い残して、俺は会長をその場において帰っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の登校日―――生徒会長は机に突っ伏していた。
「おはようござ―――わっ!?どうしたんですか、会長」
「ああ……三条―――はぁ~……」
「ちょっと人の顔を見てため息しないでくださいよ。すっごく悲しいです」
「あ、すまない。その、な?」
「もしかして休日なにかありました?確か、零陵君と買い物に行くみたいなこと言ってましたけど」
「そのことなんだがな……」
それを皮切りに会長が話し始める。
ポツリポツリと自分の反省を話すように言葉を紡ぐ。
自分がはしゃぎすぎていたこと、それで彼に嘔吐をさせてしまったこと。店にも迷惑をかけて、恥をかかせてしまった。
反省するところが多すぎて、自分では処理しきれないと
「会長―――暴走しすぎですよ。零陵君が誘いに応じてくれただけでもすごいのに」
「そうなのかもしれないな……あいつは、どこか一匹狼みたいなものだな。だが、結局私ときたら」
そうやって落ち込む会長に生徒会メンバーの一人である三条が質問する。
「でも、会長って忘れられない人がいるって言ってませんでした?」
「ん……?ああ、あの話か。忘れられてはいないが、私ももう会えるとは思っていないぞ?」
「そうなんですか。でも、珍しく会長が楽しそうに話しているので、その人のこと好きなのかと……」
「そう、かもな。だが、もう私も彼にどんな感情を抱いているのかわからなくなってきてるな」
言いながら少し遠い目をする。
会長の言う忘れられない人というのは、小さい頃に一緒に遊んでいたという人のことだ。
家が近く、毎日一緒に遊んでいたというとのこと。相手は1個年下ということだが、物語なら幼馴染として甘酸っぱい恋模様でもつむげそうなものだが、曰くそううまくいかなかったという。
彼女が6歳くらいの時に相手が行方不明になった。それも、家族丸ごと。
大好きな彼がいなくなって号泣していた小さい彼女に両親は、家族みんな引っ越したのだと言っていたが、ならせめてそう言ってほしかった、急にいなくなってほしくなかったとさらに泣いてしまった。
彼女にとって、遊び相手であった彼の存在は大きく、かけがえのなかった。
そうした影響が大きいのか、彼女は生徒会長になり、文武両道の高値のような存在になってもそれは彼女の心の中に生き続けていた。
だが、最近は様子が違う。
それを察知した三条は鋭い質問をする。
「もしかして会長―――零陵君のこと好きだったりします?」
一瞬会長はきょとんとする。その反応に違うのかと思ったが、次の瞬間に会長の顔は見る見るうちに赤くなっていった。
「な、な、な、な―――」
「会長……?マジですか?」
「そ、そんなわけっ!」
口では否定しているが、はたから見れば認めているようなものだった。
しかし、わからない。
「会長ってまだ零陵君と出会ってからそんなに経ってないですよね?―――え、もしかして一目惚れ?」
「わ、私は生徒会長だぞ!ちゃんと内面を見て、いいと思う人じゃないと!」
「会長であるかないかの関係あります?それに、その言い分だと会長はこの短期間で零陵君の内面を認めたということになりますけど……」
もはや何を言ってもだめだった。
「会長も意外と面食いだったんですね」
「ち、ちがっ―――」
「ふふ、これは本格的に零陵君を生徒会に誘いましょう」
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