第15話 油断禁物夏休み
学校に着くと、玄関で
「おはよう
「おはよう。できたよ。えーっと、なんか、友達以上恋人未満な関係に落ち着きました。ごめんなさい」
「ふふっ。そっか。とりあえずお昼休みにでも詳しく聞かせてもらおうかな」
ぎゃあ。雪の優しい笑顔が怖く見える。慌てながら上履きに履き替えて教室に雪と向かう。教室の扉を開けると、クラスメイト達がにやにやしながらわたしと雪を見てきた。なんかやだなぁと思いつつ席に座ると、わたしと雪の周りを女子達が囲んできた。
いつから付き合ってるのとか、どっちから告白したのとか、根掘り葉掘り聞かれて目が回りそうになった。……雪は嬉しそうだったから良いけどね。
お昼休みになり、教室は騒がしいので、暑いけれど屋上前の空間に雪と移動した。爆速でお弁当を食べて、茜とのあれやこれやを雪に伝える。ベッドの上の出来事は怖くて言えなかったけれど。
「なるほどね。色んな可能性を想像していたけれど、かなり複雑な真実だったみたいだね。でも、あっという間に和解できたのはすごいと思うよ。二人の間には、離れていても揺るがない絆があったことの証明だからね。それは良いとして『友達以上恋人未満な関係』になったのは一体昨日の夜に何が起きたのかな?」
これはもう、包み隠さずに言うしかないみたいだ。嘘をつかれる方が嫌だろうし。全力で謝罪するしかない!
「はい! そんな関係になってしまったのは、わたしが悪うございます! 起床時に茜にベッドの上で後ろからハグされた時に心地良いと感じてしまいました! 拒否せず受け入れて、申し訳ございませんでした! キスはしてませんのでご安心を!」
「ふーん。さすがは愚か者の光ちゃんの親友だねぇ。光ちゃんに彼女がいるってわかったのにそんなことしちゃったんだ。ふふっ。やるねぇ」
「なんか喜んでない⁉︎ 茜のこと狙わないよね⁉︎」
「たぶん」
「一途な雪が好きだったのに⁉︎」
そういうわたしも一途かと言われたらすごく怪しいけれど、雪が茜と付き合うドロドロ展開はわたしは望んでないからね⁉︎
「なんてね。焦った光ちゃんも可愛いね」
ちゅっと頬にキスをされる。こんな時でも心臓が跳ねてしまって恥ずかしい。
「うぅ。……さてさて、花火デートの日程決めようよ。いつが良い?」
照れを隠しつつ、スマホのカレンダーを開いて雪に尋ねる。すると、雪もスマホを手に取ってわたしに画面を見せる。そこにはホテルのサイトが映っていた。ん? 花火は?
「本当は二人で探したかったけれど待ち切れなくて調べちゃった。光ちゃん、遠出の準備はできるかな」
「まさかの泊まり⁉︎ まままままって! え⁉︎」
ホテル⁉︎ 恋人同士で泊まるんだよ⁉︎ 絶対なにか起きるじゃん!
「せっかくの夏休みだからね。遠出の方がテンション上がるでしょ? あ、ちなみに宿泊料金は私が支払うね。絵画展で稼いだお金が役に立つ時がきたよ」
「く……わたしも払いたいけど高校一年生に払える料金じゃなさそう……。バイトしたことないし、財力がないや……。ごめんね雪、ありがとう」
今回はありがたく雪の財力に頼らせてもらおう。そしていつかバイトをして返そう。
「大混雑しなさそうな花火大会を調べたんだ。屋台も色々出店するみたいだよ。どうかな」
わくわくした顔でスマホを操作して花火大会の情報を見せてくれた。夏休みに入って最初の日曜日にあるらしい。もうすぐじゃん!
「うん。すごく良い。この日で大丈夫だよ。なんか緊張してきた……」
「ふふっ。良かった。じゃあ予約しておくね。ホテルから花火も見れるし、浴衣のレンタルサービスがあるからゆったり楽しめそうだよ」
「完璧という言葉のお手本だよ!」
わたしも何かしなくちゃ! ホテル周辺のお店を調べようかな。でも、雪が喜びそうなお店ってなんだろう。運動ができるお店……いやいや、疲れたら花火デートが楽しめなくなっちゃうじゃん。まあでも、変わったお店が良いよね。よし、後でこっそり調べておこう。
「楽しみだなぁ」
「楽しみだねぇ」
「せっかくなら煩わしいことを完全に消し去ってから楽しみたくない?」
「ん? 煩わしいこと? まさか、茜に何かするつもり⁉︎」
実は雪が茜にものすごい嫉妬を向けていて、今にも爆発しそうなくらいに鬱憤が溜まっているかもしれない。その闇の剣で茜に攻撃して闇の雪になるのだ。そして闇の雪はこう言うのだ。『光ちゃんの輝きで、私を消し去って……』と花火が咲き誇る夏の空の下で、儚げに……。そんなバッドエンドまっしぐらの物語は嫌だあぁぁ!
「茜ちゃんを煩わしいとは思ってないよ。『夏休みの宿題』が煩わしいなぁって思って」
「うっ! 頭痛が……」
間違いだらけの宿題を居残りでやらされていた中学生時代のわたしを思い出す。適当にやっても無駄なんだよなぁ。詰んだ。
「大丈夫だよ。私が一緒に手伝うから」
「雪様ぁ! 愛してます!」
雪に飛びついて思いっきり雪を抱きしめる。頬擦りもする。「ふふっ。くすぐったいよ」と金色の髪の美しい少女が清らかな声を上げて笑う。最高の彼女だ。雪が手伝ってくれるなら一日で終わっちゃうかもしれない。あはっ。さすがに速すぎるかな。
「夏休み初日から光ちゃんのお家にお邪魔させてもらうね」
「はい! お願いします!」
***
蝉の鳴き声が、ジージー聞こえる夏休み。雪の制服のネクタイがわたしの左腕と雪の右腕を結ぶ。痛くないけれど、冷や汗が止まらない。
「簡単に逃げられないように私が監視するね。これで絶対に花火デートまでに宿題を終わらせることができるね。宿題の量が私より多いみたいだね。先生も気合を入れて、勉強が苦手な生徒のために特製のプリントを作ってくれたみたいだ。わからない問題はじっくり丁寧に教えてあげるから、まずは自分自身の力で問題を解いてみようか。先生を驚かすためにも、一緒に頑張ろうね。私も光ちゃんの隣で宿題を終わらせるよ。ふふっ。私の右腕に光ちゃんの腕が密着してなんだか胸がドキドキするよ。あれ、光ちゃん。いつかの私みたいに顔色が悪くなっているけれど、大丈夫?」
「思ってたのと違う!」
補習地獄ではなく勉強天国に連れて行かれたわたしは、隣の天使と夜が明けるまで宿題に向き合ったのだった。
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