第13話 side02 現実の突き付け

 僕が道を歩いていると、路地裏のほうから声が聞こえてきた。


 なんとなく気になった僕はそちらのほうに向かっていく。すると、目の前には息をのむような光景があった。


 「か、神代なのか!?でも、あいつは……!」

 「俺は地獄から戻ってきた。一番大事なものを守るために」

 「大事なもの―――まさか、紀里谷のことか!あいつは、お前のことなんて!」

 「黙れ!」


 追い詰められたように叫ぶ少年の目の前にいる存在―――陰に隠れてよく見えないが、会話から察するに神代という人物がいるのだろう。


 だが、彼―――いや彼女かはわからないが、伸びてきた手は、おおよそ人間のものとは言えないものだった。

 仮にその手を怪物の手とするが、それが少年にかざされた瞬間、少年の体はビクン!とはねて絶命した。


 遠目から見てもわかる。


 その光景を見て、少しだけ思案を巡らせていると、怪物が僕のほうに気づいた。


 「お前は……?」

 「……?君は僕を知っているのか?」

 「―――いや、知らない」

 「なんだい、今の間は?」

 「そ、そんなことどうでもいいだろ?そんなことより、お前は俺を怖がらないのか?」

 「どうしてだい?」

 「お前は何も知らないとはいえ、目の前で人が死んだんだぞ?」

 「だからどうしたんだ?」


 依然として陰に隠れててよく見えないが、相手は少し驚いたような雰囲気を見せる。

 しかし、人を殺したのは彼なのだから驚く理由はよくわからない。


 「君は怒りで人を殺したのだろう?なら、怒らせた相手が悪い。意味を奏するだけの感情を持たせた相手がね」

 「お前―――何を言っているのか……」

 「罪の意識があるのなら、君はまだ引き返せる場所にいるみたいだ。その時点で僕が何か手を下すことはないさ。ただ、君は忘れてはならないよ。その怒りは相手を殺すだけじゃないってこと」


 少し高説過ぎただろうか?

 だがまあ、相手はあんなものを使う馬鹿なのだから、少し理想的すぎる方がいいのかもしれない。


 「悪いことは言わない。君をそれを手放したほうがいい。取り返しのつかなくなるその前に。ね」

 「黙れ!」


 僕の言葉が気にいらなかったのか、相手は脅すように手を向けてくる。


 「お前に俺の痛みがわかるか!苦しみがわかるか!」

 「なるほど、だから地獄というわけかい?なら、甘いね。その程度が苦しいのなら、生きるのをやめたほうがいいんじゃないかい?」

 「お前に、地獄が何かを―――」

 「僕は知っているさ―――少なくとも、生きることが嫌だと思える時点で君はまだ幸せだ」

 「なにをわけのわからないことを!」


 そう叫びながら彼は力を使った。おそらく、僕を吹き飛ばそうとしたのだろう。しかし、彼は目の前の出来事に驚愕する。


 「なぜだ!?なぜ吹き飛ばない!?」

 「もう一度言おう。その力を手放したまえ。取り返しのつかなくなる前に」

 「断る……この力が必要なんだ。それに、もうすぐ終わるんだよ―――あいつの怒りを、無念を!」


 そう言うと怪物は路地裏と消えていった。


 「リアクト―――能力はサイコキネシスか……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日、僕は昨日出来事について彼女に話していた。


 「君は神代という人物に心当たりはないかい?」

 「……っ、どうしたの?」

 「動揺―――やっぱり知っているのか」

 「神代君がどうしたの?というか、なんでそれを?」

 「ちょっとだけそういう話を聞くことになってね。まあ、聞き耳を立ててしまったのは申し訳ないと思っているよ?それで、神代いう名前と君の名前が出てきたんだ」

 「そう……でも、あんまりいい思い出じゃないよ?それに、私もあんまり話したくないよ」


 そう言いながら彼女は下を向く。だが、話してもらわなければいけない。

 でなければ、彼女の友人であるかもしれない相手が人として終わることになる。


 「聞かせてくれないか?もしかしたら必要なことかもしれない」

 「う、うん……でも、もう昔のことだからね?」

 「わかっている。今聞いた話を口外するつもりはない」


 僕の言葉を聞いて、彼女は少しずつしゃべり始める。


 「私、小学校のころいじめられてたの。きっかけなんてない。ただ私が弱そうで、攻撃の対象にはちょうど良かったんだと思う」

 「ああ、話したくないのは―――」

 「ううん、そこじゃないよ。続けるとね、いじめられてる中でも助けてくれたのが、芙美と神代君だった。芙美は強くて、言葉でも拳でも私をいじめてくる人たちを片っ端から喧嘩を売りに行ってた」

 「容易に想像できるね。だが、それに関しては君が泣きながらやめてと言ったんじゃないのかい?」

 「そう―――私があんまりにも泣くから意外とすぐにやめてくれたんだよ?でも、それを皮切りに、私はもっと嫌がらせを受けるようになったの」


 そう言って彼女は遠い目をする。

 おそらく、本当につらかったのだろう。彼女のいた場所はどうにも優しいことはないらしい。


 「だけど、そのいじめもある日を境にぱたりと止んだの。後から気づいたんだけど、神代君がそれの対象になってた」

 「どうして?」

 「私が知らなかっただけで、彼が私へのいじめの一部を未然に防いでくれていたらしいの。だから、主犯格の女子たちの反感を買って、その彼氏たちが攻撃に出たみたいなの。だけど、どんな状況でも神代君は大丈夫だって言ってた。だから私もそれに甘えさせてもらった」

 「そうか―――それが、復讐……」

 「復讐?」

 「おそらく、君の以前の同級生が次々と行方不明か死亡ということになっているのではないかい?」

 「う、うん……確かに最近、元同級生が事故で亡くなってるけど―――まさか、事故じゃなくて?」


 の、可能性が高い。とまで言わなくても彼女はそれを理解した。

 だったら、誰がそんなことを。僕は今までの話であたりを付けた。というより、これでわからないほうが難しいだろう。


 しかし、彼女はいまだ首をかしげて誰がしたのかを考えようとしている。確かに、自分を助けてくれた人を疑いたくないというのはあるのかもしれないが、今は現実を見るときだ。


 「それの犯人は神代という男だよ」

 「え……?」

 「僕は犯人がそう呼ばれているのを聞いた」

 「そ、そんなわけないよ!」

 「信じたくないのかもしれないが、現実はそうなんだよ」

 「違うよ!だって彼は、神代君は―――」


 この言葉の後に紡がれた言葉に、僕は驚きを隠せなかった。














 「―――2年前に自殺してるんだよ!」

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