第23話 姉がメス堕ちなら妹は闇堕ち
帰る、とは言ったものの。
実際には、ただのその場凌ぎの言葉だ。
俺たちは、落ち着ける場所を探し……そして空き教室に身を潜めた。
「2人とも、お疲れ様。さっきは大変だったな」
向かいに腰を下ろしたティアナと、その隣の女の子に声を掛ける。
「ん。アークもありがとう。おかげで、あまり気分を悪くせずに済んだ」
やっぱり、さっきの出来事はティアナとって嫌なものだったようだ。
俺ももう少し早く声を掛ければ良かったかも。
「そ、その……すみませんでした……っ」
女の子が縮こまりながら謝罪し、頭を下げた。
別に、この子が謝るようなことはなかったと思うんだが……ネガティブ気質なのかな?
話を聞く前に、まずは彼女のことを知る必要があるな。
その前に、まずは自分から名乗っておこう!
「気にしなくていいからね。とりあえず、自己紹介するな。俺はアーク・ノットだ。クラスはB。よろしくな」
「わたしはシェフィ・エイムと申します。アーク様の従者で同じクラスです。よろしくお願いします」
俺に続き、シェフィも挨拶をする。
「アーク・ノット……じゃあ、貴方が噂の……」
女の子は目を見開き、驚いたように呟いた。
もしかして、俺、なんか悪名が広まってる!?
「ん、クロラも自己紹介した方がいい」
ティアナがそう促すと、女の子は慌てて背筋を伸ばした。
「そ、そうですよね……! す、すいませんっ! わ、私はクロラ・ピストンと申します……! クラスはAで、ティアナちゃんと同じクラスですっ」
「ん。補足すると、ピストン家は四大貴族の1つ。クロラはお昼に会ったプレス先輩の妹でもある」
「妹……!?」
ということは、あのプレス先輩のフルネームはプレス・ピストン、というわけか。
うーん……やっぱり、めちゃくちゃ分からされそうだな。
なんか複数人に分からされそうな未来が見えるぞ。
やはり迂闊に近づいてはいけないな!
「や、やっぱり……お姉様と違って、私なんか地味ですよね……」
女の子……クロラは、しょんぼりと視線を落とす。
どうやら俺の反応を勘違いしたようだ。
「私、人見知りだし、こういう性格だし……たいした実績もなくて……。申し訳ないです……」
どんどん気分を落ち込ませていくクロラ。
「……」
「……」
「……」
俺たち3人とも、口を閉ざしてしまい場が静かになる。
俺は今、会ったばかりでクロラがどういう苦労をしているか、簡単には理解できない。
けど……。
「んー、まあ色々と思い悩むのはあるとしても……俺はクロラにはちゃんと魅力があると思うぞ」
「……え」
「だって、ティアナがペアに選んだんだしな」
俺はティアナに視線を向ける。
「ん、そう。クロラは魅力ある。クロラは真面目で努力家。私もクロラの小等部からこの学園に通っているし、よく知ってる」
ティアナがそう言うなら、間違いないな。
とはいえ、俺もクロラの魅力をこれから知っていきたい。
だが、今は急に距離を詰めるのもよくないな。
俺は話を進めることにする。
「じゃあ、ペアでの試験はティアナとクロラが組むんだな」
「ん。アークはシェフィとペアだよね」
「おう、そうだ。シェフィが誘ってくれたからな」
「はい。ただ、最初は担任から別々の提案をされそうになりましたが……」
「ん、やっぱりそうくるよね。アークもシェフィも強いから」
「はい。ですが、なんとか阻止しました」
「ん、よくやった。アークの隣はそう簡単に渡さない」
「そうですね」
ティアナとシェフィが互いにうんうん頷き合う。
やっぱりこの2人仲がいいんだよなー。
「男性なのに強いのですね……。す、凄いです」
クロラがぽつりと呟いた。
褒められた、と思う。けど、「男性なのに」という言い回しが、少し気になるな。
「だが、油断はできない。試験に合格しなきゃ意味がないからな!」
俺は拳を握り、ふすんと鼻を鳴らした。
「……いいですね。私は……」
クロラがまた小さく声を落とした。
ふむ……この子は、ただ者ではない気がする。
姉がメス堕ちヒロインだとして……。
この子は、闇堕ちヒロインかもしれないな。
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