ナチスと乳首と10万円

深夜の配信から次の日


「――あれ?さっきの振込、1万円…? こっちは5千円…!?」


画面をスクロールするたびに、振込通知が次々と表示される。


あらかじめ作っておいたブログに

乞食をするために口座を載せといたおかげか

合計で10万円超の“おひねり”が集まっていることを知った瞬間、

胸の痛みも股間の違和感も一瞬で希釈されてゆく。

目の前に転がる諭吉の束を前に、星凪の表情は初めて“笑顔”を見せる。


「これなら食費も家賃も探偵だって雇えて‥それで元の、体だって‥」


しかし、次の瞬間、

かつての風見 コウ(26歳)自分の記憶がフラッシュバックする。


令和で人生を終え。

平成の時代に転生して人生2度目の強くてニューゲームだったはずなのに

大学を中退し、同級生が就職や結婚を語る中で取り残された劣等感。

コンビニの夜勤で味わった孤独な時間。


女になって、ほんの数日の間に得た金額が、かつて1か月分働いてようやく

手に入れた給料を超えている

星凪は束の間、部屋の窓際に立ち、夜風を浴びながら自問自答する


「これでいいじゃないか」


今ここで毎日とは言わずも、配信を続ければ間違いなくファンが付く

仮に年が来て、容姿が衰えてもそのころにはVチューバーが流行り出すはず

そうすれば、生配信の経験と前世と現世に社会人経験があれば。

大手の事務所とは言わずもどこかの事務無所に転がり込め……



「‥‥バカバカしい」


テーブルに戻り動画の切り抜きを、別の動画サイトに上げるため編集を始めた。

一瞬だけ考えてしまったあり得たかもしれない都合の良い未来を

創造した自分に嫌気がさす


次の日の深夜


「元・男子26歳、強制K化♡ゲーム配信にようこそ!」


[名無しさん]脱げ

[名無しさん]お前そういう生主じゃないだろ、持ち味を生かせ

[名無しさん]元男の癖に乳首隠すな、出せ

[名無しさん]カメラ下に向けろ


「脱がないし、出さないよ☆」


前の配信でかなりバズったらしくどうやら俺が脱ぐのを求める

コメントが多い。しかし俺にも多少の尊厳はあるし

やり過ぎればチャンネルが消される可能性もあり、うかつに配信することはできない


「まあ、ちょ~とだけなら」


視聴者を引き止めるためにも仕方なく、首まで上げ切ったパーカーの

ジッパーに手を掛け、ゆっくりと下に下げていく

ある意味では他人の体であることと、自他ともに認める容姿の良さから

付いた圧倒的自身はよりいっそうに蠱惑的に見せる。


「…ねぇ待ってこれって、これってだんだん過激になって

最後は誰も見なくなるやつじゃね?」


ジッパーを摘みゆっくりと下ろし鎖骨が見えるとこで

手が止まり、ニヤリとしたいやらしい目から、

正気に戻り視聴者に問い掛かる


[名無しさん]うわぁ!いきなり落ち着くな!

[名無しさん]いいから脱げ話はそれからだ

[名無しさん]499999

[名無しさん]やっぱコイツキャラが安定しないな

[名無しさん]↑生理でしょ

[名無しさん]若いからできることだゾ

[名無しさん]↑元おっさんだぞ


「オッサンじゃねぇーぞ、とにかく配信の趣旨が変わらないうちに

ゲームを実況はじめまーす!」


「じゃあ今日の遊ぶのはこれ!『トランス・ライヒ2000』

‥‥ひっでタイトルだなおい」


[名無しさん]なにそれタイトルやばww

[名無しさん]もうお前キャラ作んな


「何このB級映画のタイトル、ライヒって!ドイツ語だぞ!?」


パケージの裏を返せば作られたのは1999年に作られたゲームであるようだ。

誰も買わないであろうゲームのなのであらすじを読み上げる


「1944年ナチスの秘密の研究所で作られた人の魂を未来に送る転生装置が開発

されていた!そして1945年の4月ヒトラーの魂は20xx年の5月ヒトラーの魂ここ

日本で読みがえろうとしていた!、第3帝国の野望を事前に察知したFBI職員

ジョン・スミスはナチスの卑劣な野望を打ち砕く!」


[名無しさん]あらすじが酷い

[名無しさん]B級において、とりあえずナチスとFBI書いとけ感

[名無しさん]漂うようクソゲー臭

[名無しさん]星凪、それFBIやない。CIAや。


「まあとりあえずプレイしていきましょう!」


ゲーム機にディスクを挿入してプレイを始める。

起動すると、古臭いドット絵のオープニングが流れ会話が始まる。

ゲーム内では、スーツを着た男と思わしきキャラが捕まっている。


「ねぇこれセリフ読まなきゃダメ?」


[名無しさん]読め

[名無しさん]誠意を込めて声当てしろ

[名無しさん]脱げ


「だっるー、あと脱がないから」


出てくるセリフを読み上げるのは面倒だな思い

淡い希望を持ち視聴者に聞くも拒否されてしまい

なくなく音読を始める。


「ネズミが入ったと思ったらまさかアメリカ人だとはな」


「何が目的か知らんが我々は貴様に屈するつもりは無い!」


「クク貴様がこれごときで屈すると私も思ってはおらんよ

貴様をこの転生装置の誉ある第一号被験者にしてやろう!」


「ク!、何をするやめろ、いっそ殺せ」


主人公であろう男は巨大な装置に入れられ、装置は轟音と光を放つ

人が収まっていた機械が煙を出しながらゆっくりと開く。


「いやそうはならんやろ。何このなろう系とB級欲張りセット」


装置から出て来たのは

スーツは黒いセーラー服に変わり

短く揃えられた金髪とサングラスは無くなり

かわりに腰まで伸びる黒髪の女が装置から出て来たのだ


[名無しさん]wwww

[名無しさん]スーツ何処行ったwww

[名無しさん]なろう系てなんだよwww

[名無しさん]声もいいってコイツ無敵か?

[名無しさん]元男ってお前のことじゃんwww


あまりのとんでも展開にあっけにとられる。

気を取り直しゲームを進めていき、

最終面まで進むと黒い軍服のボスキャラが計画を話し出す


魂が一度抜け再定着する過程で、通常の人体にない復活適性を

獲得しこの特性を持つ肉体のみを触媒として必要なんだとか


そして最後はなぜか女体化したヒトラーと戦いエンディングに入った。


「え~なんか、すがすがしいほどのB級映画でしたね」


[名無しさん]何この、なに?

[名無しさん]作ったやつが日本人なのは理解できた。

[名無しさん]お前の声が意外とよかった

[名無しさん]結局なんで女体化した理由は一切説明なし。


「え~とりあえず、最後までご視聴ありがとうございました~」


ゲームを終え、配信を閉じた。


「女体化、転生…まさかな」


自身の置かれた状況と似てる状況と一致することが

配信が終わりその場伸びをして、ついさっきのゲームを設定を

思い出し、半信半疑で検索を掛けてみる。


「フィクションにしては一致しすぎてる」


【ナチス 人体実験 蘇生 転生】


「まじかよ」

検索をした星凪が検索結果を見て驚きの声を上げる


【もしかして?:Transitasylatorトランジタジールアトル 】

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