第6話 悪役転生したけど、専属メイドは欲しいよな

 夕食を終え、すっかり夜も更けてきた頃。


 俺は、机に肘をつきながら考え事をしていた。


 何を考えているのかって?

 そりゃあもう――真剣な悩みだ。


「やっぱり専属メイドにするんだったら、同年代だよなぁー」


 そう、専属メイドのことだ。


『もう1つは……男は従者を付けないといけない』


 ティアナもそう言っていたことだしな。


 元々、専属メイドが欲しかったからいい機会だ。


 てか、今日の特訓でティアナがやたら俺を見つめてきたなぁ。

 何か気に入らないことがあったのだろうか?

 別に、俺が何かしたわけじゃないしなぁー。


 ただ、あの話で気になったのは、ティアナのという限定的な言い方。


 男女問わず、入学希望者は全員、従者を付けないといけないのではなく、男だけ? なんで……?


 それを考えるのは後回しでいいか。

 

 まずは、従者もとい専属メイドの件だ。


「一応、お金の準備もしとかないとな」


 そう思って、金庫に入っているお金を確認する。

 

 袋の中には、金貨がぎっしり入っていた。

 

 母さんからは月に金貨5枚のお小遣いを貰っている。

 子どもにしては十分すぎる額だが、これでも以前よりは減らしてもらっている。


 俺は外出することが少ないし……つか、何故か周りが外に出してくれない。


 1人で外に行こうものなら、屋敷にいるメイド全員が出てきて止めようとしてくるし……。

 母さんにもすぐ連絡がいくだろう。

 

 外に出てない分、自己鍛錬には集中できているけどさ。

 

 というわけで、あまり金は使わない。

 とはいえ、いつかのためにと貯金していたのだ。


「金貨100枚以上はあるはずだ。もしもの時はこれを使おう。それに……」

  

 公爵家の立場も、うまく利用させてもらうつもりだ。

 せっかくの家柄だ。遠慮する理由はない。


 こっちは破滅フラグ回避と女遊びをするという使命があるんだからな!


 んで……どんな子を選ぶかが決まらないんだよなぁー。


 同年代なのはほぼ確定だ。

 だって、俺は学園に通う予定だし、従者になる子も一緒に勉強してくれた方が何かと都合がいい。


 あと、気軽に話せる友達としての役割も担ってほしい。

 

 でも1番重要なのは、どういうタイプの子か。

 もちろん、女の子を選ぶつもりだ。

 優しいタイプもいいし、ちょっと気の強い子も悪くない。

 おっぱいは大きい方が……。

 いや、スレンダータイプも侮れない……。

 

 って、欲張ったらキリがないな。


「こんな時は頭を休ませよう。風呂でも行くかぁー」


 俺は素早くお風呂セットを用意する。


 我が家の風呂は、さすが公爵家と言うべきか、とんでもなく広い。

 お湯を吐き出すライオン像だって3体いる。

 

 いつか、あのお風呂を可愛い女の子たちで埋め尽くして……ふふふ。


 そんな妄想をしながら廊下を歩いていると……廊下の先にメイドたちが集まっているのが見えた。


 俺は咄嗟に、物陰に隠れた。

 

 って……別に隠れなくても良かったんだけどな。

 メイドさんたちの視線の先にいたのは母さんだし。


 だけど、なんか……。


「お帰りなさいませ、奥様。今日は遅いご帰宅でしたね」

「ええ……少し込み入った話があってね」


 母さんはいつもにこやかな表情をしている。

 その笑顔を見ると、周りの雰囲気が柔らかくなる。

 俺もその1人だ。


 けれど、今の母さんの表情には疲れと……悲しみが滲んでいた。


 それを感じ取ったのか、メイドたちは背筋を伸ばし、言葉少なに待機している。


 そんな緊張感がある中で、母さんが口を開いた。


「明日、孤児院の方へ行ってきます。うちのメイドも何人か連れていきますので、選抜をお願いね」

「「「かしこまりました」」」


 母さんの言葉に集まったメイドさんたちが頭を軽く下げる。


 ふむ……そういえば、俺、母さんがどんな仕事をしているかあまり知らないな。


 公爵家として偉い立場なのは分かるが、それ以外はあやふやだ。


 今まで自分のことで手一杯だったしな。

 

 でも、今は少し余裕もできた。

 そろそろ、自分以外のことも知るべき時かもしれない。


 それに、これは外に出られるチャンスでもある。


 頭の中でやるべきことが固まったので、俺は母さんたちの方に向かう。


「母さん、お帰りなさい」

「アー君〜。ただいま。お出迎えありがとうね」


 俺を見るなり、母さんは微笑みを浮かべた。


 でも、いつものような元気さはなかった。

  きっと、仕事で何かあったんだな。

 

「母さん。疲れているところ申し訳ないんだけど……」

「ええ、分かっているわよ」

「母さん……」


 話が早くて助かる……。


「お母さんとお風呂に入りたいのよね。すぐ脱ぐわ」

「脱がなくていいからっ!?」


 そうだったよ。母さんは俺とお風呂に入りたがるんだよなぁ。


 いくら母さんが美人だとしても、さすがにママと混浴だなんて色々とやばいだろっ。


 俺は咳払いし、真剣な表情を作る。


「ねえ、母さん。俺も明日、孤児院に行きたい」

「アー君、話を聞いていたのね。でもね……」

「分かってる。遊びに行くんじゃない。俺はちゃんと自分の目で確かめたいんだ」

「アー君……」

 

 俺の言葉に、母さんはしばし黙り込んだ。

 その沈黙は否定ではなく……何かを考えている間のものだった。


 やがて、母さんは……ゆっくりと笑みを浮かべた。


「今のアー君ならいい機会になるでしょう。分かったわ。明日は一緒に孤児院に行きましょう」

「!! ありがとう母さん!」

  

 俺がパァァと明るい顔になったのを見てか、母さんも微笑みを深めたのだった。


 

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