第17話 クラスで男1人の理由とは?

 ――遡ること数ヶ月前。


 王立魔法学園アルテットでは、3日間にわたって入学試験が行われていた。


 とはいえ、その3日というのは単純に3日間連続で試験がある……というわけではない。

  

 王立魔法学園アルテットは、国内でも屈指の名門校。 


 実力主義を掲げながらも、充実した教育環境と経験豊富な教師陣による指導。

 さらに、個々の才能を伸ばすための手厚いサポートがあり、まさに理想的な場所。

 

 卒業できれば将来安泰、箔がつくと言われているため、毎年多くの志願者が殺到する。


 1日目と2日目は、女子志願者の試験日。

 最終日の3日目は、男子志願者だけの試験日である。

 

 そう、男女で試験日が完全に分けられているだ。


 この世界は男女比1:9。

 しかしながら、男女比が偏っているだけではない。

 

 この世界では、男は貴重で優遇される存在であり……また、多くの女性から狙われる立場でもある。

 

 とはいえ、男性側もある程度の教育は受けなければならないとなっている。

 そのため、入学試験に男が行くこと自体は珍しいことではないが……。


 男女の試験日を同じにすれば、余計な問題が起こりかねない。

 そういった理由があり、男女別の試験を行っていた。


 そして、試験の内容も違う。

 

 女子の試験内容は、筆記・実技・面接の3つ。

 対して、男子は面接のみである。


 男女が同じ条件で試験を受けることはない。

 それを誰も不公平だとは思わない。

 

 この世界では男は守るべき存在であり、優遇されるのが当たり前なのだから。


 しかし、3日目の男子志願者の試験。

 その『当たり前』が崩れる出来事が起きた。


「受験番号99のアーク・ノット様ですね。アーク様は面接のみの試験となりますのでこちらの部屋へお進みください」

「……」


 そう案内された少年は……困惑した様子で足を止めていた。


 そして次の瞬間、誰もが予想もしない言葉を口にした。


「……あの、正規の試験を受けさせてもらえませんか?」

「え?」

「だから、正規の試験を受けさせてほしいです。筆記・実技・面接の3つですよね? 理由はあえて聞きませんが……俺は、優遇とかいらないです。ちゃんと鍛えてきたので!」


 その少年は堂々とした態度で言ったのだった。


 試験内容に異議を唱える男子など、誰1人として見たとことがなかった。

 

 いや、まさかいるとは思わなかった。


「え、あっ……少々……いえ、かなりお待ちください!!」


 急ぎ、学園関係者の間で協議が始まる。


「志願者はあのノット家の跡取り息子ですよ……」

「本来であれば、面接のみ……。それどころか、名前だけで合格の存在。なのに何故、試験内容の変更を希望されて……」

「女子と比べ、鍛える必要のない立場の男子が、通常の試験を突破できるはずもありません。ここはやはり、他の男子と同じく面接のみである説明を……」

「そうね。所詮は、男子だものね……」


 ほとんどの者は、反対意見であったが……。


「王立魔法学園アルテットは、実力主義を掲げています。それを理解した上での申し出なのでしょう。男だから、女だから……そういうことは関係なしに、私は純粋に彼の実力を見てみたいのです」

「が、学園長……」


 学園長である彼女の一言で、特例が認められた。

 

 アークは、女子と同じ試験を受けることになったのだ。

 

 もちろん、合格基準も同じである。

 

 もし、合格基準に達しなかった場合は……。


 学園の関係者全員がアークの試験の様子が気になり、固唾を呑んで見守る中で……。


 筆記試験では、しっかり対策をしてきたのか、すらすら解いており。


 実技試験では、的に傷をつけるというクリア条件大きく超えて、的を破壊するに至ったり。


 面接試験では、見た目に気を配った爽やかな容姿とハキハキとした受け答えで面接官たちを魅了した。


 そして、純粋な実力で学年首席のティアナ・キースに次ぐ、学年2位の成績を叩き出し、合格を勝ち取ったのだ。


「はは、おもしれぇ男だなぁ。アーク・ノットねぇ……」

 

 のちに、担任となるルイスも一部始終を見てそう呟いた。


 やがて、クラス分けを決める時期が訪れると、学園長や教師、今年採用されたばかりの教師たちが話し合いを始める。

 

 特に、頭を悩ませるのが……。


「男子の振り分けですが……」


 学園長が切り出す。

 

 毎年、男子生徒の振り分けは最後に決めているのだ。


 今年の男子の合格者は10人

 といっても、アーク以外の男子は面接のみ。


 クラスはA〜Eまで5つある。

 本来であれば、男子はクラスに2人ずつ、平等に配置するのだが……。


「アーク・ノット……彼は、異質すぎますねぇ……」

「ええ……。男性でありながら魔力量は異常。その制御も完璧で……。まあ、属性魔法を拳で纏っての脳筋な使い方というのも驚きでしたが……」

「それに、四大貴族唯一の男の跡取りでありながら、面接の時のあの柔らかな態度……」

「相槌や笑みを浮かべ、敬語で話す姿に私、思わず見惚れてしまいました……」

「彼と同じクラスになった女子だけではなく、男子までも色々と驚かされることでしょう……」

「同じクラスになった男子と対応の違いで喧嘩にならないといいですが……」


 そうして話し合った結果。

 学園長が口を開く。


「ならば、彼を1人にしましょう。その方が彼にとっても、他の男子にとっても良いでしょうから。両者が安全安心に学園生活を送るためです」


 こうして、特例としてアークはBクラスに男1人として振り分けられることになった。


◆◆


「午前の授業は以上だ! 午後からもビシバシいくからな!」


 ルイス先生の声と同時に、チャイムが鳴り響いた。


 待ちに待った昼休みの時間。

 この時間が嬉しいのは、どんな世界でも変わらないよなー。


「お疲れ様でした、アーク様」

「おう、シェフィもな。さて、ティアナに会いに……」

「ん、いる」


 声のした方に振り返ると、ティアナが立っていた。


「うおっ!? 来るの早いなっ」


 チャイムが鳴り終わって1分も経っていないぞ。


「だって、待ちに待ったアークとのお昼だもん。1秒だって無駄にしたくない」

「そ、そうなのか……」

「それについては、わたしも同じです。アーク様との時間を無駄にするつもりはありません」

「いや、シェフィはいつも俺の隣にいるだろ……?」


 2人とも、妙に気合いが入っている気がするが……。


 何はともあれ、今からは自由時間。

 そんでお腹も空いたし、学園といえば……。


「アーク様。お昼はどうなさいますか? 一度、屋敷に戻ることも許されています。もちろん、外での食事も可能です」

「私は、アークが望むならどこでもいい」

「俺が決めてもいいの?」


 その言葉に、シェフィとティアナが頷く。

 

 まあ、3人でお昼を食べることは確定だし、となれば……。


「じゃあ、行こうぜ!」

「……」

「……」


 途端、シェフィもティアナも口を閉じた。


 えっ……なんでそこで黙り込むの!?



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