誰でも受け入れるって言ったよね? ~平和を目指して建国したら、世界の脅威に認定されました~
AKISIRO
第1話 異世界に漂流しました
俺様の名前は澤島アギト。
この世界から“善と悪”をぶっ壊して、“ただ普通の平和”を築いてやる。
そう、本気で思ってた。
高校に通いながら裁判を傍聴し、刑務所の更生プログラムに参加し、加害者とも被害者とも対話を繰り返す。
普通の高校生がすることじゃないって? 知ってるよ。でも、やらなきゃ気が済まなかった。
父は苦笑いしながらも応援してくれた。
母には止められた。あたり前だ。
俺様は、いじめられてるやつを見たら、いじめてるやつにも手を差し出す。
そんな、めちゃくちゃな人間だと、周囲には思われてる。
今日も、そんな普通じゃない俺様の普通の一日が始まる──はずだった。
だが。
空を見上げると、真昼なのに太陽が黒く欠けていた。皆既日食。
そして次に見えたのは。
森と草原。見渡す限りの、緑。
「……は?」
制服の袖を叩いて、目をこすって、深呼吸をして
いやいやいや、おかしい。俺様はさっきまで高校に入ろうとしてたんだぞ。
でも今、俺様が踏んでいるのは野原。
「は?(二回目)」
とりあえず、歩くしかない。草を踏みしめて一歩ずつ進む。
【レベルアップおめでとうございます】
【レベル1 → レベル2】
「は?」
脳内に響く、明らかにゲームっぽいシステム音。
雑草を踏んだだけで、レベルが上がる世界だって?
【レベル2 → レベル3】
【新スキル獲得:マップ、烏の目、伐採、草刈り】
マップを発動すると、手のひらにホログラムのような地図が現れる。
「すげ、ゲームみたいだ」
地図によると、ここは《エアロフーバ》と呼ばれる島。北海道の半分ほどの大きさ。
次に「烏の目」を使うと、島中に飛ぶカラスの視界を借りられる。さらにそのカラスを遠隔操作まで可能……?
もはや偵察ドローン。
伐採スキルを使おうとしたが、道具がない。仕方ないので、頭の中に話しかけてみる。
「あのう、アナウンスさん?」
【了解。使いの者を派遣します。アナウンスは一方通行ですので、以後お忘れなきよう】
白煙がぽふんと噴き出す。現れたのは、真っ白な──猫。
「あたしはティータ、魔法猫よ。これからよろしくにゃ」
「魔法猫?」
「質問があるなら、今のうちにどうぞにゃ!」
「じゃあ、伐採スキルって、どうやって使うの?」
「よき質問にゃ! 右手を構えて、木を切るイメージにゃ!」
言われた通りにすると、右腕が刃に変化し、目の前の巨木が真っ二つに!
「な……!?」
続けて草刈りスキルを試すと、指先から透明な刃が現れ、草を撫でただけで根こそぎ刈り取られていく。
これ、完全に武器だ。
「ティータさん、俺様はなんでこの世界に来たんですかね?」
「ふむ……転移者は、たいてい何かをやりたいから呼ばれるにゃ。君は何を望んで、何を作りたいにゃ?」
頭を掴まれるような感覚に襲われながら、俺様は考える。
──思い出すのは、いじめ。
暴力。無関心。戦争。奪い合い。宗教の違い。民族の違い。
そして、変えようとしたけど、変えられなかった現実。
そうだ、俺様は──
「自分で国を作りてぇんだ。誰もが平和に暮らせる国を。善も悪も関係ねぇ、受け入れる国を」
「それだにゃ! その言葉、忘れるでないにゃ!」
ティータは大きくうなずく。
「この島には、知的生命体が多数存在するにゃ。かつて王国があったが滅びたにゃ。
アギトくん、あなたにこの島の“王”になる資格があるのなら……見せてみなさいにゃ!」
俺様は目元を押さえた。
涙じゃない。ただ──やっと、生きる理由が見つかった気がしただけだ。
日本のニュースで地団駄を踏んだ日々。
すべては繋がっていて、だから壊れていく。
「なら作ってやるよ。
俺様が、俺様の手で、誰も拒まない国をな──!」
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