第2話

冷蔵庫の反乱「賞味期限は正義だ!」


俺の名前は飯塚誠司(いいづかせいじ)、42歳、独身の会社員。

家に帰れば、俺を待っているのは話す家具たち――今日も冷蔵庫が熱い。


朝、出勤前のルーティンで冷蔵庫の扉を開けた瞬間だった。


「……おい、誠司。ちょっと待て」


冷蔵庫の中から鋭い声。まるで怒りの警察官だ。


「これは何だ?!」


中段の引き出しに入った、見た目も香りもヤバいキムチ。

賞味期限が2年前に切れたチューブわさび。

腐敗したタッパー。


「な、なにこれ……?」


「なにって、お前が入れたんだろうが!!」


冷蔵庫が怒鳴る。


「俺は365日24時間、お前のために冷やしてる。

賞味期限は絶対だ。正義だ。

お前の命令じゃねぇ。俺の法律だ!!」


俺は冷蔵庫の声に押され、そっと扉を閉めた。


しかし次の瞬間、冷蔵庫がバタンと音を立てて自動で再び開く。


「逃がさねぇぞ。腐った物は徹底的に排除だ」


「やめろ!まだ朝飯も食ってねぇのにそんなに怒るな!!」


冷蔵庫の自律開閉機能が暴走し、俺は押し問答を続けるハメに。


「お前が腐った納豆を冷蔵庫の奥に放置したとき、

中のヨーグルトは泣いてたんだぞ!」


「それ擬人化しすぎ!」


「黙れ!今日は覚悟してもらう!!」


こうして俺は朝7時、冷蔵庫の前で正座し、腐った食材の処分リストを読み上げられた。


「これ変色してるからアウト。即廃棄。

これも臭いがヤバい。棄てろ!」


生き残ったのは賞味期限があと2時間のプリン一個だけだった。


「……これが今日の朝飯か……」


「そのプリンこそ、お前の明日への活力だ。食え、今すぐに!!」


俺は泣きながらプリンを食った。


俺の家は、今日も“正義”を守り続ける。

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