第24話 放課後の、トラブル
放課後のチャイムが鳴ると、澪はソワソワとしながら紙袋を机の上に置いた。
「それじゃ、はじめよっか」
そう言って、ルナ、ジュリ、ノアの3人が澪の席までやってくる。
今日は初めてメイクを教えてもらうのだ。
「よろしくお願いします!」
澪が緊張気味に頭をさげると、ジュリがクスリと笑った。
「緊張し過ぎ、表情が硬いと上手にメイクできないよ?」
「でも——」
「秘技、リラックスのツボ!」
不安そうな声を漏らす澪の背後から静かに近づいたノアが、勢いよく澪の脇腹を突いた。
「ひゃん!」
澪の可愛らしい声が教室に響く。
「ちょっとほぐれた? まだ足りない?」
そう言って、両手の指をワキワキと動かすノアに、澪は「大丈夫、もうほぐれたから!」と慌てて拒否をした。
「確かにさっきよりはマシだよねぇ」
ルナが喋りながらそっと澪の頬に手の甲で触れる。
「教えた通りにスキンケアしてた? もともと綺麗だから見た目じゃ分かんないけど」
「うん、ちゃんとしてたよ」
今日までに、教えてもらったお風呂上がりのスキンケアを澪は欠かさなかった。
澪の返事に、ルナはニッコリと微笑む。
「私達も澪のために大人っぽ美人メイクを研究してきたからね! 気合い入れて教えるよ!」
「よ、よろしくお願いします!」
「まーた緊張して」
苦笑しながら、ルナが澪の頬をふにっと摘む。その後ろでノアが「いる?」と聞きながら手をワキワキとさせていた。
「いーらーなーい!」
友達の行動に澪がクスリと笑う。
「それじゃあ始めよっか。早くしないと下校時間になっちゃうし」
ジュリが時計をチラ見しながらそう言って、澪のためのメイク講習が始まった。
「すごい、私じゃないみたい……」
教えてもらいながら完成した自分の顔を鏡で見て、澪はそう呟いた。
「もともと可愛いかったけど、もう女優とかモデルって言われても何人かは信じるね」
「髪も巻いてみたらもっと雰囲気出るんじゃない?」
ルナの言葉に、ジュリが温めたカールアイロンをパチパチと動かしながらニッコリと笑う。
「でも、めちゃくちゃ難しいよ。できるようになるのかな?」
「まあ、初めはみんなできないよ。上手くなるのはやる気と根気!」
髪の毛を巻いてもらいながら澪がぼやくと、ルナがそう言って苦笑した。
「ルナも初めてはおかめさんみたいだった」
ノアがボソリと呟く。
「そうそう、チークの乗せ過ぎで、ククク——」
ジュリも、思い出したように笑い出した。
「な、そんな事言ったらジュリはアイライン怖いって変なとこ引いて福笑いみたいだったしノアも……あれ? ノアは初めからそこそこできてた?」
ルナは言い返そうとしたが、ノアはしたり顔でVサインをしている。
「まあ、私らも初めは全然できなかったって事。澪も頑張って自分でできるようになって、愛しのあの人に可愛いって言ってもらおうね!」
「別に私は山田さんの事が好きってわけじゃ……」
もじもじとしながら頬を染める澪の姿に、ルナ達はにやにやと笑っている。
「へ〜山田さんって言うんだ。澪の好きな人って」
「べ、別に好きな人じゃ!」
「そうだよね〜、可愛く見てもらいたいだけだよね〜」
ルナが揶揄うほど澪の顔はどんどん赤くなっていく。
「しつこい!」
ルナの頭にジュリのチョップが炸裂した。
「それじゃ、一回オフして今度は澪がやってみる。いきなりできなくていい、時間をかければ誰でも可愛くなれる。それがメイクだから」
3人に教えてもらいながら、澪のメイク講習は下校時間になるまで続けられた。
◇◆
下校時間がきて、澪達4人が校門を出る頃には空は徐々に暗くなり始めていた。
「もう、メイクしたまま帰っても良かったのに。完璧じゃないけど上手くできてたと思うよ?」
「でも、1番最初に見せるのはちゃんとできるようになってからって思ったから」
澪の返事を聞いて、ルナ達は「へぇ」と優しく笑う。
「それでさ、山田さんってイケメンなの?」
ルナが唐突に興味津々な様子で質問した。
「でたでた。ルナのイケメンセンサー!」
「顔ばかり見てるから変な男にばっか引っかかる」
ジュリとノアの厳しい指摘にルナが「だってさ〜」と口を尖らせる。
——そこまでは、いつも通り友達と帰る楽しい下校の時間のはずだった。
勢いよく走ってきた黒いワンボックスカーが、4人の道を塞ぐように停止する。
「ケイト?」
助手席から降りてきた男を見て、ルナがそう呟く。男は先日ルナが別れた元カレの大学生であった。
「ルナ、お前俺を振るとか生意気すぎ! 後悔させるって言っただろ?」
男の言葉にルナが「最低」と言って眉を顰める。
別れ話の時に「後悔するぞ!」と言っていたが、俺みたいなイケメンと別れたら後悔するぞ。というナルシスト発言だと思っていた。まさかこんな行動に出るとは予想もしていなかったのである。
「友達も可愛いじゃん。みんな連れてこうぜ!」
「賛成! 俺あの子!」
ワンボックスカーから追加で降りてきた4人のガタイのいい男達が品定めするようにいやらしく笑いながら話している。
「ルナ、今度から顔だけで選ぶの禁止ね?」
ジュリが気丈に振る舞い、茶化すようにルナに言うが、その足は震えていた。
ノアも恐怖からか、何も喋らずスマホをギュッと握りしめている。
そんな中、澪が深呼吸すると、カバンを地面に置いてルナ達を庇うように前に立った。
「あんた達みたいなのを、私の大切な友達に指一本触れさせない」
自分達を睨みつける澪を見て、男達はバカにしたように笑う。
「女が男に敵うわけねーだろ!」
そう言って、男達が澪に向かって飛びかかる。
「遅いよ」
澪はそう呟くと、向かってくる男達の意識を一撃で刈り取っていく。
5人いた男達のうち4人あっさりと気絶させ、残るは後ろで突っ立っていたケイトだけになった。
「な、女が調子乗るなよ! 俺は冒険者免許を持ってるんだ。部活かなんかでちょっと強いからって、俺に手を出すと痛い目にあうぞ?」
男が叫ぶのを聞いて、澪がピクリと眉を動かした。
「奇遇ですね、私も少し前まで冒険者だったんですよ」
澪の言葉を聞いたケイトは勢いよく走り出し、車に乗り込もうとする。
「逃すわけないでしょ」
澪はケイトが車に乗る前に一撃を喰らわせて気絶させたのであった。
男達が全員気絶した後、澪はルナ達の方を振った。
「す、すごーい!」
ルナが走ってきて、澪に抱きついた。
「澪のおかげで助かったよ。ありがとうね」
ジュリも歩いてきてルナごと澪を抱きしめる。
ノアは澪のカバンを持ってきて、お礼を言いながらカバンを渡してくれた。
「それで、コレ、どうしよっか?」
澪が地面に転がる男達を見ながらそう言うと、ノアが「大丈夫、警察呼んである」とスマホを見せた。
スマホは手順を踏んでサイドボタンを押すと110番できる機能がある。
ノアは男達に絡まれてすぐに、スマホを握りしめてその機能を使ったのであった。
しばらくするとパトカーがやってきて、男達は逮捕される。そして、澪達は事情を聞かれるため警察署へ向かう事になるのであった。
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