出会い

振り向いたら、THEサッカー少年って感じの男子がいた。そのユニフォームを注視すると、な、な、な、な〜! 中村選手のユニフォームなんだけど!? ってずっと見ていたらバッチリ目、合っちゃった!

「あの、あなたも中村選手推し?」

あら。話しかけてもらっちゃった!

「そうなんですよ。もう、シュートしたら外さない、ってところがかっこよくて! すぐファンですよ!」

「そうだよね! わかるわかる。あのバナナシュートとか良いよね〜。」

めちゃめちゃ気が合うなぁ。

「え、あのよかったら連絡先、交換しません? あと、名前教えてもらってもいいですか……?」

困ったような顔をするお兄さん。やっぱダメだよね……。

「やっぱりムリですよね。ごめんなさい。忘れてください。」

「あっ、いや、イイヨ。交換しよう! 俺は、中野舜なかのしゅん、って言います。よろしくお願いします。」

「こちらこそです。あ、私飯田志帆って言います。」

そう言ってあいさつして帽子をとった彼——中野舜は金髪イケメンだった。こんなイケメンと仲良くしていいのだろうか。

「ちなみに、舜くん、は何歳ですか?」

「俺? 18歳で、高校生だよ。」

「そうなんですか!? 同い年だ……!」

「じゃあ、志帆って呼んでいい?」

「はいっ! もちろん! 私、舜くんって呼んでもいい?」

「もちろん! びっくりした〜。同い年かぁ。」

「私もびっくり。大学生だと思ってた!」

高3かぁ。同い年なのは本当にびっくり。

……ん?

「舜くん、受験は!?」

「俺? もうしないよ。仕事するから。」

「仕事、なのかぁ。すごいな。」

「そーゆー志帆は?」

「私? サッカー関係の仕事に就きますよ。高校卒業したら。」

「志帆も仕事なのかよ……。さっき『すごい』って言ってなかった?」

「冗談です! 指定高校推薦で決まってるんですヨ。」

「へぇ。志帆って……。」

「「「「「きゃーー!!」」」」」

歓声が聞こえ、コートに全集中。ちょうど中村選手がゴールを決めたところだった。

「舜くん! 今の、見た?」

興奮して思いっきり顔をグルンと回す。

「いたっ。」

た、大変。ポニーテールがイケメンの顔に……!

「ごめんっ! 舜くん! 大丈夫?」

謝ってすぐ思いっきり顔を上げると、顔が目の前にあって、鼻がちょん、って一瞬くっついちゃった。イケメンの顔って、すごいくらいに破壊力があるなぁ。

「きゃ〜! ごめんなさい、舜くん! いろいろと!」

「いえいえ。こちらこそ……。」

心なしか、瞬間の顔が赤い気がする……? ま、気のせいか。



 ピーッ

試合終了のホイッスル。やったぁ! 勝った! 中村選手があのあと、もう1点入れたんだよねぇ。

「舜くん、今日の試合、すごかったね! もう、中村選手がかっこよすぎて、何も言えない!」

「ほんとだよ。かっこよすぎだろっ、って叫びそう。マジですごかったと思う。」

「そうだよね〜。……ところで舜くん、お家どこ? 一緒に帰る?」

「ん、いいよ〜。俺ね、目黒区。」

「えっ……。私もなんだけど。最寄り駅も目黒だったりする?」

「しちゃうなぁ……。」

「やばいね。何かの縁でもあるのかなぁ。」

「帰ろ〜。志帆。」

「うん!」

どうしてこんなに仲良くなれるんだろう? やっぱ私、コミュ強かな? いや、自分で言うなよ、って話だけど。

2人とも黙ったまんま。なにしてんだろ〜、って思って、顔を上げる。そしたら……少し汗をかいたイケメンがスマホを見てるんですけど!? 私どうしてこんなイケメンと隣で歩いてるんだ……?

「ねぇ、志帆。いつからサッカー見てるの?」

「えっと……、3歳くらいかなぁ。父親がずっとサッカーやってて。私もその影響でずっと見てたの。たまにやらされてたし。」

「そうなんだ……。めっちゃ早くからやん。」

「そうなんだよ〜。舜くんは?」

「俺は、たまたまサッカー教室に連れてかれて、やってみたらめっちゃ楽しかった、っということで。」

サッカー得意そうだもんね〜。

「あ、そろそろ家着く。舜くんはどっち?」

「俺、そこの一軒家だけど……。」

へぇ。舜くんの家、そこなんだ……。ん? 私の家もそこらへんのはず。違う世界に入っちゃった?

「あれ。ウチの隣?」

「え、そうなの?」

隣の中野さん、って舜くんの家だったんだ……。

「うん。だってウチ、そこだもん。」

そう言って私はさっき舜くんが指した隣の家を指す。

「そうだったんだ……。」

隣の家が舜くんの家かぁ。私、お隣さんと仲が良かった気がする。あ、逆側の人かなぁ?

「舜くんのお母さんってさぁ、理沙さんだったりする?」

私が仲良くしているお隣さんって理沙さんっていうんだけど。

「……え? なんでそれを知って……?」

やっぱりそうなのか。

「あら! 舜、帰ってたの?」

朗らかなソプラノ声が聞こえてくる。この声はまさか……。

「母さん……/理沙さん!?」

2人の声が重なる。

「え? やだぁ、志帆ちゃんじゃないの〜。最近話せてなくて寂しかったのよ?」

「理沙さぁん! ごめんなさい。サッカー見に行ってて……。」

そんな光景を舜くんはポカンと眺めている。あ……、説明したら方がいいのかなぁ。

「母さん……、どうして志帆と仲良いの?」

説明する前に質問されちゃった。

「なんでって、お隣さんだからに決まってるでしょ。そーゆー舜こそ呼び捨てなんかしちゃって。」

「今日仲良くなったの! サッカー会場で席がたまたま隣で!」

「あら、よかったわね。同い年の同じ趣味の女の子が見つかって。」

舜くんってあんなふうにムキになるんだ……。かわいい。

「志帆〜。帰ってんの〜? って舜くんじゃない。」

お母さん。どうしてこんなタイミングで帰ってくるのよ……。

「飯田先生っ! え、志帆って飯田先生の娘さん?」

「舜くんって、お隣さんだったっけ? 知らなかったわ〜。」

「舜くん、飯田先生って……、夏海なつみ学園なの!?」

「そうだよ。俺の担任の先生。」

親同士って会ってる、ってこと?

「飯田先生! ご無沙汰してます。」

「やだぁ。そんな堅苦しいのやめてよ、理沙。」

「しょうがないなぁ。志乃。」

??? 先生と生徒の親って関係じゃないの?

「あれ、志帆に行ってなかったっけ? 理沙とは中高一緒だったのよ。」

聞いてないよ! 情報が多すぎて整理できない〜!

「あ、ウチで食べたく? 今日、たくさん作っちゃったから。」

「久しぶりに話しましょうか! お言葉に甘えるね。」


なんで私は、こんなことになってるんだろう? え? 今日、イケメンに会って、一緒に帰って、家が隣で、親同士が知り合いで、家にお邪魔する? 不思議で仕方ない。

「志帆ちゃん。何か気になることでも?」

「……えっ? 全然、何もっ!」

「あらそう。恋バナあるかな、って思ったんだけど。」

「私に恋バナなんてないですよ。彼氏ほしいですけど。」

その言葉を彼が聞いてるなんて、思いもしなくて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る