#3 野菜最速のインディアン

恥を忍んで孫のおまえに頼みがある。盆前に枕元に立った亡き祖父から依頼され、ぼくは町じゅうの八百屋を回っていた。てか、じーちゃん、なにその変な恰好かっこ? ジョッキーに決まっとろうが。生前は競馬狂いだったが、あの世では騎手に回ったらしい。精霊馬には最速の野菜を供えてほしい、と祖父は言った。なんでも灯籠賞という大レースがあり、今年こそは優勝したいのだとか。でっかい胡瓜とか? そんなもん高が知れとる。と、鞭をヒュンヒュンと鳴らしながら。インディアンコーンという品種の玉蜀黍トウモロコシを探して貰いたい。それって速いの? 祖父はニヤリと笑って。馬の大会にカワサキのバイクで参加するようなもんだ。八百長じゃん。なあに足はつかんさ、わしは幽霊だからな。言うや否や祖父の姿は消えていた。そんな訳で、野菜売り場でずっと玉蜀黍を探してる。一体どこにあるんだ、野菜最速のインディアン。

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