『綾瀬蒼の物語』-中学生編-

🟪『綾瀬蒼の物語』Season2

― 中学生編 ―

『フィールドの外で、僕らは走っていた。』

Episode1「新たなチーム、新たな背番号」

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🎬SCENE 01：中学校・入学式

（体育館。ざわめく新入生たちの中、蒼がひとり、制服の襟を正して座っている）

ナレーション（蒼・モノローグ）

「中学校という場所は、また“ゼロ”から始まる気がした。

　でも俺は――もう一度、サッカーを始めたくて、ここに立っていた」

（視線の先には、グラウンド。白線とゴールポストが遠くに揺れている）

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🎬SCENE 02：放課後・サッカー部仮入部

（グラウンドでは新入生数十名が並び、顧問の声が飛ぶ）

顧問・川村（声が通る）

「ポジション経験者、前に。未経験者は右へ！」

（蒼は、すっと左に並ぶ）

近くの男子（ヒソヒソ）

「あれ…綾瀬蒼って、小学生の地区選抜だったって……まじ？」

（蒼は聞こえているが、何も言わない。背中を丸めてボールを蹴る準備をする）

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🎬SCENE 03：初練習・1対1

（ボールが並ぶ。軽いアップのあと、顧問が言う）

川村

「1対1、ディフェンスとオフェンス交代でやってみよう。抜けたら1点。

　遠慮はいらんぞ。中学サッカーは“本気”だ」

（蒼は前に出る。相手は2年生のセンターバック・三条 獅音（さんじょう・しおん））

（ホイッスルと同時に仕掛ける蒼。右足のアウトに見せかけて、インに切り返す）

（だが――）

（瞬間、三条が体を入れ、読んでいたかのようにボールを奪う）

三条（無言でパス。軽く息を吐く）

（蒼、数秒立ち止まる。肩で息をしている）

モノローグ（蒼）

「速さも、視野も、フィジカルも――全部、足りなかった。

　“小学生選抜”なんて肩書きは、ここでは、ただの過去だった」

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🎬SCENE 04：夕暮れの帰り道

（蒼が自転車を押しながら、唯の家の前を通る）

（ちょうど塀の上から、唯が顔を出す）

唯

「……ねえ、どうだった？ 初日」

（蒼は一瞬迷うが、無言で親指を立てる）

唯（小さく笑う）

「……へえ。じゃあ、きっと明日も頑張れるね」

（蒼、照れ隠しのように手を振って立ち去る）

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🎬SCENE 05：夜、自室

（ノートを開いて、蒼はサッカーのフォーメーションを描いている）

（ポジション：中盤。背番号：10、そして…小さく“14”）

モノローグ（蒼）

「与えられた背番号は――14番だった。

　トップ下でもエースでもない。けれど、“ベンチ外”ではない。

　俺は、ここからもう一度、“真ん中”を目指す」

（画面、背番号14の練習着に手を重ねる蒼）

Episode2「14歳、止まった時間」

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🎬SCENE 01：試合前・ロッカールーム

（中学サッカー部、初の公式戦。

ユニフォームを着た蒼が、鏡に映る自分をじっと見ている）

モノローグ（蒼）

「“負けたくない”って、いつの間にか言えるようになった。

あの日、14番だった俺は、今日、8番をつけてピッチに立つ」

（東堂の不在、強いチームに挑む蒼の“自分だけの試合”）

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🎬SCENE 02：試合前アップ・グラウンド

（観客席には、唯と母親の姿。

グラウンドは午後の強い光。白線が滲む）

川村コーチ

「蒼、今日お前はボランチじゃない。

トップ下の自由を“コントロール”として使え」

蒼

「はい、任せてください」

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🎬SCENE 03：前半開始・蒼の活躍

（中盤でのカットイン → スルーパス → 先制点を演出！）

（ボールを追いかけ、味方とハイタッチ）

実況部員（放送）

「先制は千波中！キープレイヤーは14番、いや、今日の8番・綾瀬蒼！」

（スタンドで小さく拍手する唯）

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🎬SCENE 04：後半10分・その瞬間

（カウンターの中、蒼がドリブルで持ち上がる）

（目の前、DFが来る…シュートを打とうと右足を引いた――その時）

効果音：耳鳴り／心音が徐々に強くなる

（視界がゆがむ。観客席の歓声が“こもる”）

（足が止まる。蒼の目がブレ始める。片手で額を押さえる）

唯（スタンド）

「……蒼くん？」

（次の瞬間――）

蒼、ピッチの上で崩れ落ちる

スロー演出：

・蒼がゆっくりと倒れる

・ボールが無人のフィールドに転がる

・審判のホイッスルが“遠くの雷鳴”のように響く

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🎬SCENE 05：病院・処置室

（点滴／心電図／酸素マスク）

（唯、母、監督がガラス越しに見守る）

川村（小さく）

「……これは、ただの過労じゃない。

　彼はもう、“無理を重ねる年齢”じゃないんだ」

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🎬SCENE 06：帰宅・自室（夜）

（ベッドの上。蒼がぼんやりと天井を見ている）

（母がそっとドアを開ける）

母

「……病名、わかったって。

“てんかん”…だって。

一時的に運動も、通学も、制限があるらしい」

（蒼、何も答えずに目を閉じる）

モノローグ（蒼）

「“サッカー、できないかもしれない”

そんな言葉が、

全部の音を、奪っていった」

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🎬SCENE 07：唯の手紙（翌日）

（蒼の机の上に、封筒がひとつ）

（中身には唯の文字）

手紙（朗読）

『また走れるって信じてるよ。

　私、蒼くんがボールを蹴るところ――大好きだったから。』

（蒼、手紙を握ったまま、肩を震わせて泣く）

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🎬SCENE 08：次なる場所・紹介状

（玄関先。母が療養施設のパンフレットを持って立っている）

母

「ここなら、同じ病気の子もいる。

無理しないで、“ちゃんと”治すことから始めよう」

（蒼、返事はせず、そのまま視線を落とす）

モノローグ（蒼）

「止まってしまった時間は、誰も巻き戻せない。

でも――その中で、もう一度歩き始めることだけは、できるかもしれない」

（画面暗転。

最後に、ボールがひとりでに転がる音）

⚽️Episode3「さよなら、フィールド」

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🎬SCENE 01：施設の外観・到着日

（療養施設「青凪（あおなぎ）メディカルセンター」）

（正門の前、タクシーを降りる蒼と母。

キャリーケースとスパイクが、ひとつ）

母

「……しばらく、ここで頑張ってみようか」

（優しく微笑むが、どこか言葉が震えている）

（蒼は返事をせず、施設の奥を見つめている）

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🎬SCENE 02：入所オリエンテーション

（室内。リハビリスタッフ・桐生真理子が説明をする）

桐生

「無理をしないこと。焦らないこと。

でも、いつかまた“何かを始めたい”って思えたら――そのときは、教えてね」

（蒼は無言。顔を伏せ、ただ手元の紙を眺める）

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🎬SCENE 03：病室（夜）

（2人部屋。ベッドのカーテン越しに、何かの音）

？？（隣のベッド）

「……お前、サッカーやってた？」

（蒼がカーテンを少し開けると、そこには同室の少年・桐島 智（きりしま・さとし））

（左足をギプスで固定しながら、リハビリノートを見ている）

智

「俺、陸上。ハードルで全国狙ってた。今は、ここの“最速車椅子レーサー”さ」

蒼

「……別に、もうやってない。サッカー。やれないし」

智

「ふーん、じゃあなんでそのスパイク、持ってきたの？」

（蒼、答えられない）

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🎬SCENE 04：施設のリハビリ室・午後

（バランスボールを使った軽い体幹トレーニング。

他の患者たちがそれぞれの運動に集中している）

（蒼は言われた通りにこなしているが、どこか力が入らない）

（スタッフが声をかける）

桐生

「綾瀬くん、きつかったら休んでいいよ」

（蒼、首だけ振る）

（その横で、明るい声）

？？（女の子）

「ねえねえ、あの子新人？ めっちゃ背高くない？」

（蒼が振り返ると、小柄な少女・西野舞子が笑って手を振っている）

舞子

「“元・司令塔くん”、って感じの顔だよねー！サッカーだよね？」

蒼（驚き）

「……なんで知ってるの」

舞子（ニコッ）

「さっき、ノートにフォーメーション描いてたじゃん。隠してたけど見えたよー」

智（後ろから）

「こいつ、なんでも見てるから気をつけろよ。ストーカー体質」

舞子（ふくれて）

「ひどーい！私は“観察眼”って呼んでください！」

（蒼、少しだけ笑う）

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🎬SCENE 05：中庭・夕暮れ

（蒼が一人、ベンチに座っている。

スパイクを手に取り、しばらく見つめて――ゆっくりと靴紐を解く）

モノローグ（蒼）

「もう、履くことはないって思ってた。

それでも……どこかで、

“さよなら”って言えない自分がいた」

（ポケットに入れていた唯の手紙を握りしめる）

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🎬SCENE 06：夜・病室（灯りを落とした後）

（カーテン越しの会話）

智（低い声で）

「なあ、今日の昼――

あいつ、舞子が“走れなくても夢は見れるよ”って言ってたの、聞いてたろ」

蒼（少し間をおいて）

「……夢見るのに、許可っているのかな」

智

「そんなもん、いらねえよ。

けど――“立つ勇気”は、時々、貸してもらわねえと無理だ」

（蒼、目を開けたまま、天井を見ている）

Episode4「知らない空の下で」

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🎬SCENE 01：療養施設・朝の病室

（窓の外、静かな朝の光が差し込む。鳥のさえずり。

ベッドで目を覚ます蒼。顔にかかる光を手で遮る）

モノローグ（蒼）

「起きたときに、スパイクがそばにない朝なんて――

いつ以来だったろう」

（カーテン越しに聞こえる“ストレッチする音”）

智（隣のベッド）

「おーい、寝坊王子。そろそろ朝メシの時間だぞ」

（蒼、渋々起き上がる）

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🎬SCENE 02：食堂・朝食風景

（テーブルを囲む数人の入所者たち。

舞子が明るく喋っている）

舞子

「夢の中でさ、今日はPK戦しててさ。で、蹴ったのがなぜか、たい焼き！」

蒼

「……何のスポーツだよ」

舞子（得意げに）

「“たい焼きシュート選手権”。いつか開催したいと思ってるの」

（周囲、笑いが起きる。蒼も少しだけ口元が緩む）

智（ぽそっと）

「……お前、案外ツッコミ向いてるな」

蒼

「やめてくれ。キャラじゃない」

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🎬SCENE 03：中庭・リハビリ後の時間

（舞子がノートにイラストを描いている。

蒼がその横でペットボトルの水を飲んでいる）

舞子

「ねえ、蒼くんって、サッカーなくなったら何する予定だった？」

蒼

「……考えてなかった」

舞子

「ふふ、即答だね」

蒼

「……俺はずっと、ボールがある世界しか知らなかったから」

舞子（静かに）

「私も。心臓の病気がなかったら――ピアニストになりたかった。

でもね、今は“誰かの夢を応援する人”になりたいなって思ってる」

（蒼、目を伏せながら舞子を見る）

蒼

「誰かの……夢？」

舞子

「うん。“できること”がなくても、夢のそばにはいられる気がする」

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🎬SCENE 04：リハビリ室・午後

（桐生真理子が軽運動を見守る中、智が腕で車椅子を操作）

智

「タイム測ってくれ、記録狙う」

桐生

「いいね、やる気出てきたじゃん」

智（にやっと）

「新入りが来ると、張り合いたくなる性分なんでね」

（蒼、思わず笑う）

桐生

「蒼、今日から“脳トレ”もやってみない？

君、視野広そうだから“戦術ゲーム”向いてるかも」

蒼

「……戦術？」

桐生

「“見る力”は、止まっていても鍛えられるのよ」

（蒼、ほんの少し目を見開く）

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🎬SCENE 05：夜・ベッドサイド

（蒼、ノートを開いている。

ボールはない。フィールドもない。だが、ページにはフォーメーションが描かれている）

モノローグ（蒼）

「“走らなくても、戦える”。

そんな言葉は、慰めに聞こえた。

でも今なら、ほんの少しだけ信じてもいい気がする」

（カーテン越しに、智の声）

智

「おい、明日、舞子が“たい焼きPK”やるってよ。参加確定な」

蒼

「……どこの大会だよ」

（笑いが重なる）

Episode5「蹴らない日々の中で」

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🎬SCENE 01：朝・病室

（窓から差す陽の光。蒼がベッドの上でノートを開いている）

モノローグ（蒼）

「蹴れないなら、見ればいい。

走れないなら、考えればいい。

“止まった時間”を、俺は少しだけ動かせるかもしれない」

（ノートに、昨日のサッカー試合の録画分析が手描きされていく）

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🎬SCENE 02：リハビリ室・午前

（桐生真理子がパスゲームのミニ講座をしている）

桐生

「このプレー、何が悪かったと思う？」

（ホワイトボードに3対2の攻防）

舞子（即答）

「ボールを持ちすぎ！」

智

「ドリブルの選択肢しかなかったんじゃね？」

蒼（ぽつり）

「……味方の左サイドが空いてた。

でも、そこは彼が普段使わない足。信頼してなかったんだと思う」

（周囲、沈黙。桐生が頷く）

桐生

「すごいな蒼。“パスの選択”って、信頼の問題だって気づける人は少ないよ」

（蒼、少し照れたように視線を外す）

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🎬SCENE 03：昼・中庭

（蒼が壁に向かって、リハビリボールでの軽い“リフティング”をしている）

（本物のボールじゃない、ただの布製。でも…）

舞子（驚き）

「うわ、何その技！？サッカー選手ってそんなこともできるの！？」

蒼（淡々と）

「これは…膝で止めて、前に運ぶドリル。誰でもできる」

舞子

「できない！てか、その布のやつでやるとかズルいし！」

（智が車椅子で近づいてくる）

智

「それ、何の意味があるんだ？」

蒼

「……脚の感覚を戻したいだけ。

本当のボールじゃ怖いけど、これは“感覚の練習”になるから」

（智と舞子、黙って見守る）

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🎬SCENE 04：夕方・病室

（蒼がノートに「仮想チーム戦術」を描きながら、独り言）

蒼

「3-5-2のトップ下で動けたら、サイドの負担を減らせる。

でも…今の俺には、そのポジションは“夢”のままか」

（カーテン越しに智の声）

智

「夢って、“そのままじゃ手に入らない”もんだから夢なんだろ」

（蒼、手を止める）

智

「諦めるなら勝手にしろ。でも、俺は――お前がまた走るとこ見たいけどな」

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🎬SCENE 05：夜・中庭ベンチ

（蒼と舞子が並んで座る。星がゆっくり流れている）

舞子

「……昔、走ってたときって、何考えてた？」

蒼

「負けたくない、ってことと、

みんなにパスが通ると気持ちいいってこと。

……それだけだった」

舞子

「今は？」

蒼（少し笑って）

「……蹴らない日々の中でも、

まだ“気持ちいいプレー”のことを考えてる。

どこかで、諦めたくないのかもしれない」

舞子（小さく拍手）

「それが“回復の兆し”ってやつだよ。

立ち上がる前に、心がもう立ち上がってる」

（蒼、舞子の横顔を見て、小さく頷く）

Episode6「再会のタッチライン」

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🎬SCENE 01：病室・朝

（目覚めた蒼が窓の外を見つめる。曇天。静かな空）

モノローグ（蒼）

「もう走らないって、思ってた。

でも、あの中庭で“まだ走りたい”って言ってる自分がいた。

……でも、そもそも――なんで俺、走ってたんだっけ」

（ふとドアがノックされる）

桐生

「綾瀬くん、面会よ。懐かしい人が来てるって」

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🎬SCENE 02：面会室

（静かな室内。蒼が入ると、そこに立っていたのは――）

唯（制服姿）

「……よ。久しぶり、蒼くん」

（一瞬、言葉を失う蒼。思わず立ち尽くす）

唯（やや照れたように）

「私、中学で“新聞部”やってるんだけどさ。

今度、“今を生きる元アスリート特集”っていうの、任されて」

蒼

「元、アスリート……？」

唯（目をそらして）

「……ごめん、うまく言えないね。でも、会いたかったの。

ちゃんと、今の蒼くんに」

（蒼、ゆっくり椅子に座る）

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🎬SCENE 03：屋上・午後

（蒼と唯が並んで座っている。風が強く吹く）

唯

「覚えてる？小1のとき。

蒼くん、ボール持ってグラウンド走ってたの。

誰も止められなくて、気がついたら、みんな見てた」

蒼

「……あれ、最初じゃない。

俺が初めてサッカーやったの、もっと前。

父さんが、仕事帰りに買ってきた“500円のボール”。

庭にゴールなんかないのに、

“入った！”って言いながら芝に向かって蹴ってた」

唯（そっと微笑む）

「じゃあ、原点はそこなんだね。

“入った”って、誰かに言いたかったんだ」

（蒼、目を伏せる）

蒼

「でも、今はもう……“入った”って言えない。

あのタッチラインの外にいるだけだ。

……ピッチの声も、音も、全部遠い」

唯（静かに）

「ねえ、蒼くん。

“入った”って言うためには、ゴールが必要なんじゃない。

“誰かに届く”って思える場所に立ってること、それが大事だよ」

（蒼、はっとして唯を見る）

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🎬SCENE 04：夜・中庭ベンチ

（蒼が1人でスパイクを見つめている。

遠くで舞子と智の笑い声）

モノローグ（蒼）

「始まりは、たった500円のボール。

ただ、それが楽しくて、誰かに見てほしくて、

だから俺は――走った。

今でも、もしかしたら、それでいいのかもしれない」

（そっとスパイクを撫でる）

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🎬SCENE 05：病室

（唯からもらったメモが置かれている）

《次のページは、今の蒼くんに書いてほしい。

サッカーじゃなくても、夢じゃなくても――

“今を生きる君”の言葉が、きっと誰かを動かすから》

（蒼、しっかりとそのメモを見つめ――）

蒼

「……そうか。俺は、まだ“書き途中”だったんだな」

（ノートを開き、空白のページにペンを走らせる）

Episode7「言葉を超えるパス」

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🎬SCENE 01：中庭・朝

（蒼がリハビリ用の柔らかいボールを足元に置いて、1人で軽く動かしている）

（少しずつ、リズムが戻ってきている）

モノローグ（蒼）

「蹴れないボールでも、動かせる感覚が嬉しかった。

誰も見ていない中での、このリズムだけが――今の俺を支えてくれた」

（ふと、ボールが転がり、誰かの足元へ）

（それを拾ったのは舞子）

舞子

「ナイスパス！……っていうのは図々しい？」

蒼（わずかに笑って）

「……いや、受け取ってくれるならそれでいい」

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🎬SCENE 02：リハビリ室・午前

（桐生真理子が新しいリハビリ企画を発表する）

桐生

「今日から、“リハビリゲーム”をやってみましょう。

テーマは“つながる”。ルールは…“話さずに伝える”」

智（苦笑い）

「それ、ほぼ無理ゲーだな」

舞子

「面白そうじゃん。蒼くん得意でしょ、“無言のパス”！」

（蒼、やや戸惑いながらも微笑む）

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🎬SCENE 03：チーム分け・対戦スタート

（ボールは使わない。紙コップ、輪投げ、軽いタオルなどを用いた“連携プレイ”）

（蒼、智、舞子のチーム vs 他の3人のチーム）

（声を使わず、手振り、視線、呼吸で伝え合いながら協力する）

（蒼が小さく指を立てて動きを指示し、智が動く）

（舞子がそれに呼応して軽くカバーリング）

（チームの動きが次第にスムーズになっていく）

モノローグ（蒼）

「言葉がなくても、仲間が動いてくれる。

サッカーも、これと同じだった。

信じて“渡す”。

それを、ちゃんと“受け取ってくれる”人がいる」

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🎬SCENE 04：昼・食堂のテーブル

（勝敗のついたあとの笑い合い）

（舞子が蒼の手に小さな“紙のパスカード”を渡す）

舞子

「はい、今日のアシスト王。

蒼くんに、心のパス賞を授与します！」

蒼（呆れ気味に）

「……なんだよそれ」

舞子

「これは記念だから。今度、もっとちゃんとパス出してよ？」

智（にやっと）

「たぶんそれ、“ラブパス”のほうだな」

（舞子、机をバンと叩いて真っ赤）

舞子

「ちがーーーう！！」

（蒼、笑いながら首を横に振る）

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🎬SCENE 05：夕方・病室のベッドで

（蒼がノートを開き、新しいページに“見えないパス”と記す）

モノローグ（蒼）

「“ボール”がなくても、

“ピッチ”がなくても、

“声”がなくても、

誰かとつながれることがある。

そして、それは――再び俺が“戦える気持ち”に変わっていく」

Episode8「遠くのゴールを見つめて」

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🎬SCENE 01：夜・中庭

（蒼が1人でベンチに座っている。小さなメモ帳とペン）

（遠くの空に街の光がにじんでいる）

モノローグ（蒼）

「“未来”って言葉は、眩しすぎて見えなかった。

ブランクっていう名の壁があって、

誰もいないスタンドがあって、

……でも、俺は今、

たぶんまた、“ゴール”を見ようとしてる」

（手元のメモに書かれているのは：

《17歳で戻るなら、どうするか》の見出し）

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🎬SCENE 02：リハビリ室・午前

（桐生真理子がタブレットを持ってくる）

桐生

「これ、見てみない？去年のU-15代表候補のトレーニング動画」

蒼

「……いいんですか、こういうの。俺、候補でもないのに」

桐生

「候補じゃなくても、サッカーを“観る目”は持てる。

今の君の武器はそこなんだから、誇りなさい」

（蒼がゆっくりと再生する。

スピーディな連携、速い判断、キックの精度）

蒼（ぽつり）

「……全然、今の俺じゃ追いつけないな」

桐生

「でも、“追いかけたい”って、顔に書いてある」

（蒼、少しだけ笑う）

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🎬SCENE 03：病室・午後

（舞子が窓際でイラストを描いている。蒼が黙って近づく）

蒼

「この前、描いてた“たい焼きシュート”……じゃなくて、

今描いてるのは？」

舞子

「“未来の景色”。蒼くんがもう一度、走ってる後ろ姿」

（蒼、びっくりして言葉を失う）

舞子（照れたように）

「私、描くしかできないけど。

でも、その景色を誰かが“見てる”ってわかってたら、

前に進めるって思って」

（蒼、視線を落とす。しばしの沈黙のあと）

蒼

「……ありがとう。

俺、もう一度、自分で描いてみるよ。

“ボールが向かう先”を」

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🎬SCENE 04：リハビリ後・夕方

（蒼が1人でノートを開き、フォーメーションを描く）

（その後、別のページには日付と文字）

《2025年4月》

《目標：17歳でピッチに立つ》

《課題：筋力・持久力・発作リスクへの対処》

《技術：視野の強化・パス判断・戦術整理》

《必要：信じてくれる誰かと、信じられる自分》

モノローグ（蒼）

「夢って言葉は、まだ使えない。

でも、“遠くのゴール”をもう一度見よう。

その先に立てる日が来るって、信じられるようになるために」

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🎬SCENE 05：夜・唯の手紙

（机の上に封筒。差出人は“須藤唯”）

（開けると中には、短い手紙）

《“目の前の相手”に勝つのも大事だけど、

“昨日の自分”に勝つのは、もっとカッコいいと思うんだ。

また、会おうね。蒼くんが、好きな自分でいられる場所で。》

（蒼、しばらくじっと文字を見つめる）

Episode9「ブランクの重み」

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🎬SCENE 01：療養施設・運動エリア（午前）

（人工芝の小スペース。桐生が待っている。蒼はジャージ姿で立つ）

桐生

「準備はいい？今日は“テスト”じゃないから。

ただ、今の自分の“距離”を知る日」

蒼（深呼吸して）

「はい」

（桐生がストップウォッチを構える）

桐生

「3メートル、5メートル、10メートル。

スピードじゃなく、フォームと息づかいを見ましょう」

（蒼、軽く頷いてスタート位置に立つ）

モノローグ（蒼）

「3年ぶりのスタートライン。

“ただ走る”って、こんなに怖かったっけ」

（蒼が走り出す――が、すぐにバランスを崩し、膝から崩れる）

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🎬SCENE 02：リハビリ室・午後

（蒼がベンチに座り、顔をタオルで覆っている）

智（隣に座り、無言でペットボトルを差し出す）

蒼

「……ありがとう。

走れないわけじゃない。

でも、思ってたより、全然“動かない”んだ。

頭の中だけが、“昔の俺”のままで」

智

「……俺さ、言ったよな？

“戻れる”って言ったけど――多分それ、ウソだった」

（蒼、ゆっくり顔を上げる）

智

「けどな、俺、今の蒼のほうが好きだよ。

失敗しても、転んでも、

目を逸らさねぇでいようとしてるから」

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🎬SCENE 03：夜・病室

（蒼がノートを開いている。そこに、舞子が紙袋を持って現れる）

舞子

「蒼くん！これ、プレゼント！」

（袋から出てきたのは、サッカーのミニゴールセットと柔らかい練習球）

蒼

「……子ども向けじゃない？」

舞子

「だって今、蒼くん“サッカー1年生”に戻ったとこでしょ？」

（蒼、吹き出して笑う）

舞子

「できなかったこと、最初からやればいいの。

最初からって、カッコ悪くないよ。

“もう一度始められる人”のほうが、ずっとカッコいい」

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🎬SCENE 04：施設裏・夜・人工芝

（蒼が1人、小さなゴールに向かって軽くボールを蹴る）

（一発目、外す。

二発目、手前で止まる。

三発目、ゴールネットを揺らす――）

モノローグ（蒼）

「もう一度、ここから。

この足で、“今の俺”ができるサッカーを」

（夜風が吹く中、蒼の背中がゆっくりと伸びていく）

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🎬SCENE 05：桐生と病院スタッフの控室

（蒼の映像を再生しながら）

桐生

「ここまで回復した例は多くない。

でも――あの子の“目”は、完全にフィールドに戻ってる」

スタッフ

「じゃあ、将来性は？」

桐生

「“可能性”ならある。

でもその前に、彼が“本気で戻る理由”を見つけられるかどうかです」

Episode10「ボールを蹴る、その日まで」

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🎬SCENE 01：療養施設・運動ルーム（朝）

（蒼がゆっくりとレッグプレスマシンに腰掛け、負荷を確認しながら足を動かす）

モノローグ（蒼）

「誰も見てない。誰も期待してない。

けど、俺はやる。

1ミリでもいい、昨日より前へ――

それだけが、今の“俺の勝負”だ」

（鏡に映る自分を見つめる）

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🎬SCENE 02：食堂・昼

（舞子がスケッチブックを開いて何か描いている。蒼が覗く）

蒼

「それ……俺？」

舞子

「うん、“ボールを蹴るその日”の蒼くん。

まだ見ぬ未来のスナップ」

（スケッチには、後ろ姿でボールを蹴る蒼の姿。大きな空とゴールポスト）

蒼

「……実際の俺、まだ5メートル走っただけだよ」

舞子

「未来は想像するもんでしょ？

現実がそこに追いつくの、楽しみだなって思って」

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🎬SCENE 03：リハビリ室・午後

（桐生がペースト状のプロテインと栄養補助を用意している）

桐生

「筋肉は裏切らない。でも、育てるには時間がかかる。

それでも向き合える人だけが、“戻れる”のよ」

蒼

「俺、本当に戻れると思ってますか」

桐生（即答）

「ええ。“思ってる”じゃない。“そうさせる”つもりよ」

（蒼が目を見開き、小さく笑う）

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🎬SCENE 04：施設裏・夕方

（柔らかいトレーニングボールでリフティングを繰り返す蒼）

（10回 → 14回 → 17回…　失敗してもまた拾い、続ける）

（窓越しに舞子、智、桐生が見守る）

智

「戻ってきたな、あの目」

桐生

「“フィールドにいるときの彼”が、ようやく戻ってきた」

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🎬SCENE 05：病室・夜

（蒼が日記を開いて、静かに綴る）

《今日、初めて20回連続リフティング成功。

でも、昔なら当たり前だったこと。

それでも――“今日の俺”には、大きすぎる達成だった。》

《できなかった時間が、俺を止める。

でも、できた瞬間が、俺を進ませる。》

（ペン先を止める蒼の目が、静かに前を見据える）

つづく。