05:月島凪の爆弾投下「ご期待にお応えして」

「はい。神楽坂さんから、そのようなメッセージをいただきました」


 蓮の言葉を引き取るように、月島凪が、今度は立ち上がらずに、座ったままマイクをその華奢な手で引き寄せた。彼女の口元には、先ほどまでの悲壮感とは打って変わって、悪戯っぽい、小悪魔のような笑みが浮かんでいた。

 凪は、楽しそうに目を細める。


「わたくしも、まったく同じ気持ちでしたわ。ですので、こうお返事いたしました。『ええ、心底うんざりしております』と。そこから、わたくしたちの『本当の』作戦会議が始まりましたの」


 会場がざわつく。

 作戦会議?

 いったい何の話だ?


「毎日毎日、どうでもいい嘘の釈明に追われ、どうでもいい会議に時間を奪われる。本来すべき仕事もできず、ただただ精神をすり減らす日々。……馬鹿馬鹿しい、と。心からそう思いました」


 凪は、そこで一度言葉を切る。

 会場の記者たち一人ひとりの顔を、値踏みするように見渡した。


「ですので、わたくしたち、決めたんです」


 一瞬の間。

 会場のマスコミ、配信を見る視聴者、その全員が、彼女の次の言葉を待つ。

 そして、凪は満面の笑みを浮かべて、爆弾を投下した。


「わたくしたち、本当にお付き合いをすることにいたしました」


 ――シン……。


 時が、止まった。

 誰もが、自分の耳を疑った。

 記者も、カメラマンも、生配信を見ていた何百万人もの人々も。

 揃って、思考を停止させた。


 次の瞬間、会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


「ど、どういうことだーっ!?」

「今、なんて言った!?」

「ふざけてるのか、お前ら!」

「おい、カメラこっち回せ!」


 雷鳴のようなフラッシュの嵐。

 マスコミ関係者たちの怒号と質問が、津波のように押し寄せる。

 生配信のコメント欄は、光の速さで流れていく文字で埋め尽くされていた。


『は????????』

『え、え、え、ちょ、待って』

『理解が追い付かない』

『最高かよwwwwwwwww』

『マスコミ、顔真っ赤wwwww』

『歴史的会見だろこれ』


 大混乱の渦の中心で、凪は優雅に微笑んでいた。

 まるで、オーケストラの指揮者のように。


「皆様、そんなに驚かないでくださいませ。あなたたちが、ずっとそう望んでいらしたのでしょう?」


 彼女の声は、不思議と騒音の中でもはっきりと聞こえた。


「わたくしたちがいくら否定しても、皆様は聞く耳を持ってくださらなかった。『彼らは付き合っている』。それが、皆様が求めたストーリーでした。ならば、そのご期待にお応えするのが、プロのエンターテイナーというものではなくて?」


 凪は、愛らしく小首を傾げた。


「皆様の退屈な毎日に、少しでも彩りを添えるために。皆様の記事が、デマではなく『予言』だったことにして差し上げるために。わたくしたち、交際を始めることにしたのです。……ねえ、よかったでしょう? あなたたちの嘘が、今、この瞬間、本当になったのですから」


 その言葉は、何よりも痛烈な皮肉となって、記者たちの胸に突き刺さった。



 -つづく-






※ここまで読んでいただきありがとうございました。

※第6話は、明日の午前8時に更新します。

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