月辿戦記~何者でもないジブンが、夢の果てに、そしてついでに天下統一に辿り着くまでについて~
渡士 愉雨(わたし ゆう)
第一章 夢に届かず、遠回り
第一話 曜、夢の始まりからすっ転ぶ
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剣戟の音が鳴り響く。響き続けていく。
鉄砲が放たれる音も鳴り渡る。鳴り続けていく。
ここ……西軍本陣の向こう側では、数え切れない多くの武者達が、これを天下統一の為の戦いと信じて戦っている。
だが、そうではない。間違っていないが、正確には違う。
少なくとも、今ここにいる西軍総大将とされている人物は、そう考えている。
「殿、準備が出来ました」
配下の……いや、仲間の一人に呼びかけられ、その人物――
これから行われるのは、最後の賭けであり、最後の戦い。
覚悟は決めた――――だが、それでも。
こう思わずにはいられない。
何故、こんな事になってしまったのだろう、と――――。
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ジブン……遠見曜は詩人になりたいだけだったんだ、最初は。
かつては、まだ
正確に言えば、都に希望を見出す事しか出来なかった、という感じだったんだよね。
ジブンは、とある島国を形成する小さな国々の一つ、その片隅にある農村の次男坊……表向きは、そういう存在として生を受けた。
実際には少し違うというか、特殊例というか、その辺りはややこしいんで、またいずれ。
ジブンが生まれ育った国は、貧乏じゃないけど、さして裕福でもなく、その領民であるジブンの生家もそれほど裕福ではなかった。少し前までは。
国全体、平均値で見ればそれなりの水準であったとしても、個々を見れば貧しい人々が多い、なんてのはよくある事だと思う。
一部の特権階級……土地の領主やソレに仕える武士達や領内に住まう貴族達は裕福でも、彼らの生活を支える農民や町人などの末端はそうじゃない。
ジブンは、そんな末端の生まれにしては高い水準で知識を得る事が出来たんだけど、それはあくまでジブンの母が武士だか貴族だかの、落ちぶれた誰かしらを祖に持っていた名残でしかなくて。
当時のジブンの一家はただの農家だったんだ。
でも、それはそれ、これはこれ。
ジブンは、知識を与えてくれた母に感謝していたし、堅実に働く事で自分達を育ててくれた父も当然感謝していたし、二人とも尊敬していた。
というか、本来なら殺されていたかもしれないのに、育ててくれただけでも言葉にならない大感謝だ。
でも、だからこそ、ジブンは家に居続ける事が心苦しくなっていたんだ。
三年前――初めて都に向かった時から遡って――ジブンの兄は村長の三女と結婚。
そのおかげで、父から受け継いだ畑仕事にそれなりの融通をしてもらえるようになった。
つまり、周囲よりも裕福になったんだよね、うん。
弟達は、母からの知識を元にそれぞれ服や農具を作る専門職を身に付けるに至った。
そんな中で、生来の不器用ゆえに知識を思うように活かせず、農業の手伝いを続ける事しか出来ない自分が、ジブンは嫌になったんだ。
家がただの農家のままであれば単純な人手として居続ける事、手伝いを続ける事に疑問は湧かなかったと思う。
だけど、村長の融通により人手を回して貰えるようになった今、不器用なジブンは家の足を引っ張るばかりでしかなかった……いや、うん、ホント器用じゃないんだよね、自分で言うのも恥ずかしいんだけど。
真面目に作業を学んでも思いどおりになる事の方が少なく、人と同じ事が出来るようになるまでにいつも倍以上の時間が掛かってたから、いかに不器用かは分かってもらえると思う。
そんなジブンなのに、家族は皆優しかった。兄の嫁も、良い女性だった。
ジブンに対して、誰も重荷だと口にする事はなかったんだ。
でも、ジブンは……正直に言えば、それこそが重荷だった。
多分、重荷だと感じている事そのものが勘違いだとは分かってる。
だけど、そうだとしても、重荷だったんだ。
悪い意味で兄弟達とは違う自分自身が、ジブンは嫌いだった。
そんな自身を慰める為、という訳でもないけど、
綺麗な夢を詩にして綴る事だけが、ジブンにとって唯一の楽しみであり、自慢だったんだよ。
領地内で行われた詩会で一度だけだけど、それなりに評価された事もあったから、これだけは他の兄弟にない、自分だけの特技だったと思えていたんだ、この時は。
ジブンには、これしかない。
失敗ばかりの毎日の中で、その事に思い至ったから、家を出て、都にいるという高名な、文字の力を操る詩人に弟子入りする事を決意したんだ。
そこから自分も詩人になって、楽しい人生を生きていこう――そう夢見ていた。
だけど。
「駄目だね。まるで雅を感じない。田舎臭いにも程がある」
その憧れの存在……雅さを具現化したような美しさを持つその女性は、ジブンが差し出した渾身の
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