おっさん修理士は辺境で孤児を育てる ~成長中の娘たちが使う武具も道具も伝説級になっていく~
ひなのねね🌸カクヨムコン11執筆中
第1話
アシュレイは物作りに対して、こだわりが強い性格だった。
他者から見れば、面倒くさい男であり、時代に取り残された古い男とも言える。
幼い頃、とある街で見かけた鍛冶師が作り出した剣の輝きに心を奪われた。
しかし村には武器の作り方を学べる場所はなく、考え抜いた末、彼は五歳で鉱山堀りの手伝いから始めた。
ある時は錬金術師の薬剤に心を奪われ、粘土を求めて山を越えた。
またある時は、見事な料理に感動し、畑を耕し野菜作りに没頭した日もある。
『いつか、誰かが喜んでくれるような物を作りたい……』
笑顔になるなら、作るものは何でもいい。
幼いアシュレイは、ものづくりをする人々の手と、それを受け取った人々の笑顔に憧れていた。
十五歳になると、彼は夢を胸に王都へ向かった。
まず飛び込んだのは鍛冶師ギルド。
しかしそこは古い掟に縛られ、若手の意見は一切通らない職人気質な世界だった。
当時、魔物の増加で武器需要が急激に伸び、大型工房は大量生産に追われていた。
アシュレイは非正規雇用で採用され、朝から晩まで槌を振るった。
誰が使うかもわからない武器を作り続ける日々は、彼の夢から遠く離れていた。
『このままじゃ、誰の笑顔も見ないまま終わる……』
独立の申請もギルドは「不要」の一言で切り捨てた。
今は何もより社会の歯車が必要とされたのである。
彼は錬金術、調理、木工、革細工と多くの生産職を転々としたが、どこも似たようなものだった。
若手は使い捨てで、クオリティや成果より、安い商品と効率ばかりが重視される。
そんな中、どのギルドでも誰もやりたがらない「修理」だけは重宝された。
壊れた武器や道具を元通りにし、時には少しだけ性能を上げた。
だが、直した品に職人の名前は残らない。
表舞台に立つのは、壊れた品を作った者だけだった。
それでも彼は黙々と修理を続けた。
分解し、組み合わせ、耐久性を高める――そんな作業を誰よりも得意になっていた。
気づけば三十五歳。
王都に出てから二十年、手には厚いタコができ、夢はすり減っていた。
『……ここには、もう居場所はないな』
特に大きな事件があったわけでもない。
ただ、これ以上ここで槌を振るっても未来がないと悟った。
王都の喧騒を離れ、人里から離れた海沿いの小さな土地に工房を建てた。
打ち上げられたガラクタを拾い、壊れた農具は新品以上に使えるようにし、医療器具も蘇らせた。
仕事はないが、一人で生きていく分には魚を釣り、小さな農園を持ち、たまに素材を集めに行くだけで十分だった。
ある日の夕暮れ、海風が強く吹く中、アシュレイは浜辺で壊れた小舟を引き上げていた。
崖道の方から、荒い足音が近づいてくる。
「こんな時間に……誰だ?」
振り向いた瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、血に濡れたシスター服を着た若い女性だった。
その腕には三人の小さな赤子が抱えられている。
「おい、何があった!」
アシュレイが駆け寄ると、女性は力尽きるように崩れ落ちた。
咄嗟に抱き止めた彼は、息を呑む。
「……リーンベル……?」
帰郷するといつも村で懐いてきた幼女が、今は立派に成長し、目の前で意識を失っている。
彼は少女たちを抱え、工房へ駆け込んだ。
夜通し、アシュレイは手を動かした。
割れたポーション瓶を繋ぎ合わせ、薬効を損なわないように工夫する。
古い医療器具を組み合わせ、即席の治療器を作る。
村の診療所で見た記憶を頼りに、必死に少女たちの熱を下げ、リーンベルの出血を止めた。
夜が明け、三人の子どもの体温は安定し、リーンベルもかすかに目を開けた。
ぼやけた視界の中、見覚えのある顔があった。
「……アシュ……おじさん……?」
「ああ。おかえり、リーンベル」
彼女は涙を浮かべながら、アシュレイの手を握った。
「孤児院が、山賊に……襲われて……。
私、何も……守れなくて……何日も――」
「話は後だ。今はゆっくり休め」
アシュレイは、眠る少女たちを見下ろした。
金髪で元気そうに寝息を立てる子、褐色の肌で眉を寄せて眠る子、黒髪で穏やかな寝顔の子。
彼は静かに息を吐いた。
「……行き場を無くしたのか」
目の前の少女たちとリーンベルの疲れ切った姿を見て、言葉が胸に突き刺さる。
長い間、一人で海辺の工房を守り続けてきた。
誰にも頼らず、誰も頼ってこなかった場所。
そこに突然、運命のように現れた彼女たち。
まだ幼く、傷ついたその身体は、これまでの過酷な日々を物語っていた。
「俺はまだ、人を助けようと思えるんだな……」
自問しながらも、手は自然と少女たちのために動いていた。
食事の用意、温かな毛布の準備、傷の手当て。
彼らは血縁ではない。
けれども、今この瞬間から互いに頼り合うしかないと、心の奥底で確信していた。
外の風は冷たく、海は無情に荒れている。
だがこの狭い工房の中には、どこにもない温かさが生まれていた。
孤独な男と、小さな三人の命。
これが新しい「毎日」に繋がっていくのだと、アシュレイは静かに予感を感じていた。
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【あとがき】
2025/8/26までの公募に応募中です。
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気力の高まりにより、毎日更新とさらに作品の魅力をお届けしてまいりますので、お力添えのほど、なにとぞ、よろしくお願いいたしますー!
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