【設計図 No.11】スキルの真価
深い紺色のローブを翻し、私の前に立つこころ。
倒れたはずの魔獣は、信じられない速度で再生を終え、再び雄叫びを上げる。
空気がびりびりと震えた。
心臓が、耳元で暴れるみたいに早い。
「梓はつぐみの回復! ゆずりは、一瞬で方をつけるわよ!」
「了解した」
短い指示。けれど、その声には迷いが一切なかった。
梓さんが駆け寄ってきて、私の裂かれた腕にそっと手をかざす。
「――《瞬癒の掌(しゅんゆのて)》」
温かな光が一瞬で傷口を覆い、痛みが霧のように消える。
身体が軽くなる。呼吸も整い、視界がはっきりしていく。
わずか数秒――その間に、魔獣がこころに狙いを定め、地を蹴った。
次の瞬間、彼女はおもむろに右足を持ち上げた。
足元から雪の結晶のような光粒が立ち昇り、空中で氷の紋様を描く。
「ゆずりは、合わせてよ――《霜神脚(そうしんきゃく)》!」
右足が大地を叩くと、冷気が轟音とともに走った。
瞬く間に白い道が魔獣へと延び、足元を凍りつかせる。
氷が軋み、魔獣はバランスを崩して倒れ込んだ。
「抜刀――
ゆずりはの剣が閃き、斬撃は音すら置き去りにする。
傷口から黒い紋様が血管のように広がり――
次の瞬間、熊のような魔獣は音もなく爆ぜ、霧のように消えた。
……これが、冒険者Aランクの力。
さっきまで私が必死に立ち向かっても押し返された相手を、たった数秒で。
強さの次元が、違う。
「ほら……立ちなさいよ」
気づけば、こころとゆずりは、梓が私の前に立って手を差し伸べていた。
負けたはずなのに、胸の奥が熱くなる。
「ありがとうございます。でも、どうして……?」
「どうしてって、あんたはもうパーティメンバーでしょ? 助け合うのが当然じゃない」
「そうだ。初見の相手にあそこまで喰らいつける奴は珍しい」
「ええ、つぐみさんから“守ろう”という強い意志を感じましたから」
――認められたんだ。
気づいたら、涙と一緒に三人を抱きしめていた。
驚きながらも、三人はしっかりと抱き返してくれる。
ダンジョンを出た帰り道、私はみんなに聞いてみた。
「みなさんのスキルって、詳しくはどんなものなんですか?」
こころが振り返って、笑う。
「私のスキルは《氷雪》、ランクB。冷気を拳や足に纏わせたり、地面を凍らせて戦う。使い方次第で何とでもなるわ」
「私は《妖刀》、同じくランクB。死者の魂を宿す剣で、体内から破壊できる」
「私は《聖光》。回復と支援が専門です。身体強化や防御の加護も可能です」
全員Bランク。それでも三人の連携と完成度は、私が見たどの冒険者Aランクよりも速く、強かった。
胸元のペンダントをそっと握る。――この人たちとなら、もっと遠くへ行ける。
ギルドに戻ると、窓口の凛さんが手を振ってきた。
「お疲れ様~! どうだった? 私が選んだクエスト!」
「……死にかけましたけど、みんなが助けてくれました! パーティメンバーにも認めてもらえました!」
「まぁ、姉さんの言ってることは何となくわかったからね」
こころが紙を差し出す。
「私たちの連絡先。登録しておいて。グループに招待するから」
報酬と連絡先を受け取り、私は家へ帰った。
今日は、本当に――いい日だった。
⸻
つぐみが去った後のギルド。
静かな空気の中、凛が口を開く。
「で、どうだった? つぐみちゃん」
「……正直、驚いた。カルメル鉱を石のツルハシで砕くなんて普通は不可能。しかも、あの魔獣を一撃で怯ませ、炎のブレスを鉱石の盾で受け止めた」
「やっぱりね。尚更、こころのパーティに勧めてよかったわ。
あの子は――異常よ。特別な因果を持っている。だからこそ、監視をお願い。世界を守るために」
運命の歯車は、静かに、確かに動き始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます