独占欲

「えっ」


なんでだ。なんでわかったんだ。大体、ドルという存在を知ってる人なんて、中々いないのに。


「なんで?」


「なんでって聞くって事は、ドルってこと知ってんだ。結構恋人にも隠す人多いのに」


「そうなの?」


「うん。だって、ドルの力って相手を自分の思い通りにできるでしょ。だから、黙ってる人多いんだよ」


「へぇ〜。でも、なんでドルってわかったの?なんか詳しいみたいだし」


「だって、俺もドルなんだもん。ドルの力使った時に分かっちゃうんだよね」


優樹もドル。そんなの、初めて聞いた。高校の頃、そんなこと言ってなかったのに。


「そうなんだ...」


そういえば昨日、優樹は俺が優樹とのキスがいじゃないと思った時、″まだ効いてたんだ″と言っていた。

まさか、俺が嫌じゃないのは、ドルの力を使われたからなのか。俺は優樹の思い通りにさせられていたということだろうか。


「優樹お前...高校の頃、俺に力使った?」


「使ったよ?だって、奏人のこと独り占めしたかったんだもん」


そういえば優樹は、授業中はよく寝ていた。起こしても起きないくらい爆睡していたが、ドルの副作用だったのか。それにしても、自分の気持ちをコントロールされてたなんて、なんか嫌だ。


「...最低」


「そう?ドルの人って結構そうだよ?」


そういった後、優樹はニヤッとして言った。


「あの人も奏人のこと、ドルの力で好きにさせたのかもね」


俺はイラッとした。何言ってんだ。偉二さんがそんなことする訳ないじゃないか。


「偉二さんはそんな事しない」


「怒んないでよ。でも実際どうなの?告白されたときとか。寝てなかった?」


俺は告白された日のことを思い出した。あの日偉二さんは俺にキスをして好きだと伝えてくれた。そしてその後、″僕のこと好きになってくれたら嬉しい″と言っていた。その後は...。俺は、ドキっとする。あの後偉二さんは急にあくびが出て、眠っていた。

俺はそんなわけないと思いながらも、焦ってしまう。


「なに?心当たりでもあったの?」


「...いや。ないけど」


俺はぎこちなくもニコッと笑って誤魔化す。だけど、優樹にはバレてしまった。


「わかりやす〜。あるんだ」


「...うるさい」


そう言って俺はその場を去ろうと歩き出した。


「あ、待って」


優樹は後ろから俺の肩に片手を置き、耳元で囁く。


『俺がドルってことは2人だけの秘密だよ?』


そう言い残して優樹は去っていった。

そして夜、偉二さんの家に行った。偉二さんの家の合鍵は貰っていたので、それで鍵を開けて中に入る。

部屋の奥からは、カレーのいい匂いがした。


「偉二さ〜ん、来たよ」


「いらっしゃい」


偉二さんは鍋から目を離し、こっちを見てニコッと笑った。俺は偉二さんの方へ行き、鍋を覗き込む。


「今日はカレーか〜!美味しそう!」


「味見してみる?」


「うん!」


俺が頷くと、偉二さんはスプーンを取りだし、カレーをすくった。そして、スプーンの下に手を添え、俺の口元へ運ぶ。俺が口を開けると、カレーを食べさせてくれる。


「ん!うま!!」


「よかった」


偉二さんはそう言ってニコッと笑った。


「先にご飯ついどくね」


「ありがと〜」


そしてその後、カレーを食べ終わり、歯を磨く。

偉二さんの家で食べることも多くなってきたので、歯ブラシは偉二さんの家にも置いてある。

そして、歯を磨いた後にすることを俺は知っている。

いつも同じだから。

俺は洗面所から出ると、ベットの上に座った。しばらくすると、歯を磨き終えた偉二さんが洗面所から出てきた。そしてそのまま、俺の前に座る。俺が偉二さんの方を見ると、偉二さんは俺の口にキスをした。俺がニコッと笑うと、偉二さんは俺を優しく押し倒した。そしてまた、キスをする。


「んっ...」


何度か唇を重ねた後、偉二さんの口が離れる。偉二さんの方を見ると、偉二さんは獲物を狙ったかのような目で俺を見ている。俺はこの目が本当に好きだ。

もっとその目で見て欲しい。

偉二さんはまた、キスをした。今度は舌を絡め合った。


「んっ...んっ...」


しばらく続け、口が離れる。そしてまた舌を絡める。今日はなんだか、いつもより長い気がする。

また口が離れた時、偉二さんは俺を見てニヤッと笑った。


「かわいい」


それを聞いて、俺の鼓動が早くなるのがわかった。

″かわいい″なんて、何度も言われているはずなのに。俺は未だにドキドキしてしまう。

俺は恥ずかしくなって目をそらす。


「好きだよ。奏人」


そう言って偉二さんは、俺の首筋にキスをした。


「あっ」


そして、何度か唇が触れた後、首筋が少しチクッとする。


「んっ...?なに?」


俺がそう聞くと、偉二さんはチクッとした所を指でなぞる。


「これ、キスマ。奏人が僕のっていう証だよ」


そう言った後、偉二さんは俺の口にキスをした。

俺が偉二さんのものだという証。なんだか嬉しい。

俺はつい、笑みがこぼれる。そんな俺を見て、偉二さんはニヤッとする。


「僕のことだけ見ててね」


そう言ってまたキスをした。この後、続きもしたが、いつもより激しい夜だった。

次の日、ダイニングで始業準備をしていると、優樹が後ろから近づいてきて、耳元で囁く。


『じっとしてて』


それを聞いて、俺の体はピタッと止まる。俺の前に回り込んだ優樹は俺のシャツの1番上のボタンを外す。


「ちょっ、なに」


慌てる俺を無視して優樹は続けて上から2番目のボタンを外した。


「おい、優樹」


俺が名前を呼んでも無視して、優樹は襟元をピラっとめくった。まずい。そこにはキスマがあるのに。キスマを見た優樹は、ニヤッと笑う。


「ふ〜ん。こんなものつけられて。さすがドルだね。」


優樹がそう言ったのと同時に、俺の体がまた動かせるようになった。俺は慌ててボタンをしめる。


「なんだよ。急にこんなことして」


「確認だよ。ドルがやることなんて大抵想像できるからね。俺も同じことすると思うよ?」


なんだよ。同じことって。キスマをつけることか?


「なに?ドルの人はキスマを付けたくなるわけ?」


「まぁ、ドルは独占欲強い人が多いからね。俺が奏人にちょっかい出したから嫉妬したのかもね」


ドルは独占欲が強い、か。確かに、優樹も″奏人のこと独り占めしたかった″と言っていたし、昨日の偉二さんもキスマをつけて、″僕のことだけ見ててね″と言っていた。

でも、嫉妬してくれたのはなんだか嬉しい。そう思って俺の口角は自然と上がっていた。


「なにニヤけてんの?」


「だって、嫉妬してくれたってなんか嬉しくて。偉二さん、俺の事大好きなんだなって」


「俺だって奏人の事大好きだし、嫉妬もするけどな」


優樹は不機嫌そうにそう言って去っていった。

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