夢の中へ出すっ
祭りだ。
それが始まった。
「すげえやっ」
あなたたちは思わず歓声を上げた。
熱気が凄かった。まるで同性愛者の性行為みたいだった。汗と汗が辺りに飛び交った。
これが犯罪ではないなんて信じられなかった。
(……もしかしたら犯罪かもしれない)
一瞬そう思った。だが思わなかったことにした。自分で自分を騙すことにした。そういった機能があなたたちには最初から備わっていた。
みんなきらきらと輝いていた。なかよし四月号の付録みたいだった。とんでもなく豪華で中身なんて必要なかった。
このままこんな状態が続くのなら生きることはなんて素晴らしいのだと勘違い出来た筈だ。
けれど祭りは終わった。
「えー、今回の祭りはこれで終了いたします」
スピーカーからの割れた不明瞭な声。
呆気なく終了した。
このような興奮と刺激に満ち溢れた出来事は一時的なものでしかないのだと通達された。今は脱力気味に皆で後片付けなどをしている。
(……あの熱狂は何処へ?)
あなたたちは思った。
参加者たちの一部はそれぞれの家へ歩いて帰る最中だった。もちろん皆、俯いていた。これからまたなんの面白みも無い毎日が繰り返し訪れるのだ。
そしてこれが太郎くんや花子さんの物語だった。
……おれ?
おれではない。
おれはまだこの小説に登場していない。
おれは太郎でも花子でもない。そんなぼんくらみたいな名前ではない。
おれの名前は鬼龍院光牙。
今は無免許で肺呼吸をしている。
おれは他人の祭りには参加しない。
だからそれが始まろうが終わろうが知ったことではない。
人々が群れを成し興奮するような事象に対して常日頃から軽蔑の眼差しを送っているのだ。
「鬼龍院くう〜ん」
幼馴染の如月香織が乳丸出しで朝、駆け寄って来た。
多分、覚めない夢が始まるのだと思う。
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