#17 重力売りの少女 The Little Gravity Girls

ポーンポーンと高く跳ねるのに憧れていたのは四半世紀も前のこと。重力が売り買いできるようになって軽さはすっかり貧乏のイメージになってしまった。持たざる者が最後に売るのは重力だから。腰が重いは褒め言葉、浮き足立つは悪口だ。いまやスクールの子供たちさえバカにする。でもさ、大人のつごうでになった私たちはどうすればよかったわけ? と、月の重力でスラム街を跳ねる女の子が言う。ねえ、あの子、とうとう宇宙まで飛んでっちゃったんだって。と、もっと尻軽な女の子が言う。重力差のある彼女たちはいつも手を繋いでる。歩幅は全然あわないし、でないと離れてしまうから。いつか、ぜったい大金持ちになって重力を買い戻してやるんだから。いいじゃん軽くたって、私たち二人で一人前くらいがちょうど良くない? 生まれ育ったストリートは片っ端から重さが売られ、犬も自転車もゴミ箱もフワフワしていた。ほとんど無重力のアイロン台がスケボーみたく回転しているのを蹴っ飛ばす。いやよ、だってスカートはけないんだもん。そんな理由で? うーんと重くなるの、100トンくらいは買うわ。超デブだよ、それ。軽やかに笑いあいながら女の子たちはポーンポーンと跳ねてゆく。

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