第11話 千堂千尋とデートの始まり
「……緊張する」
今日は千尋さんと出かける日である。なんかとんとん拍子に進んだが、どうしてこうなったのか俺にもよく分かっていない。
服は最低限外に出られる程度のもの……無難を極めたようなものしかなく、これで異性と出かけるのはダメじゃないかと家で二時間くらい自問自答した。けれど、千尋さんには一緒に選びたいからと何度も念押しされ……結局迷ったところでもう服はこれしかないので諦めた。無難だけど、奇抜な格好ではないしな。
そんなこんなで向かった先は駅前の公園。何かと待ち合わせ場所に使われるところだ。
九時半に約束しているが、現在は八時過ぎであり八時半には着く計算だ。
……めちゃくちゃ早い気もするが、何かがあって遅れるよりは良いだろう。
それから何事も起こらず駅に着いて――目を疑ってしまった。
千尋さんが居た。日傘を片手に、どこかそわそわとしながら。
やはりというべきか、彼女はかなり目立っていて……遠目ながらに彼女だと分かるほどのオーラがある。
その瞬間――彼女に近づく二人の男達に気づいた。
ナンパだと気づいたのは、彼らに話しかけられて千尋さんがため息を吐いてからである。
今気づけて良かったと心の中で呟きながら彼女のところへ向かう。
「でもさっきからここ居るっしょ? 近くで涼まない? 俺らもそうしようと思っててさ」
「いえ、必要ありません」
「まあまあ、俺達心配してるんだよ? 最近暑いし、君高校生でしょ? 奢るよ? その代わり、ちょっとお喋りに付き合ってくれたら――」
「すみません!」
まだ少し離れたところから声をかける。注目を集めるが、そんなこと気にしない。
「暁斗!」
「彼女、自分と待ち合わせしていたんです」
「あ、そうだったの? ダメだよー? 彼女待たせちゃ」
「ま、それなら行くかー」
即座に千尋さんの手を取ると、あっさりと男達が引き下がる。
おや? と思う間にも、二人は去っていった。
「……もしかして善意から声掛けしてた?」
「ううん、下心ありきだったよ。目を見たら分かったもん」
一方的に悪者にしてしまったか……と思うも、千尋さんが隣でそう言ってくれた。
「ああいう善意を装って、っていうのも多いんだよ。……本当に善意で声掛けしてる人に失礼だと思わないのかな、って思うけど」
「確かにそうだな……っ、ご、ごめん。ずっと手繋いでた」
言葉を返す途中、ずっと千尋さんの手を握っていたことに気づいて手を離す。
けれど、千尋さんはなぜか不機嫌そうな顔を見せた。
「……気にしないでいいのに」
「い、いや、そういう訳にも……ほら、もう暑い時期だし」
「それは……そうなんだけど」
あんまり良くなさそうな顔をしながら千尋さんがそう言って、ふぅと気分を切り替えるためか息を吐いた。
「色々話したいことあるんだけど……早かったね?」
「それはこっちのセリフなんですが。千尋さん、何時からここに……?」
「ち、ちょっと早く目が覚めちゃって。き、来たのは三十分前くらいかなー?」
「八時……ってことは待ち合わせの一時間半前……」
想像以上に早く来ていた。俺も人のことは言えないんだけど。
千尋さんが小さく咳払いをして、それから頬を赤く染めながら俺を全体的を見てくる。
「そ、それより暁斗。服、良い感じだね。学校ではあんなこと言ってたけど」
「……まあ、無難な服だから悪い訳ではないんだ。でも、今日みたいに千尋さんと一緒に居ると分かるというか」
話が逸らされたものの、まあいいかと自分と千尋さんを見比べる。
「千尋さんは綺麗だし、服選びのセンスも良い。自分の武器が分かってるというか、魅力が最大限に伝わってくる」
今日の千尋さんは白のブラウスに、落ち着いた紺色のロングスカート。そして、髪は一つに束ねたポニーテールとなっている。
……俺は服を知らなさすぎるんだが、それでも千尋さんが凄まじく服のセンスが良いということくらいは分かる。その隣に居ると、俺が悪い意味で目立つのだ。
知識がないのにちょっと上から目線な発言になってしまったかと後になって気づくも……千尋さんは頬を更に赤くしながら、ずいと顔を寄せてきていた。
「も、もっと詳しく聞いてもいい?」
「ん、え? え、えっと。上品な感じとか、清楚な感じとか……でもそれでいて、凄く大人っぽいというか」
決して露出は多くない格好だが……スタイルの良さは際立っている。さすがにそれを直接言うとセクハラにしかならないので、遠回しに伝える。
「ふ、ふーん。そっか。そうなんだ……二時間くらい悩んだけど、攻めすぎなくて良かった」
「……千尋さん?」
「は、はい! な、なにかな?」
「そろそろ行こうかと思って。目立ってきてるし」
独り言が全部聞こえていたが、深くは突っ込まないようにそう提案する。実際、周りから視線が集まってきていたし。
「そ、そうだね。まだ時間あるし、美容院の近くに落ち着いたカフェがあるからそこ行こっか」
「分かった……千尋さん?」
歩き出そうとした時、照りつける太陽の日差しが遮られた。隣を見れば、千尋さんが手を伸ばして日傘を持ち上げ、中に俺を入れていた。
「ひ、日差し、最近は凄く暑いから。一緒に入ろ」
「お、俺のことは気にしなくても――」
「私が気になるから。……暁斗なら、近くても嫌な感じしないし」
そう言って千尋さんが体を寄せてきて……ふわりと、甘い匂いが鼻を通って脳をくすぐった。
「それに、こうした方がさっきみたいな人達が来なくなるだろうし」
「それは……そうか」
「そう! だから、一緒に入って行こ」
「……分かった」
そこまで言われて断る理由はなかった。
「じゃあ日傘は俺が持つよ」
「あ、うん。ありがとう」
「ありがとうはこっちのセリフなんだけどな」
「ふふ、どういたしまして」
にこやかに微笑む千尋さん。まだ頬は赤いけど、暑いからだと思っておこう。
そうして――千尋さんと二人でお出かけが始まったのだった。
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