波を見ていた

台風のめ

波を見ていた



「出ておいで」光の針は目を攫い水の翳りをもう探せない




眠るたび海が描いた淵のゆめ 母の声は波に変わりゆく




ざくざくと霜を砕いたスニーカー 朝の光はまだ届かない




鍋の底にこびりついた甘さだけ捨てきれなかった夜が残っている




ブレザーの襟がきちんと伸びていてわたしの中にわたしがいない




布団にはわたしのかたちのぬくもりと言葉にならない痛みが眠る




にわか雨 傘を忘れて濡れながら光る水まで身をほどこうと




ほどけだす 記号の奥の肉の花 触れれば朝の ひかりが濁る




秒針に合わせて揺れるその文字を 氷に変えて沈ませてゆく




わたしには名もなく過ぎた日があって白い波だけ拍動を置く

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波を見ていた 台風のめ @haruka2525

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