マイクロノベル集

いぬあま

#1 酔っ払いの鳥人間

手先は器用でないし、夜目は利かないし、記憶力は悪いし。人間に似すぎて不気味だと嫌われる。進化の悲惨な失敗例とも言われる鳥人間たちは、幼少期こそ空を自由に飛び回るが、二十歳になる頃にはいくら羽ばたいても自重を持ちあげることができなくなる。ああ、おれもインコに生まれてりゃよかった。と、ぼやきながら酔っ払った一ぴきの鳥人間が夕暮れどきの畑に這入っていく。それか文鳥だな、あの愛嬌がありゃあ公務員みたいに安泰さ。畑のあちこちで竿に吊った鳥よけのカイトが風に乗りビュンビュン飛び回っていた。台風でもくるのか、風がとても強く吹く。おれはおまえらのことなんか怖くないぜ。鳥人間は手こずりながらも大きなクチバシで凧糸を噛み切ってやる。瞬く間にカイトが一つ空へと飛び去っていった。ほうら、おれはちっとも臆病者チキンなんかじゃないんだ。次つぎに凧糸を噛み切っては、カイトを空へと逃がしてやる。やがて畑から鳥よけはなくなった。湿った黒い土には鳥とも人とも言いがたい酔っ払いの影がポツンと伸びているだけ。日の暮れかけた水色の空の遠くをカイトたちが悠々と飛んでいく。うるんだ鳥目にその隊列は見えやしないけれど。

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